(2)SDGs関連のビジネスチャンスとビジネスリスク
これまでSDGsとは何か、を説明してきましたが本章ではどのようにビジネスと繋がっているか、なぜビジネスチャンスなのかを説明したいと思います。
特に定義が決まっている訳ではありませんが、大きく①SDGs達成に向けた資金調達の機会が多くなること、②SDGsの取り組みが盛んになり、加えて新しい価値が創出されることの2つに分類できると考えます。
①SDGs達成に向けた資金調達の機会が多くなる
SDGsの取り組みが盛んになることによって、より一層SDGsの達成に向けた資金の調達が受けやすくなります。その事例を以下に列挙します。
ESG投資家からの評価向上のための価値創造ストーリー構築(事例:セイコーエプソン株式会社)
ESG投資家からの投資を企業が受けることにより企業はSDGsの達成に向けた取り組みをさらに推進していくことができます。本件に関連する企業の取り組みとして「統合報告書」が挙げられます。これは企業が財務指標と合わせてESG/SDGsに関する取り組み、それらを合わせた価値創造ストーリーを記載したもので、これを公表することで適切に自社の取り組みを外部投資家にアピールすることを企図しています。
例えば、日本の大手メーカーの一つであるセイコーエプソン社においても統合レポートという名前で統合報告書が公開されており、プリンターをはじめとしたオフィス機器メーカーならではのSDGs達成に向けた取り組みや価値創造ストーリーが記載されています。
投資によるスタートアップの資金調達(事例:Life is tech)

投資を受けるにあたり、企業の規模は関係ありません。中高生向けのプログラミング教育事業を手がけるライフイズテック株式会社は、社会的インパクト投資を受ける形で、総額約15億円の資金調達を行っています。インパクト投資とは、社会や環境にポジティブな変化を生み出す事業を対象とし、社会的成果と経済的リターンの両立を目指す投資のことです。子供たちにアプリケーション・ITスキルや自ら考える力を提供し、社会・世界を変えていく人材を育成する当社を体現するような資金調達の方法であるといえます。
当社は資金調達後、ICT教育事業連携に関する協定をつくば市と結び、「次世代SDGsプログラミング教育」の実施を目指しています。ESGに関する投資を受けた当社が、地域の課題やSDGs課題などの解決に向けて実社会をより良くするためのプログラミング教育推進を行う、つまりSDGsに関する取り組みをさらに啓蒙するという形でSDGsの達成に寄与していると言えます。さらに当社は、企業に対するSDGsに関する研修も行うなど、SDGsの達成に向けて幅広く取り組んでいます。
ESG債(事例:JR東)
代表的な例として、環境関連の事業に資金使途を絞った「グリーンボンド(環境債)」、社会貢献事業に資金を充てることを目的とした「ソーシャルボンド(社会貢献債)」、環境・社会貢献の両方を目的とした「サステナビリティボンド」の3種類があります。例えば、JR東などもバリアフリー設備を充実させた車両や蓄電池を動力源とする電車の製造のための資金を、サステナビリティボンドで調達しています。
SDGs- IPO(事例:ポピンズ)
SDGsへの取り組みのために獲得資金の使用用途を限定したIPO、という手段もあります。例えば保育事業を展開するポピンズは、調達した資金は保育施設の新設など社会課題の解決につながる事業に限定して使うことを公表してIPOを行っています。
②SDGsの取り組みが盛んになり、加えて新しい価値が創出される
企業としてもSDGsの取り組みを加速させると共に、SDGsが進むことにより価値が創出される新しい技術を開発をすることで、SDGsの達成のための取り組みをさらに推進していきます。
その代表格が電気自動車です。今までガソリンを燃やし二酸化炭素を排出し続けていた自動車ですが、現在は排出する二酸化炭素を減らすため、動力が燃料電池や電気に代替されはじめています。
さらに、燃料電池に使用する水素を発生させるために必要な電力も、その発生をカーボンニュートラルにすることが求められるなど、SDGsの達成に対して価値を発揮する分野は多いと考えられ、当該分野への参入が大きなビジネスチャンスになり得ます。
以上、①SDGs達成に向けた資金調達の機会が多いこと、②SDGsの取り組みが盛んになってくることによる新しい価値の創出が新しいビジネスチャンスとなります。
ここで、これまでの話をまとめると以下のようになります。

まず、企業が事業を運営するためにはお金が必要で、そのお金を調達する手段として近年注目が集まっているのがESG投資です。そして、そのお金を元手に企業はSDGsというゴールに向かって事業を推進しているということです。また、お金があれば必ずSDGsが達成できるわけではなく、お金だけではない外的環境のイノベーションやESG投資を受けた企業による新たなイノベーションが創出されることでSDGsの達成がより加速します。
一方、これらのビジネスチャンスの裏返しとして、SDGsの達成に取り組まない企業については今後市場からの厳しい目が向けられるはずです。既に多くの投資家がESGを考慮した投資することを目的とした、前述のPRIに署名をしており、その動きは単なるポーズではなく、「本気」の状況です。
例えば、SDGsを一切考慮せずに化石燃料を燃やして際限なくCO2を排出するのであれば、その企業がいくら利益を出して儲けようとも、投資家は投資をせず、株主は経営陣を解雇する……そのような時代が訪れることもあり得ます。これからはSDGsに取り組まないことがリスクになるとも言えるでしょう。