スペースポートを起点に宇宙事業を育てていく

――大分空港をスペースポートとして活用するのに向けて、県はどのような役割を担っていますか。

堀:大分空港自体は国が所有していますが、空港利用の促進策や海外路線の誘致施策などは自治体が担っています。それに似たイメージで、スペースポートの運用に関連しそうな企業や団体と連携し、スペースポートが実現できるように調整していくのが役割だと思っています。

ただ、スペースポートがこれまでの海外路線誘致等と大きく異なるのは、国内に前例がないということです。

大分から宇宙へ!スペースポートと衛星データで強化していく、宇宙県おおいたの戦略は?
(画像= Virgin Orbitのロケットがスペースポートから離陸する様子Credit : Virgin Orbit、『宙畑』より引用)

日本国内の空港で宇宙に飛び立つロケットの打ち上げを実施したことがまだないので、関係機関との調整が重要ですし、地元の方々にご理解いただく必要もあります。こうした調整や調査をスペースポートのプロジェクトが動き始めてから2年ほど行っています。

さらに県の立場としては、ただスペースポートを実現するだけでなく、いかにスペースポートを核としたエコシステムを構築できるか……産業もそうですし、観光や教育などいろいろな分野に波及させていく活動は県が主体となってやっていくべき部分だと思っています!

――スペースポートの運用は、どの程度の経済波及効果が見込まれていますか。

堀:2021年の3月に公表したものだと、打ち上げの開始から5年間で102億円という金額を算出させていただいています。

髙山:1年前はまだ何も知らない県民が多かったように思いますが、今はどなたに聞いても、「スペースポート」という単語は少なくとも知っていますよ。

企業や団体、幼稚園・保育園、学校の勉強会に呼んでいただいて、大分県が宇宙ビジネスに取り組んでいる背景や今後どうなっていくのかという話をさせて頂いています。先日、小学一年生から、スペースポートのことを教えてもらいました(笑)。中学生向けの講演のアンケートでは、大分で宇宙ビジネスが拡がっていくことで「将来、大分で就職する選択肢として選べるかもしれない」という声をもらいました。

堀:2022年1月には、イギリスでスペースポートの取組が進むコーンウォール州の学校と県内の高校をオンラインで繋ぐ、交流が始まりました。世界中のスペースポートがある地域同士で連携していくのも面白いと思っています。

髙山:今では、皆さんが宇宙ビジネスの将来性に期待を持っていらっしゃいますし、それぞれの方々が、自分も何か宇宙に関わる仕事やビジネスができるのではないかという空気感が醸成されてきている状況だと思います。

――大分で宇宙事業のエコシステムを作り上げていくために、何がポイントになるとお考えですか。

髙山:課題を抱えている人とサービスを提供する人を宇宙をキーワードにチーミングをどう作っていくかが一番大事だと思います。

これまでの衛星データを利用したビジネスは、研究開発が起点だったので、市場のニーズからではなく、シーズ(企業や組織が持つ独自の技術)から事業を構想するケースが大半でした。「これを使ってビジネスをやろう」と考える人がサービスを立上げても、実際にやってみると利用の現場に繋がっていないことが多かったのです。

例えば、衛星データで解決できそうな課題を感じている方に生データをそのまま提供しても、なかなか使いこなせませんよね。それが最近は少しずつ変わりつつあります。大分では、私たちのところに課題を持ち寄っていただき、宇宙の最新情報の提供や技術動向などを提供して、ソリューションを形にできるかどうかをみんなで考えていくようにしています。この手法は、最近の言葉だとデザイン思考と呼ばれていますよね。

自治体間の連携で、日本の存在感を

――髙山さんと堀さんは、事業者をどのように支援していらっしゃいますか。

堀:大分県としては「スペースポートや衛星データをテレビや新聞などで知って、自分も何かやってみたい」と思ってくださる方向けの入り口として、セミナーやアイデアソンを開催しています。(株)minsoraさんに委託して実施していただいているものもあります。

加えて、ニーズを持っている方とシーズを持っている方のネットワーキングも行っています。やはり、皆さんは早くビジネスの社会実装に繋げたいと思っているでしょうし、その思いは私たちも同じです。

髙山:最近だと、農業や林業などの一次産業に、地球観測衛星が撮影した衛星データや準天頂衛星「みちびき」のデータを利用して、新たな価値やサービスを検討する方が出てきています。2021年度の事業として、県庁からの委託で衛星データを使った新たなビジネスアイデアを考えるという宇宙挑戦セミナーを開催しました。IT事業者はもちろん、地元の葬祭事業者や空港でお土産を扱っている方やテレビ局の方などいろんな業種の方々に参加頂きました。

大分から宇宙へ!スペースポートと衛星データで強化していく、宇宙県おおいたの戦略は?
(画像= 宇宙挑戦セミナーでの発表の様子Credit : 大分県、『宙畑』より引用)

皆さんはスペースポート自体ではなく、宇宙に関わることで得られる技術や集まってくる人、そして衛星データに興味を持たれているように思います。
例えば宇宙食を開発しても、当面の宇宙飛行士や旅行者のフライトのペースでは、何十万食分と販売するのは難しく、PRにはなっても、ビジネスに直結するとは言えません。
しかし、宇宙食を開発する過程で、パッキングの技術を向上させたり、食べやすさを追求したりすることで、新しい知見や新たな利用シーンを得られるという波及効果があります。

――最後に、大分県の宇宙の取り組みについて期待と展望を聞かせてください。

髙山:将来的には、スペースシップで世界中に物資を高速輸送できる時代が来るでしょう。そうすれば、朝に獲った海産物を2時間以内に世界中に届けられるようになるかもしれません。実現すれば大分は物流の拠点としても繁栄していくのではないかと期待しています。

堀:最近では複数の自治体が宇宙産業参入に向けた取組を始めています。地域間の差別化などを聞かれることも多いですが、アメリカやイギリスの状況を見ると、日本国内で争っている場合ではないなとも感じています。

まずは日本が、世界に存在感を示せる立ち位置にならなければならない、小さいところで争っていてもどうしようもありません。場合によっては、地域でバッティングしてしまうところもあるかもしれませんが、当面はどうやって宇宙産業全体を大きくしていくかを考えて、自治体もお互いの強みを活かしながら、連携していければいいなと思っています。

そういう思いもあって、2021年11月には岸田総理に、宇宙産業の推進に向けた支援を求める「地方からの『宇宙』への挑戦に関する要望・提言」を提出しました。これは大分県を含む11道府県で取りまとめたものです。

大分から宇宙へ!スペースポートと衛星データで強化していく、宇宙県おおいたの戦略は?
(画像= 北海道・大分県・和歌山県・福岡県の知事が岸田首相と面会し、提言書を提出したときの様子Credit : 首相官邸、『宙畑』より引用)

大分県が取り組んでいるスペースポートと衛星データ利活用に衛星の製造が加われば、主だったバリューチェーンが揃います。そこはいろいろな自治体と上手く連携しながら進めていきたいところですね。

――髙山さんと堀さん、ありがとうございました。大分での取り組みが日本全国に広がっていくことを期待しています!


記事の中でもご紹介した宇宙技術および科学の国際シンポジウム(ISTS)は2022年は2月26日から3月4日まで大分県別府で開催される予定でしたが、フルオンライン開催に変更になりました。26日(土)、27日(日)の県民向けイベント「おおいたそらはく」は、予定通り開催されます。

提供元・宙畑

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