(3)「宇宙を解放する」に込められたソニーの意思
では、今や新しい宇宙ビジネスの形として注目が集まる本プロジェクトについて、様々な実績やスキルを持つソニーの有志が、何もなかったところから宇宙ビジネスをやるぞと集まった背景にはどのような思いがあったのでしょうか。
その背景を知る一つの手がかりが「STRA SPHERE」のコンセプトである「宇宙を解放する」です。この言葉には以下2つの思いが込められていると中西さんは話します。
・宇宙を身近な領域へ
・地球を想い心豊かで輝ける人々を増やす
■宇宙を身近な領域へ
前述のシミュレータの話からも分かるように、これまで宇宙ビジネスは主に専門家や特定の企業と関わりが深い上に、宇宙旅行といっても金額が高すぎて、一部の富裕層のみが手が届く世界。つまり、一般の人々にとっては分かりにくく、触れ合う機会も少ない、閉ざされた世界でした。
その課題に対して、超小型人工衛星開発ができるようになって、10,20年前と比較すると格段に安く衛星を開発し、打ち上げられるようになったこと。また、ソニーという日常を豊かにするサービスを次々と世の中に提供する著名企業が宇宙ビジネスが参入することで、宇宙を身近な領域へと広げ、まさに宇宙と触れ合う機会が解放されるのだと期待が高まります。
■地球を想い心豊かで輝ける人々を増やす
そして、宇宙を解放した先にある、多くの人が宇宙視点を持った未来の行く末がソニーの考える「STARSPHERE」の肝となる部分なのではないかと宙畑では推察します。
例えば、「宇宙からは、国境線は見えなかった。」「最初の1日か2日は、みんなが自分の国を指していた。3日目と4日目は、それぞれの大陸を指さした。5日目にはみんな黙った。そこにはたったひとつの地球しかなかった」といった言葉をご存知でしょうか。これらは、実際に宇宙に行った人が残した言葉の一例です。
ソニーはこれまでもウォークマンの開発による音楽のポータブル化など、新しい価値観を日常に浸透させてきた実績が豊富な企業。実際に宇宙に行ったことがある人しか分かりえない考え方や視点(中西さんはこの視点を宇宙の新しい捉え方”宇宙視点”と話します)を、「STAR SPHERE」を通してより多くの人が会得するきっかけになるのか、とても注目したいポイントです。
(4)全人類が宇宙視点を持った時、何が起こる?
宇宙視点を持つという観点で、ソニーはすでに複数の仕掛けを人工衛星の開発と並行して進めています。
一つは、芸術家とのコラボ。世界的な現代芸術家、杉本博司氏と宇宙の魅力をともに発見する取り組みとして、新しい「”宇宙視点”の文化芸術」の創出を目指した「Sony Space Entertainment Project」を進めています。宇宙カメラの最初のユーザーとして、杉本博司氏が作品制作を行う予定とのこと。いったいどのような作品が発表されるのか、とても楽しみですね。
もう一つ紹介したいのは、ソニーが2021年11月に発表した「ソニーと日本旅行 人工衛星を活用した学校・教育機関向け体験プログラムの共同開発を開始」です。上述のシミュレータを用いて、学生がそれぞれの視点や感性に基づいて疑似的に宇宙から地球を撮影し、作品をつくる。作品の一部は超小型人工衛星の打ち上げ後に実際に撮影を行い、生徒たちに届ける予定とのこと。
他にも、京都芸術大学と宇宙感動体験コンペを実施していたり、「STAR SPHERE」を通した様々な取り組みが発表されることが予想されます。どのような面白い発表が今後行われるのか、注目したいと思います。