<事例3>人流
<事例3a>東京新聞 2021/06/18
◆尾身氏ら提言を大会組織委に提出 東京五輪は「無観客開催が望ましい」
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志は18日、東京五輪・パラリンピックについて「無観客開催は、会場内の感染拡大リスクが最も低く、望ましい」とする提言をまとめ、政府と大会組織委に提出した。
提言では、五輪が夏休みやお盆に重なるため、大会開催を契機とした感染拡大や医療ひっ迫のリスクがあると指摘。緊急事態宣言中にもかかわらず、首都圏では既に人流が増加の一途をたどっていることから、「ワクチン接種が順調に進んだとしても、7月から8月にかけて感染者および重症者の再増加がみられる可能性がある」と強調した。
感染症の流行は、感染者数の増加または減少の速度である「新規陽性者数」、感染者数の増加または減少の加速度である「実効再生産数」によって評価することができます。このうち、感染防止策の観点から最も注目するに値するのは、実効再生産数の値です。なぜなら、アクセルを踏めば速度が増加し、ブレイキを踏めば速度が減少するように、実効再生産数が増加している場合には感染拡大力が高まっている(アクセルが踏まれている)ことを示し、実効再生産数が減少している場合には感染抑止力が高まっている(ブレイキが踏まれている)ことを示すからです。すなわち、感染拡大に向かって力が働いているか、あるいは感染縮小に向かって力が働いているかは実効再生産数の増減で判定できるのです。
さて、日本のコロナ第1波~第4波において、人流と実効再生産数の相互相関が特定の時間遅れで高まることはなく、必ずしも人流が感染を縮小する主要な力になっていないことがこの2021年6月18日の時点で既に判明していました。しかしながら、日本の感染症の専門家は根拠薄弱に「人流抑制」こそが感染対策であると断じ、東京五輪の無観客開催を政府に求めました。この提言を受けたのか、結局東京五輪は無観客で開催されるに至りました。
ここに、実際の東京五輪開催前後における感染状況ですが、発症ベースの実効再生産数は東京五輪開幕前から閉幕まで継続して減少を続けました。この時点で新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長は次のように述べています。
<事例3b>日本経済新聞 2021/08/12
◆尾身氏「人流の意味で人々の意識に影響」 五輪巡り見解
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長は12日、8日に閉幕した東京五輪の開催による足元の感染拡大への影響について問われ「絶対ないと思う」と否定した。一方で「人流という意味で、オリンピックの開催が人々の意識に与えた影響の議論でいえば、私たちはあったと思う」と述べた。(中略)
急増する感染者数について尾身氏は「今の感染拡大はオリンピック開催前から(感染者数を)上げる要素がたくさんあり、それが起きたということだ」と指摘した。感染力が高いインド型(デルタ型)の広がりや、4連休、お盆休みなどの人流増加の影響が大きいと指摘した。
東京五輪の期間中、人流は明らかに抑制されましたが(図-1)、なんと尾身会長は「人流の意味で五輪が影響を与えた」という支離滅裂な憶測発言をしたのです。

また、識者と呼ばれる人物は、データなど見てもいないのか「人流が減るわけないのは首相の言葉が国民に響かないため」なる支離滅裂な主張で日本社会を混乱させました。