愛するがゆえの葛藤
当時、その日の暮らしもままならなかった頃、生計を立てるため路上に立つジェームズとボブは、その姿を動物福祉担当職員に目を付けられ、引き離される危機に直面する。職員に問い詰められ、自分と一緒にいることがボブにとって本当に幸せなのか、思い悩むジェームズ。これは、愛する存在を失った経験を持つ誰しもが抱える葛藤であり、観ているこちらも揺れ動くジェームズの感情に引き込まれていく。この最大のピンチをふたりはどう切り抜けるのか?
今回、ふたりを取り巻く登場人物が実に個性的で愛情深いのも見どころだ。行きつけのコンビニのインド人店主が語る「三人の巡礼」の話も印象深く心に残った。クリスマスシーズンのロンドンの街並みは煌びやかで、観ているだけで胸が高鳴る。他方、イギリスが抱える差別や格差などの社会問題も織り込まれ、考えさせられる部分もある。
ボブが遺してくれたもの
どん底生活を送る中、ボブは「毎朝起き上がる理由」を与えてくれた、とジェームズ本人がインタビューで語っている。人間は、自分よりも大切な存在を得ることで、自分のことも大切に思えるようになるのだろう。ボブを救ったジェームズは、実はボブに救われたのだ。では、ジェームズは単に運が良かっただけだろうか? 私にはボブが自分で選んでジェームズのもとに現れたように思えてならない。幼い頃から猫好きで、傷ついたボブを放っておけなかったジェームズの優しさが運を引き寄せたのかもしれない。
そんなふたりの絆は世界中の何百万もの人々を勇気づけ希望を与え続ける。前作をご覧になった人も、そうでない人も、スクリーンを通じてボブが遺してくれた贈り物を是非受け取って欲しい。今、こんな世の中だからこそ、猫好きのみならずひとりでも多くの人に観てもらいたい良作となっている。
ボブの魂よ、どうか安らかに。