カミラ・ワリエラ選手のドーピング疑惑
2022年2月8日、フィギュアスケート団体の表彰式が急きょ中止された件をめぐり、地元ロシアのメディアなどはロシアオリンピック委員会(ROC)の一員としてフィギュア団体金メダル獲得に貢献したカミラ・ワリエワ選手が大会前に提出した検体から禁止薬物トリメタジジンが検出されたと報じた。1月の欧州選手権前に採取されたものだという。
検出されたトリメタジジンは心疾患の治療などに使われるが、持久力を高める効果があり、世界反ドーピング機関(WADA)の禁止薬物リストに載っているものだ。カミラ・ワリエラ選手は、心疾患のある祖父と同じグラスを使ったと主張しているが。本来、錠剤かカプセルで服用するトリメタジジンがなぜグラスを媒介にして服用するに至ったのか、極めて疑問視されている。
ロシアの治安機関が関与した国家ぐるみのドーピング事件
旧ソ連の国家保安委員会(KGB)及びその後継機関でテロ行為と国家反逆の防止を任務とするロシア連邦保安局(FSB)は、かなり以前からスポーツ界とつながっていた。米ソ対立の時代、スポーツ分野においても国際的成功が冷戦の勝利のために必要だった。
2014年2月、世界反ドーピング機関(WADA)独立委員会が335ページにわたる報告書を発表した。その内容は、選手やコーチ、競技団体、検査機関などが証拠隠滅で共謀し、さらに政府の関与も示す驚くべきものだった。
同報告書によると、モスクワにあるWADA公認検査機関のグレゴリー・ロドチェンコフ所長は陽性反応を示した選手に隠蔽の見返りで金銭を要求し、第三者委の調査を妨害するため1417検体を故意に破棄した。
また、モスクワにはFSBが関与する「第2の検査機関」が存在し、ここで陰性の検体を保管し、公認検査機関の陽性検体とすり替えていた。公認検査機関は抜き打ち検査のスケジュールを選手に事前に教え、検査官は日常的に選手から賄賂を受け取っていたが、コーチたちは「他の国でも似たようなことをしている。代表選手の務めだ」と選手を説得していた。
公認検査機関には、FSBの職員が出入りし、不正行為の圧力をかけていた。ソチ冬季五輪期間中は、FSBの関係者が施設内で監視し、その後も毎週のように訪れていたという。KGB及びFSBは、有力スポーツ選手の亡命を未然に阻止するだけでなく、成功したスポーツ選手が選手生活や住宅問題など、あらゆる問題でKGBとFSBに相談できるようなシステムを作っていた。
その後、2014年12月、ドイツ公共放送ARDが「ドーピングの秘密 ロシアはいかにして勝者を作り出したのか」と題したドキュメンタリー番組を放映したが、その中で、元陸上選手の妻とロシア反ドーピング機関の元職員の夫が、ロシア国内で行われている不正を証言し、さらに女子マラソンの元強豪リリア・ショブホワが陽性反応の記録を隠して2012年ロンドン五輪に出るため、「ロシア陸連幹部に45万ユーロを支払った」などと暴露した。