「政治資金」を隠れ蓑にした選挙買収を抑止するための法改正

では、広島、新潟、京都と相次いで表面化している「政治資金を隠れ蓑にした選挙買収」をなくし、公職選挙に対する国民の信頼を維持していくためにはどうしたらよいか。

公選法の「買収罪」の成立は、「政治資金の寄附」であることで否定されるわけではない。現行法のままでも買収罪の適用は可能である。ということは、買収罪を積極的に適用していくとするのであれば、立法の問題というより、むしろ、運用の問題だと言える。

しかし、既に述べたように、「当選を得又は得させる目的」があった否か、「選挙運動者」か「政治活動者」か、という当事者の認識・主観的要素で犯罪の成否が決まる買収罪については、捜査機関の側の対応には限界がある。

そこで、「買収まがいの政治家間の資金のやり取り」に対する効果的な抑止措置として考えられるのは、公選法上に、「買収罪」の規定とは別に、「国政選挙に近い時期に行われる、候補者から政党支部及び地方政治家への金銭の供与(寄附)を禁止するための規定」を設けることである。

現行の公選法では、199条の2の「公職の候補者等の寄附の禁止」の規定の1項で、

公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない。

とされた上、「ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部に対してする場合」は、「この限りではない」として、政党及び支部に対する寄附が禁止から除外されている。

そして、199条の5の2項で

公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、第百九十九条の二第一項の規定にかかわらず、次項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、当該公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者に係る後援団体に対し、寄附をしてはならない。

とされ、同条4項で、

この条において「一定期間」とは、次の各号に定める期間とする。

として、衆議院議員の総選挙については

衆議院議員の任期満了の日前九十日に当たる日から当該総選挙の期日までの間又は衆議院の解散の日の翌日から当該総選挙の期日までの間

参議院議員の通常選挙については、

参議院議員の任期満了の日前九十日に当たる日から当該通常選挙の期日までの間

などと規定され、この期間が、「後援団体に対する寄附の禁止期間」とされている。

この199条の5に、「政党その他の政治団体若しくはその支部に対する一定期間内の寄附禁止」の以下の規定を追加し、公職選挙の前の一定期間は、公職の候補者から政党・政治団体・支部に対しての寄附も禁止してはどうか。

公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、第百九十九条の二第一項の規定にかかわらず、次項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、政党その他の政治団体若しくはその支部に対して、寄附をしてはならない。ただし、当該政党等に定期的に低額を納付する場合はこの限りではない。

この場合、「公職選挙の前の一定期間」は、広島の河井事件、京都府連の今回の問題等で公職の候補者の側からの寄附が行われている時期が、任期満了の90日前頃であることからすると、180日程度に拡大しないと実効性は期待できないであろう。

もっとも、政党所属の議員が公職の候補者である場合、それ以前から、定期的に定額の会費を納入しているものまで禁止する必要はないと考えられ、それらを除外する但し書きを入れることは必要であろう。

「買収まがい政治資金」をなくすため実効性のある禁止規定と関連する措置を

政党その他の政治団体若しくはその支部に対する寄附は、政治活動の目的を実現するために必要であり、それ自体は禁止されるべきものではない。

しかし、199条の2の「公職の候補者等の寄附の禁止」の規定が、いかなる目的のものであっても、当該選挙区内にある者に対する寄附を一律に禁止するものであることに照らせば、「政党その他の政治団体若しくはその支部に対する寄附」も、選挙との関連が疑われる期間に限定して、定期的に支払われる会費等を除いて、目的を問わず禁止することにも十分に合理性がある。

それによって、「公職の候補者の政党に対する寄附」も、選挙の前の一定期間禁止され、京都府連の問題のような、「選挙前の候補者→都道府県連」の資金提供は禁止されることになる。

そもそも、公職の候補者と政党等の関係というのは、本来、候補者が、政党から公認や推薦を受け、選挙運動の支援を受ける立場である。資金の流れとして、「政党→候補者」は考えられるが、「候補者→政党」という逆の流れは、公認・推薦の対価の支払とも解し得るものであり、正当とは言い難い。選挙前の一定期間、そのような資金の流れが禁止されることは合理的だと考えられる。

もっとも、ここで考えなければならないのは、1990年代以降、「政治とカネ」の問題が表面化する度に、政治資金規正法が改正されるなどして、政治資金の透明化が図られる中でも、「国政選挙における国会議員候補者から地元政治家へのばら撒き」の慣行が続いてきたことの背景としての「地方議員の収入の問題」である。

かつては「政務調査費」の流用によって資金を確保していたのが、全国の地方自治体で議員の政務調査費の不正流用が発覚し、刑事事件化したことで、そのような方法での資金確保はできなくなった。もともと、多くの自治体の議員の給与は低く抑えられており、生活費を賄うのが精一杯で、活動費はとても捻出できない。それが、歳費が高額な上に文書交通費の支給などで優遇されている国会議員から地方政治家へ資金の流れを生む背景になっていることは否定できない。

「国政選挙における国会議員候補者から地元政治家へのばら撒き」をなくしていくのであれば、地方議員の収入の問題についても、地方自治の在り方に関する問題として議論していくことが必要であろう。

方向として二つが考えられる。一つは、多くの政令指定市のように、自治体議員に相応の報酬を維持し、その分、議員としての相応の活動が行われるよう、住民が日常的に監視し、選挙の度に検証していくこと、もう一つは、地方議員の収入は低額に抑え、兼業で行えるよう、議会の開催の時間、方法などを抜本的に改めることである。

そもそも、全国の都道府県、市町村が全て同じ「二元代表制」の首長と議会の関係であることが必要なのか、もっと機能的な民主主義の制度を創設することも認めるべきではないか、という点についての地方自治法の改正の議論を行っていく必要もあるであろう。

前法務大臣の衆議院議員とその妻の現職参議院議員の公選法違反による同時逮捕という「憲政史上前代未聞の大事件」は、両氏の有罪判決の確定によって、「政治資金を隠れ蓑とする選挙資金の供与」を白日の下にさらけ出すことになり、それに派生して新潟・京都などでの「選挙とカネ」問題の相次ぐ表面化につながっている。

これを機に公職選挙の公正への国民の信頼を回復するための法改正を行うことは、全国会議員の責務である。

多くの日本国民に政治や選挙に対する絶望を生じさせつつある現況を大きく変えるため、速やかに、法改正の議論を始めるべきである。

文・郷原 信郎/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?