再使用化によるコストカット

実際にロケットを再使用化した場合どの程度コストを削減できるのでしょうか?今回はモデルケースとして、H-ⅡA を再使用化した場合を考えてみましょう。

まず打上げにかかるコストは簡易化して以下のように考えます。

打上げコスト = 製造費 + 開発費 + サービス費(打上げ) (+再使用に掛るメンテナンス)

Falcon 9 を参考に、第 1 段のみを再使用し、この部分が全体の製造費の 50% を占めているとします。また、一切のメンテナンスなく再使用でき、かつ燃料費も無視して考えることとしました(注:現状、燃料費自体は打上げ費の 100 分の 1 程度)。

今後の需要増を見込んで下記のように仮定します。

コスト100分の1へ、再使用ロケットが壊す宇宙の常識と残る課題
(画像=Credit : sorabatake、『宙畑』より引用)

このような仮定の下で、1 回の平均打上げ価格は 57 億円と算出されました。少々強引な仮定を行いましたが、再使用化によって打上げ費用はおおよそ半分にまで抑えることができるといえます。

コスト100分の1へ、再使用ロケットが壊す宇宙の常識と残る課題
(画像=Credit : sorabatake、『宙畑』より引用)

57 億円まで抑えることができてやっと、使い捨てロケットである H3 の目標額の 50 億円に近い値となりました。つまり単に再使用化すれば圧倒的に安くなるかというと、必ずしもそういう単純な話ではなく意見の分かれるところなのかもしれません。

再使用ロケットの課題と今後

最終的に使い捨てと再使用どちらの手法がよりコストを抑えられるのか、現段階では未知数です。近年ではコストの低減化=再使用化といった印象も強いですが、少し前までその逆で「再使用は結局コストがかかる」という認識が大半でした。

NASA が開発したスペースシャトルは、再使用によるコストの低減化を謳い開発されたものの、耐熱パネルの問題や、度重なる事故とその対策によるコスト増加を招き、既存のロケット以上に費用がかさむ結果となってしまった過去もあります。

つまり、再使用化によって実際に採算がとれるようになるかは、設計・製造の問題と合わせて、メンテナンスや品質保証などの、「実際に運用してみないとわからない部分」にも大きな関門があるといえます。

イーロン・マスク氏は 100 回の再使用を実現する旨の発言をしており、実際に 100 回の再使用が可能となればさらなるコストの低下が期待できます。しかし現在の技術では 100 回の再使用は難しく、10 回程度が現実的といわれています。

このような背景を踏まえてか、打上げサービス老舗の Arianespace では、開発中の新型ロケットに関して再使用はせず従来通りの使い捨て型を選択し、信頼性の担保とコスト削減の方針を取るとしています。

第1関門であった、設計・製造や技術的な問題をクリアした SpaceX が、次に迎える運用の問題を解決することができれば、「再使用ロケット=低価宇宙輸送」という証明になり、ロケットの形は大きく様変わりするでしょう。