被買収者の地方政治家の起訴は、もともと不可避だった
克行氏の被告人質問が行われていた頃に、検察に提出されていた市民団体の告発状が、既に受理されていることが明らかになった。検察にとっては、不起訴にするとしても、犯罪事実は認められるが敢えて起訴しない「起訴猶予」しかない。
しかし、もともと求刑処理基準に照らせば、「起訴猶予」の余地はあり得なかった。告発人が不起訴処分を不服として検察審査会に審査を申立てれば、「起訴相当」の議決が出ることは必至だ。検察は、その議決を受けて起訴することになる。その際、被買収者側には、「検察は不起訴にしたが、市民の代表の検察審査会が『起訴すべき』との議決を出したので、起訴せざるを得ない」と言われれば、被買収者側も文句は言えないのである(【河井夫妻買収事件「被買収者」告発受理!処分未了では「公正な再選挙」は実施できない】)。
6月18日、克行氏に対しては、計100人に1約2900万円を供与した公選法違反の買収罪で「懲役3年」の実刑判決が言い渡された。
それから半月余り経った7月6日、検察は、被買収者100人について、被買収罪の成立を認定した上で99人を起訴猶予、1人を被疑者死亡で不起訴にしたことを公表した。
この不起訴処分に対して、告発人が検察審査会に審査申立てを行い、検察審査会は、広島県議・広島市議・後援会員ら35人(現職県議13名、現職市議13名)については、「起訴相当」、既に辞職した市町議や後援会員ら46人については「不起訴不当」の議決を行った。
議決を受け、検察は、「起訴相当」と「不起訴不当」とされた被買収者について事件を再起(不起訴にした事件を、もう一度刑事事件として取り上げること)して再捜査を行っている。「起訴相当」については、起訴することになる可能性が高い。「起訴相当」議決を受けた現職県議・市議が次々と議員辞職するなど、広島県政界の混乱が続いている。
検察としても、河井夫妻の現金買収の原資と党本部からの「1億5000万円」との関係が明らかにされず「依然として政権に弱腰」の印象を与え、一方で、被買収者側については、公選法違反での立件・刑事処分が大幅に遅延し、案里氏の公選法違反での有罪確定を受けて行われた再選挙の際も被買収側の地方政治家が公民権停止にもならず「野放し」になり選挙の公正が著しく害されたことなど、河井事件で「かなりの痛手」を受けたことは確かである。
しかし、検察が従来は買収罪を適用して来なかった「国政選挙における国会議員候補者から地元政治家へのばら撒き」を買収罪で摘発したことでその実態が明らかになり、公職選挙をめぐる状況に大きな影響を与えたことは紛れもない事実である。
「政治資金規正法上の合法性」で買収罪の成立は否定できるか
河井事件は、「国会議員個人→地方議員個人」というルートの国政選挙に関する金銭の提供が行われた事案だった。
一方、「京都府連の選挙買収問題」では、「国会議員個人→都道府県連→地方議員個人」というルートで、買収罪の成否が問題になっている。
「国会議員個人→地方議員個人」という直接のルートと、「国会議員個人→都道府県連→地方議員個人」という「迂回ルート」で違いがあるとすれば、県連を経由することで政治資金収支報告書に記載されるという「政治資金の処理の確実性」の点であろう。
克行氏の場合、「国会議員個人→地方議員個人」のルートで、「自民党の党勢拡大、地盤培養活動の一環としての地元政治家らへの寄附」と称する「政治資金の寄附」を行ったと供述しだが、領収書の交付は殆ど行われておらず、政治資金としての処理自体が適法なものではなかった。
その点、「国会議員個人→都道府県連→地方議員個人」のルートは、都道府県連という政治資金処理が確実な組織を通しており、「政治資金規正法上の合法性」が確実に担保されている点が河井事件とは異なると言える。
しかし、判例上「選挙運動」は「特定の公職選挙の特定の候補者の当選のため直接・又は間接に必要かつ有利な一切の行為」とされているので、特定の選挙のための活動を行うのであれば、「党勢拡大、地盤培養のための政治活動」という性格があっても、「選挙運動者」に当たることは否定できない。「政治資金規正法」上は適法であっても、「当選を得させる目的」で、「選挙運動者」に金銭を「供与」すれば、「公選法」上の「買収罪」が成立することに変わりはないのである。
もっとも、「特定の候補者を当選させる目的」は主観的なものなので、買収者も被買収者も、あくまで、その目的を否定し続けた場合、しかも、それが、「党勢拡大、地盤培養のための政治活動のための資金」という一応の理屈を伴うものである場合、その立証は容易ではない。
河井事件では、被買収者側が、「処罰されることはないだろうとの期待」を抱き、「案里氏の参院選のための金と思った」と認める供述をしたからこそ、河井夫妻を買収罪で起訴することが可能になり、河井夫妻の有罪判決が確定したことで、被買収者側も、結局処罰を免れられなくなった。その供述がなければ、そもそも、買収事件の立証は困難だった。
このような河井事件の経過からも明らかなように、結局、「選挙買収」と実質的に殆ど変わらない行為が、当事者が「選挙の目的」を認めるかどうかで違法になったり、ならなかったりすることにならざるを得ないのである。