【もう一匹のボブ】

 私にはもう一匹、ボブという名の忘れられない猫がいる。

 こちらはロンドンのボブとは違い「THE野良猫」といった風貌で、お世辞にも端正とは言い難い顔立ちをした黒猫だ。多くの捨て猫がいる通称「猫山」で暮らすボブには、付かず離れずいつもさりげなく行動を共にする黒猫がいた。数カ月間、猫山に通い猫達の世話をする中で、私は見るからに高齢で体調も悪そうなその黒猫を家族として家に迎え入れることを決めていた。

 保護当日、長らく共に過ごしたであろうボブと山に別れを告げ、黒猫は私とともに家路に着いた。そして、翌日、猫山に行きボブに会った後の帰り際のことだった。「じゃあまた明日ね」と声を掛けると、いつもはあっさり姿を消すボブが、後を付いてきて離れようとしない。そのつぶらな目は何かを訴えかけているようで心がざわつき、思わず「ごめんね」という言葉が口をついて、足早にその場を去った。

 駐車場に続く階段を駆け下り、踊り場で立ち止まって振り返ると、ボブが後を追ってきていた。その日は、後ろ髪を引かれる想いで山を後にしたが、その後もモヤモヤした気持ちが消えることはなかった。前日、仲間が去る様子の一部始終を見ていたボブ。仲間に会いに行こうとしたのか、或いは、自分も家族として迎え入れてほしかったのか、その真意はわからない。

 それから数か月後のある日を境にボブに会えなくなり、その後二度と姿を現すことはなかった。強面に似つかわしくないコロコロしたフォルムと子猫のようなキュートな高い鳴き声。喧嘩っ早くて、年中雌猫を追掛け回すけど、どこか憎めない愛嬌者。最後に見掛けた時、体調が悪そうだったことが、今も小さな棘のように心に引っ掛かっている。それでも、ボブと共有した楽しいひとときの記憶は、この先もずっと心の中から消えることはないだろう。強面のボブ、いつの日か虹の橋のたもとで私を待っていてくれるだろうか。(tarojiroko)

提供元・BCN+R

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