(3)SDGsに取り組む企業の取り組み事例
本章ではSDGsの達成に向けて具体的にどのような取り組みがあるのかを紹介します。
まずは、ヨーロッパ、アメリカ、日本における取り組みは以下のようになっています。
ヨーロッパ、アメリカ、日本のSDGsへの取り組み
ヨーロッパ
ヨーロッパでは、特にSDGsに関する動きが盛んです。Sustainable Development Report 2020では、2020年時点の各国のSDGsへの取り組みがスコア化されましたが、その上位国の多くがヨーロッパ諸国でした。
例)カールスバーグ:カールスバーグ循環型コミュニティ(Carlsberg Circular Community / CCC)という、容器包装材の設計や製造を、廃棄物の排除と資材の最適化する取り組みを主要パートナーと共同で進める取り組みを行っている。
アメリカ
アメリカにおいても、特に環境問題を中心に取り組みが盛んになっています。また、大統領選挙において勝利したバイデン氏は環境問題に関する公約として、パリ協定への再加入(本稿作成現在は復帰のための文書に署名済み)や50年までに米国全体でネットゼロ排出を実現するとの長期目標を掲げ、規制的措置とインフラ・クリーンエネルギー投資を行うことを掲げている。
例)Nike:Move to Zeroという、炭素と廃棄物の排出量をゼロにすることを目指し、スポーツの未来を守る取り組みを行っています。例えば、以下のような取り組みを行っています
「2008年以降にデザインされた、すべてのNike Airソールに製造廃棄物をリサイクルした素材が50%以上使用され、製造には100%再生可能エネルギーが使用されています。また、新しく革新的なクッショニングシステムには、Airソールの製造過程で廃棄された素材が90%以上再利用されています。」
日本
日本においても、本稿執筆当時の菅内閣総理大臣が所信表明において、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言するなど、社会の関心や企業の取り組みが非常に盛んになっています。
例)パナソニック:世界4カ国の工場でCO2ゼロ化を達成し、東京・有明の旗艦ショウルームでも非製造拠点として同社初のCO2ゼロ化を実現している。また、持続可能な資源利用への貢献を目指して、投入資源の削減、製品リサイクル、商品への再生資源の使用量拡大などを推進するなど、その他多くの取り組みを行っている。
では、取り組んでいる企業は大企業ばかりなのでしょうか。
- 規模別(大企業、中小企業/スタートアップ)
企業の規模やフェーズに関わらず、様々な企業において、SDGsに関する取り組みは実施されています。
自動車業界を例に挙げると、日本のトヨタ社、アメリカのテスラ社はいずれもSDGsの達成に向けた取り組みを行っています。
・トヨタ:従来の自動車は石油燃料を燃やし、CO2を大量に排出しながら走る、SDGsの見地からは非常に環境に悪いものとして認識されています。そのため、EV、FCV、HV化の取り組みにより、「持続可能な街づくりやモビリティ向上(目標 11)」「 気候変動への対応(目標 13)」などに貢献することとしている。
・テスラ:(様々な見解があると思いますが、こと製品という視点でいうと、)トヨタと同様の自動車メーカーでありながら、販売する自動車は全て電気自動車であり、太陽光発電も手掛けています。そもそもが出来るだけ早く大衆市場に高性能な電気自動車を導入することで持続可能な輸送手段の代替を加速す等、等の理念を持ち、創業の目的からSDGsに取り組んでいる企業です。
次にSDGsを知る観点として興味深いのは取り組み方の違いです。
- 取り組み方(テーマの設定・開示以外)
多くの企業がSDGsに関する特定のテーマの設定、開示をしています。それらの取り組みについて、中期経営計画などにおいて具体的な目標を設定している企業も多く存在しており、より外部に向けての発信を強めています。加えて、さらなるSDGsの達成に向けた取り組みの推進の仕掛けを行っている企業も存在します。
【参考事例】
・オムロン:ファクトリーオートメーション、ヘルスケア、ソーシャルソリューションの領域における社会的課題について、「事業を通じた社会的課題解決」を実現するにあたり、全社のマネジメントサイクルへの組み入れの他、経営トップ層の中長期業績連動報酬を決定する際のKPIのひとつに、第三者機関のサステナビリティ指標に基づく評価を採用した。
また、企業が自らテーマや目標を設定して取り組むことの他に、そのような取り組みを行っている企業を支援する、という間接的な取り組み方も考えられます。例えばその取り組みとして、データの提供が挙げられます。SDGsの達成に資するようなデータを収集・加工し提供、販売することで、SDGsに貢献する企業も存在します。
【参考事例】
・さくらインターネット:現在、さくらインターネットはTellusという衛星データを収集し、さらにそれを処理できる基盤と共にサービスとして提供しています。衛星から撮影した画像を元に、違法な森林伐採をなくしたり、農業開発に寄与したりと、SDGsの取り組みに非常に適したデータといえます。衛星データを提供し、様々な企業にSDGsの取り組みを広げていくことが、さくらインターネット社の一つのSDGs達成のための貢献ということができます。
最後に、業界別にどのような取り組みがされているのか、9業界+1の事例を厳選してを紹介します。
- 業界別
業界、企業の特徴に合わせて、様々なSDGsに向けた取り組みがされています。これらの取り組みは、KPMG及び国連グローバル・コンパクトによって、SDG Industry Matrix(産業別SDG手引き)として、産業×目標としてまとめられておりますので、是非参照ください。
それではほんの一部ですが、これらの事例を、以下に紹介していきます。
【参考事例】
・金融サービス×1~17 ブラックロック:世界最大の、資産運用会社であるブラックロックもESG/SDGsに対する取り組みに積極的です。SDGsの全目標と当社の取り組みの関係性を示すだけではなく、温暖化ガスの排出量を差し引きでゼロにする「カーボンニュートラル」に向けた事業戦略を開示を求めるなど、ESG投資の面でSDGsの貢献に寄与しています。
・運輸×1~17 日本航空:CO2排出量が非常 に多いとされ、SDGsの文脈から風当たりが強い日本航空ですが、目標13:気候変動に具体的な対策を、も含めて全17の目標に関する取り組みを記載しています。当該の目標にはバイオジェット燃料の使用などの目標が掲げられており、今後どのように業界として、企業として取り組みを行っていくのか、注目が集まります。
・製造(建設業)×3~17 積水ハウス:住宅の断熱性を高めるなどの工夫でより少ないエネルギーでの生活を実現するZEH「グリーンファストゼロ」や太陽光発電などで創り出したエネルギーで自給を目指す、事業で使用する電力を全て再生可能エネルギーにすることを目標にする環境に関する取り組みなどが行われています。
・製造(精密機械)×3,5~15,17 コニカミノルタ:オフィス機器、産業用機械、ヘルスケア向けのプロダクトを製造、販売されているメーカーである当社は、解決すべき5つの重要課題を設定した上で、それら社会・環境課題に関して2030年に目指す姿を示して、DXでそれらを実現していくことを標榜しています。
・ヘルスケア×3,9,10,17 ノバルティス:四つの疾患の領域(心血管疾患、2型糖尿病、呼吸器疾患、乳がん)について、世界保健機関の指定する必須医薬品すら低中所得国ではまともに手に入らず、価格の面でも入手が厳しいため、低中所得国向けに1か月分の治療薬の価格を平均1米ドルに設定、販売している。
・食品・飲料・消費財×1~4,5~9,11~15,17 キリン:ビールメーカーで有名なキリンは、「酒類メーカーとしての責任」として飲酒問題に関連する目標を掲げたり、関連会社に健康食品が存在することを生かして健康問題に取り組んだり、包装に用いられるプラスチックの削減・リサイクルや工場から排出されるCO2の削減などを掲げており、自社のドメインとSDGsを的確に結びつけ、目標設定して取り組みを行っている。
・食品・飲料・消費財(小売業)×1~4,7~9,11~15,17 ローソン:小売業は廃プラスチック問題や、食品ロスの発生、資源の利用、気候変動への対応など、様々な社会課題と密接に関わっています。当社においては、社会へのインパクトとローソンへのインパクトの2軸において、両方大きいとなる部分について対応していくことを標榜し、2030年までの具体的な目標も設定しています。
・エネルギー×1~3,7,13 ユーグレナ:前述のテスラも同様ですが、日本ではミドリムシを健康飲料販売やエネルギーへの利用を目指す当社が、当業界におけるSDGsの担い手として有名です。「実証プラントで製造したバイオ燃料を陸・海・空における移動体に導入すること」などを目標にバイオ燃料事業を産業として確立することを目標に掲げています。
・その他(通信)×1~13,15,16 Cisco:ネットワークやサイバーセキュリティ、コラボレーションのテクノロジーを活用して世界のホームレス問題解消のためのソリューションを構築するなど、SDGsの達成に努めています。世界経済フォーラムにおいてサスティナビリティーへの貢献度を評価した「Global 100 Most Sustainable Corporations in the World」において、3位になるなど、世界的に高い評価を受けています。
・その他(衛星製造・運用)×1,4,5,7,8,9,11,13,17 スカパーJSAT:衛星の製造、運用を行っているスカパーJSAT社においては、事業継続計画(BCP)支援として災害医療救護通信エキスパート育成・衛星通信サービスの無償提供を行っていたり、東南アジア教育環境向上への貢献(通信環境及び教育環境の提供)を行っています。
また、現状SDGsを語る際には地球上における問題がフォーカスされがちですが、実は宇宙空間においても持続可能な開発に留意する必要があります。それが宇宙空間に漂う機体の破片等のゴミであるデブリであり、この発生の抑制や適切な除去をしていく必要があります。当該の問題に取り組みもスカパー社は行っています。
(4)総括
本稿に記載した通り、既にSDGsは世界的な潮流となっており、社会貢献としてではなく、ビジネスにおいて取り入れることが必要な要素となりました。特に投資家はESG(環境、社会、企業統治)の観点から企業への投資を判断していますので、この潮流がチャンスとなるか、リスクとなるかについては、企業の取り組み次第と言えると考えます。
今、このタイミングが地球の温暖化などを防止できる最後のタイミングだと言われています。私たち以降の世代に今と同じ地球を残し、選択肢を与えてあげることができるのは今と考え、是非本テーマに興味を持っていただければと思います。
また、本稿に記載した事例以外にも、もっと事例を知りたい方がいらっしゃれば、SDGsに関する事例が記載されている外務省のサイト「JAPAN SDGs Action Platform」が参考になるかもしれません。
提供元・宙畑
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