「キャリアを築くには専門性が必要」と言われることが多くなりました。でも、専門性とは いったい何なのでしょうか。わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも手当たり次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つ人も少なくないはず。

そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチだけどオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。

今回お話をお伺いしたのは、鉄道解説系YouTuberとして、カナダ在住ながら日本の鉄道情報を発信する鐵坊主さん。

「乗り鉄動画を配信しようと思ったら、新型コロナウイルス感染症のため日本に入国できず、しかたなく始めた」という鉄道解説動画が大人気となり、独自の立ち位置を確立したとのこと。専業YouTuberの働き方や、自分のスキルを見つめ直す方法について教えてもらいました。

目次
50代男性が専業YouTuberにジョブチェンジしたきっかけ
「苦肉の策」で始めた鉄道解説系YouTuber

50代男性が専業YouTuberにジョブチェンジしたきっかけ

少年B:

はじめまして。鐵坊主さんはフリーランスの専業YouTuberだと聞いたのですが。

鐵坊主:

はい。2021年の6月までは他に本業があり、夜や土日に動画を作成していましたが、現在はYouTube一本で生活をしております。チームを組むほどの予算がないものですから、家内制手工業、つまり個人で動画を作っております。

50代から専業YouTuberにジョブチェンジ!? 激戦区の鉄道系動画で人気になれたワケ
(画像=▲鐵坊主チャンネルは2022年2月15日現在で登録者数4.22万人。サブチャンネルも人気だ(出典:鐵坊主チャンネル)、『Workship MAGAZINE』より 引用)

少年B:

そもそも、なぜYouTuberになろうと思ったんですか?

鐵坊主:

10年ほど前にカナダの日系旅行会社に勤めていたのですが、その経験を生かして趣味兼副業として、訪日外国人向けに英語の鉄道ブログ(JPRail.com)を開設したのが最初のきっかけです。当時は最大で月間20万PVぐらいありました。

そうすると「こういう旅行をしたいんだけど、どういう切符を買ったらいいか」とか「この日程は1日で回り切れるだろうか」など、いろいろコメントも来て、それに返事をしていたら、まるで個人の旅行コンサルタントみたいになっていたんですね。

少年B:

はい。

50代から専業YouTuberにジョブチェンジ!? 激戦区の鉄道系動画で人気になれたワケ
(画像=▲元々は英語のブログがきっかけだった(出典:JPRail.com)、『Workship MAGAZINE』より 引用)

鐵坊主:

でも「東京駅で丸の内線から東海道新幹線に乗り換えるには、どういうルートを通ればいいんですか」とか言われたら、もうこれは動画で説明した方が早いわけですよ。くわえて、文章から動画へ移っていく世の中の流れもあったので、じゃあYouTubeをやろうということになったわけです。

あとは当時は、インバウンド観光需要が増えていた時期だったし、2020年の東京オリンピックも決まっていました。なので、海外向けに英語で日本の鉄道案内をすれば、需要があるだろうとも考えていました。

少年B:

もともとは日本国内向けではなく、海外向けの発信がきっかけだったんですね!

50代から専業YouTuberにジョブチェンジ!? 激戦区の鉄道系動画で人気になれたワケ
(画像=▲ブログからYouTubeに活動の場を移した(出典:JPRail)、『Workship MAGAZINE』より 引用)

鐵坊主:

はい。それで2019年の末に『JPRail(ジェーピーレール)』という海外向けのYouTubeチャンネルを開設しました。

で、「せっかく作ったんだし、日本語版も用意しておくか」という感じで、JPRailを開設してから1年ほど遅れて『鐵坊主チャンネル』がスタートしたんです。

少年B:

なんと! 大人気の鐵坊主チャンネルは、「ついで」でスタートしたんですね……!?

50代から専業YouTuberにジョブチェンジ!? 激戦区の鉄道系動画で人気になれたワケ
(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

「苦肉の策」で始めた鉄道解説系YouTuber

鐵坊主:

そうして始まった訪日外国人向け鉄道チャンネル『JPRail』ですが、新型コロナウイルス感染症が流行してしまったので、こうなるともう誰も日本に旅行に行かない。なんなら自分も日本に帰れないという事態になってしまいました。

少年B:

大ピンチですよね……! そこからなぜ、日本語での「鉄道解説系YouTuber」というポジションに?

鐵坊主:

正直なところ、別に解説をするつもりもなかったんです。ただ、本来やろうと思っていた電車の乗り換え案内はできない。でも、チャンネルを作ってしまった以上はなんとかしてネタをひねり出して、動画を作らなきゃいけません。

50代から専業YouTuberにジョブチェンジ!? 激戦区の鉄道系動画で人気になれたワケ
(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

鐵坊主:

だから、現地に行かなくてもできる「解説」を始めたのですが、私はどちらかというと旅行や路線の知識のほうがメインなので、車両に関する知識はほかの鉄道系YouTuberさんほどはないぞ、とも自覚していました。

だから、最初は「新幹線の歴史」とかベタなテーマをやってましたね。で、ネタがなくなったので、マニアックな内容を話し始めたという……。

少年B:

解説を始めたのはそんな理由だったんですか! ちょっと意外でした。

鐵坊主:

日本で最初に話題になったのは「北海道新幹線のバーチャルツアー」です。これはGoogle Earthを使って、2030年開業予定の北海道新幹線・新函館北斗駅?札幌駅間のルートを辿り、駅がどこに建設されるのかを解説した動画です。

▲鐵坊主チャンネルで最初に大きく話題になった動画。この頃はまだ音声が入っていない

鐵坊主:

日本の建設中の新幹線の話なんて、海外だとかなりニッチなジャンルではあるので、JPRailだと再生回数はどれも「1000回いけば上出来だな」くらいのレベルだったんです。ただ、バーチャルツアーの字幕を日本語に直したものを鐵坊主チャンネルにUPしたら、気付いたら1万回再生されていて。

少年B:

鐵坊主さんの意図しないところで話題になっていたんですね。

鐵坊主:

そうです。しばらくぜんぜん気付いてなかったんですが、いつの間にかすごく見ていただけていて。そこで初めて、日本語の動画に意識が向きましたね。この路線で突き詰めていけば見てもらえるんじゃないかと思いました。

山形新幹線の新板谷トンネルについての解説動画あたりから、はっきりした手ごたえを感じたというか、方向性が定まってきた部分があります。鉄道会社各社の資料を漁って、それをもとに解説するというか。

少年B:

わたしはいわゆる鉄道系YouTuberといわれるかたの動画をちょこちょこ見ているんですが、鐵坊主さんは他とは違った独自の立ち位置を確立していますよね。鉄道分野の池上彰さんみたいな。

鐵坊主:

この路線を始めたころは、たとえばオリラジの中田さんみたいな、いわゆる教育系YouTuberさんを意識してましたね。

50代から専業YouTuberにジョブチェンジ!? 激戦区の鉄道系動画で人気になれたワケ
(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

鐵坊主:

もともとの立ち位置の話をすると、日本の鉄道系YouTuberはすでにたくさんいるので、英語でやってた部分はありました。ライバルは多いし、ほかの方々はみんな若くてかっこいいお兄さんじゃないですか。私みたいな50代のハゲのおっさんがそれと同じことやっても勝てるわけがないし、カナダに住んでるという地理的・金銭的なハンディキャップもあるわけです。

少年B:

いわゆる「乗ってみた動画」を出すにしたって、国内在住の人と比べれば信じられないほどのコストがかかりますもんね。まず日本に渡航しなきゃいけないですし。

鐵坊主:

だから、誰もやらない「鉄道×英語」でコツコツやってたというか。いまは「鉄道×解説」という分野で見ていただけていますが、自分で意識して市場を狙ったというよりも、たまたま空き地が見つかったような感じですね。その空き地をいま一生懸命に耕しているところです。