不動産投資の規模が大きくなってきたら、法人化を検討してみる、という人は多いと思います。ただし法人化するにはベストなタイミングがあり、自分の状況をきちんと把握する必要があります。まずは不動産投資で法人化に関する知識を深めることから始めてみましょう。

目次
不動産投資における法人化とは
不動産投資で法人化するメリット
 ・不動産投資で法人化するメリット①損失の繰越控除ができる
 ・不動産投資で法人化するメリット②経費計上できる範囲が広がる
 ・不動産投資で法人化するメリット③青色申告を選択できる
 ・不動産投資で法人化するメリット④所得分散で税が抑えられることも
 ・不動産投資で法人化するメリット⑤減価償却費が任意償却できる
 ・不動産投資で法人化するメリット⑥短期売買の場合は個人よりも税率が低い

不動産投資における法人化とは

不動産投資は、不動産会社に限らず個人でも行うことができ、サラリーマンが本業の合間に収益物件の運営をするケースも増えてきました。ただし、不動産投資を開始すると年度末の確定申告が必要になり、利益が出ている場合は所得税を納税しなければなりません。所得税は累進課税のため、利益が多くなればそれだけ所得税額も増えていくことになります。

そこで、不動産所得が多い投資家は、税金対策のために法人化の方法をとっているケースがあります。例えば、サラリーマン投資家が本業となる勤務先企業の許可を取り、「働きながら不動産会社を経営する」といったケースです。法人化する理由としては、個人で支払う所得税よりも、法人税のほうが納税額は低くなる場合があるからです。

それでは、不動投資で法人化する具体的なメリットとデメリットを見ていきましょう。

不動産投資で法人化するメリット

不動産投資で法人化するメリットとデメリット、タイミングや方法について
(画像=『RENOSYマガジン』より引用)

一般的に、不動産所得が800万円を超えるあたりから法人化をした方がメリットが多くなると言われています。

個人に対する所得税等は、所得が多ければ多いほど税率が上がり、最高で55%まで上がります。法人に対する法人税等は中小法人では利益が800万以上の場合、普通法人では利益に関わらず原則一律で約23%です。

個人の課税総所得金額が800万円程度になると、所得税等と法人税等が逆転するのです。

例えば、個人の課税総所得が850万円の場合、個人の税率は所得税と住民税をあわせて33%になるのに対し、法人の税率は法人税や法人事業税の軽減税率の効果もあり、法人税約23%のほか合わせて実効税率で20%台後半となります(2018年度東京都の場合)。

不動産投資で法人化するメリット①損失の繰越控除ができる

法人化のメリットが最大限発揮されるのは、不動産投資事業で損失(赤字)が出たときです。個人の場合、繰越ができる期間は3年間である一方で、法人の場合は10年間繰越すことができます。

事業開始直後の場合は赤字が出ることが多いです。赤字を出してしまった場合、青色申告でその損失は10年以内(平成30年4月1日以後開始の事業年度からの繰越し期間)に繰り越して、次年度以降の所得から差し引くことができます。損失を差し引くことで、法人税を抑えることができるというメリットがあります。

個人と法人では、この繰越控除の期間に違いがあります。個人の繰越控除期間は3年なのに対し、法人は、平成30年4月1日以後開始した事業年度からの繰越し期間は10年繰越控除されます(税制改正により繰越できる期間が増えています)。

不動産投資で法人化するメリット②経費計上できる範囲が広がる

不動産投資で法人化するメリットとデメリット、タイミングや方法について
(画像=『RENOSYマガジン』より引用)

法人化すると個人の場合のときより経費として計上できる範囲が広がります。

保険料は、個人の場合、生命保険や個人年金を合わせて12万円までしか経費計上できません。また生命保険だけではなく、個人年金、介護医療保険も合わせ、それぞれで4万円ま でという決まりがあります。

しかし法人の場合には、上限がありません。法人でいわゆる節税生命保険に加入した場合、保険料を払った年に計上できるのは原則として支払った額の50%、保険料が実際に支払われる年に50%を計上することが可能です。

保険料のほか、次のような項目を経費計上することができます。

  • 役員報酬
  • 退職金

家族を役員にして役員報酬を支払った場合も、経費として計上することができます。退職金も同様です。

不動産投資で法人化するメリット③青色申告を選択できる

不動産投資による確定申告で、「白色申告」にするか「青色申告」にするかの基準として言われている規模の目安があります。 目安となるのは「5棟10室」です。戸建なら5棟、アパートやマンションなら10室の貸付数があれば、「事業的規模」と認められます。 もちろん事業的規模に満たない規模の場合でも青色申告を選択できますが、その場合には青色申告のメリットが大幅に制限されることになります。

一方、法人税では青色申告のメリットは事業規模にに関係なく、青色申告を必ず選択しなければいけません。

不動産投資で法人化するメリット④所得分散で税が抑えられることも

青色申告を行う個人事業主の不動産オーナーが、不動産管理業務について法人を設立してその業務を家族に手伝ってもらう場合、家族に給与を支払うことができます。

その家族に払われる給与は個人の不動産所得計算上、必要経費扱いにでき、適用される所得税率の高いオーナーの不動産所得を所得税率の低いオーナー家族へ分散でき、一般にオーナー家トータルでの税金を低くすることができます。

不動産投資で法人化するメリット⑤減価償却費が任意償却できる

減価償却費とは、その不動産購入代金を数年間に分割して毎年経費化していくという考え方です。減価償却費は建物の構造ごとに法律で定められた耐用年数があり、耐用年数により償却率が異なります。建物の価格に償却率をかけて割り出された金額が減価償却費となります。

個人の所得税では、毎年必ず減価償却費を計上しなければいけません。しかし法人の場合は任意償却が許されており、利益に応じて減価償却費は自由に設定できるようになっています。

赤字の時は減価償却費を少なくしたり、黒字で利益が大きい時は最大限計上したりと、状況に合わせた調整を行えるというのは、大きなメリットといえるでしょう。

不動産投資で法人化するメリット⑥短期売買の場合は個人よりも税率が低い

不動産を売却した場合、その所得に税金がかかるというのは、個人も法人も同じです。しかし、短期で売却してしまった場合は、個人よりも法人の方が有利です。

というのも、個人の場合、申告分離課税扱いとなり、不動産の保有期間が5年以内に売却した際に得た所得は、「短期譲渡所得」となり、税率が30%になります(他の所得とは分けて課税される「分離課税」)。所得税と住民税を合わせた税率は39%となります。

これに対し法人は、総合課税・分離課税といった扱いはなく、税率も通常の法人税率と同様に計算されるため、個人より税率は低くなります。

ただし、所有期間5年以上経過して保有する物件を売却する場合は、個人の税率は20%と法人よりも低くなります。売却の予定がある人はどちらがメリットが大きいか、考えてみてください。