多くの男性が国境で妻や子供たちと別れを告げているシーンが至る所で放映されていた。鉄道でポーランド入りした若いウクライナ女性は、「夫はキエフに残っている」と述べ、涙を流した。ルーマニアに逃げたウクライナ人女性は、「父親と母親が、自分たちはここに留まる。お前は子供を連れて逃げろ、と言った」といい、残してきた老いた父母を思いだして涙した。

欧州各地でウクライナ支援キャンペーンが広っている。支援金は短期間で多く集まった。ドイツ人の家庭は逃げてきたウクライナ人を迎え入れるために車を国境まで走らせた。

なぜだろうか。①でも②でもない、もう一つ大きな理由があるのに気が付いた。ウクライナ男性が妻と子供たちと別れる時、「自分は国を守るために戻る」といった言葉だ。それを聞いた多くの欧州の人々が感動したのだ。ポーランドの国境にはデンマークからウクライナ人の支援のために来たという青年がいた。

第2次世界大戦後、欧州の地では大きな戦争はなかった。平和だった。同時に、国を守る、母国を愛する、といった思いは次第に薄れていった。その時、欧州の国ウクライナにロシア軍が侵攻してきた。軍事力で明らかに守勢のウクライナ人が懸命に国を守るために闘っている。欧州人はテレビや新聞で報じられるウクライナ情勢を見て、心が動かされているのだ。

ウィーン大学法学部のマンフレッド・ノバック教授はオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「2015年の時、難民の受け入れを拒否してきたハンガリーのオルバン首相がわざわざ国境まで行ってウクライナ人の収容を指示することは、ウクライナ危機前には考えられないことだった」と述べていた。国を愛するウクライナ人は欧州国民の心を掴んだのだ。

文・長谷川 良

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年3月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

文・長谷川 良/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?