(2)データ利活用に取り組むスマートシティ、国内外実例10選
海外
世界を見渡すと、スマートシティ化が進んでいる都市には、英国・ロンドン、米国・ニューヨーク、サンフランシスコ、シカゴなどがあげられますが、ここでは特に複数分野でのデータの利活用が期待されている5つの都市を紹介します。
オランダ・アムステルダム
ヨーロッパの中でも環境問題に熱心に取り組むオランダの首都、アムステルダムでは、2009年よりエネルギー消費とCO2排出量削減を軸に、暮らし・職場・交通・公共空間・オープンデータの4つの分野にわたってスマート化を進めています。具体的には、住宅の近隣にあるサテライトオフィスを利用できる取り組みや、駐車場の空き情報を確認できる「スマートパーキング」などがあげられます。
スマート化の一環でリリースされたオープンデータのプラットフォームには、人口や経済、風力タービンに関するデータセットが用意されています。

Source : maps.amsterdam.nl/?LANG=en、『宙畑』より引用)
さらに、デジタル上でアムステルダムを再現した「3Dアムステルダム」が公開されています。

Credit : 3DAmsterdam、『宙畑』より引用)
デンマーク・コペンハーゲン
デンマークの首都・コペンハーゲンのスマートシティ化に向けた取り組みは、「コペンハーゲン2025気候プラン」で策定されたカーボンニュートラルな街を目指すという目標のもと、2012年にスタートしました。
自動車や自転車の位置情報を収集し、交通渋滞の改善やCO2の削減に役立てるプロジェクト「CITS」や、人や車両の移動データ、温度と汚染物質の分布などが計測できるセンサが搭載された街灯を設置するプロジェクト「DOLL(デンマーク街灯ラボ)」などが進められています。収集したビックデータは、2016年にリリースされたデータ取引市場で購入することができます。

Credit : DOLLSource :doll-livinglab.com/webapp/?catid=21、『宙畑』より引用)
このほか、デンマークでは、ノーハウンやオーフス、オーデンセなどの都市もスマートシティ化に取り組んでいます。
シンガポール
領土面積が東京23区とほぼ同じシンガポールは、2014年より国全体で「スマート国家」を目指す取り組みを始めました。
IoTセンサを国全体に展開して、大気の汚染状況や気温、顔認証などのデータを収集して、行政や民間企業に提供するプラットフォームを構築するプロジェクトや、デング熱対策のため蚊の繁殖状況を確認して、ドローンで殺虫剤を散布するプロジェクトなどが行われています。
また、シンガポールでは国土全体の地形や建設物、交通インフラなど全ての情報を統合して、3Dモデルとして再現する「バーチャル・シンガポール」を構築しています。この取り組みは一般的には「デジタルツイン」と呼ばれ、都市計画のシミュレーションに役立てられます。

Credit : National Research Foundation SingaporeSource : youtube.com/watch?v=y8cXBSI6o44&feature=emb_imp_woyt、『宙畑』より引用)
中国・上海
中国上海市は2020年のスマートシティ:アワードで大賞を受賞した都市として、注目を集めています。5Gの普及率の高さやe-ガバメントなどの取り組みが受賞の決め手になったようです。
上海は、2015年に大手IT企業のアリババとテンセント、2018年には総合家電メーカーのシャオミと協力協定を締結するなど、ITジャイアントとの連携を進めていることでも期待されています。
カナダ・トロント
Googleの兄弟会社にあたるSidewalk Labs(サイドウォーク・ラボ)は、2017年よりカナダ政府とパートナーシップを組み、同国最大の都市・トロントのスマートシティ化プロジェクト「Sidewalk Toronto」に取り組んでいましたが、Covid-19(新型コロナウイルス)感染拡大の影響を受けて、2020年に撤退を発表しました。
エネルギーマネジメントシステムや、交通状況に合わせて信号をコントロールするシステムの導入、地下のトンネルにロボットを配備して貨物の配給や廃棄物の収集を行い、騒音や大気汚染を改善しようとするものなど、画期的な取り組みが計画されていて、世界から注目を集めていました。

Credit : Sidewalk Labs、『宙畑』より引用)
しかしながら、人やモノなどの動きをセンサで把握することに関しては、データの利活用やプライバシー問題の観点から、住民から抗議の声も上がっていて、プロジェクトの徹底につながったのではないかと言われています。
国内
日本においても、スマートシティ化に乗り出す自治体や企業が増えてきています。ここでは、特徴的な6つの事例を紹介します。
北海道札幌市「DATA-SMART CITY SAPPORO」
北海道札幌市は、2019年に「札幌市ICT活用戦略2020」を策定し、ビッグデータとオープンデータの活用を促す取り組みを進めることを発表しました。その一環として開設されたWebサイト「DATA-SMART CITY SAPPORO」では、人流データや防災関連情報をはじめとする官民データを検索したり、ダウンロードしたりできるデータカタログや提供されているデータをグラフやマップなどでわかりやすく見える化したダッシュボードなどのコンテンツがあります。

Credit : DATA-SMART CITY SAPPOROSource : data.pf-sapporo.jp/、『宙畑』より引用)
さらに札幌市では、キャッシュレス化に向けて決済端末の導入を促進しています。購買データを収集し、飲食メニューや販売商品、プロモーションの改善に役立てられるよう分析して、提供する計画です。
福島県会津若松市「スマートシティ会津若松」
東日本大震災の影響を大きく受けた福島県会津若松市は、復興に向けた取り組みの一つとして「スマートシティ会津若松」を会津若松市とICTに特化している会津大学、コンサルティングファームのアクセンチュアが共同で、2012年にスタートさせました。同プロジェクトの目的は、地域の活性化と人口流出などへの対策でした。
スマートメーターを使用して電力の消費データを収集し、分析して省エネ方法をレコメンドするサービスで、市民の賛同を得ました。他にもオープンデータや匿名化されたパーソナルデータの利活用に向けても、整備が進められています。
また、プロジェクトの一環で、首都圏などの企業が機能移転できる受け皿として、オフィス棟「Smart City AiCT」を開設し、30社を超えるICT企業が集まり、雇用の拡大にも繋がりました。

Credit : 福島県会津若松市、『宙畑』より引用)
東京都港区竹芝「Smart City Takeshiba」
ソフトバンクは2020年9月に、本社ビルを竹芝エリアに移転し、東急不動産と共同で「Smart City Takeshiba」プロジェクトを開始しました。まずは、オフィスビルにさまざまなソリューションを実装し、竹芝地区に展開、そして他都市との連携を目指す計画です。

Credit : Smart City Takeshiba、『宙畑』より引用)
千葉県柏市「柏の葉スマートシティ」
千葉県柏市では、環境との共生、健康長寿、新産業の創造の3つのテーマを掲げて、2000年代から、スマートシティ化に向けた取り組みを行っています。エネルギー運用を効率化するスマートグリッドを国内で最初に導入したことでも知られています。

駅周辺の施設や公園にAIカメラとセンサを設置し、人流を解析することで、混雑情報の提供やマーケティング促進に利用したり、自動運転バスの導入などを実施しています。
静岡県裾野市「Woven City」
2020年1月、トヨタ自動車は、静岡県裾野市にある工場跡地を利用して、実証都市「Woven City」を構築するプロジェクトを発表しました。

Credit : Woven City、『宙畑』より引用)
Woven Cityでは、完全自動運転でCO2排出量ゼロのモビリティのみが走行する道の実現のほか、家庭向けのロボットやセンサーで取得したデータをAIが解析して住民の健康状態を確認できる機能の実証などが計画されています。2021年2月より建設に着手し、2025年には人が住み始められるようになる予定です。
福岡県福岡市「FUKUOKA Smart EAST」
「アジアの玄関口」とも呼ばれる福岡空港からのアクセスが良く、スタートアップ企業の支援にも力を入れている福岡市。

2016年から「FUKUOKA Smart EAST」と呼ばれるプロジェクトを開始し、自動運転や電動キックボード導入の実証実験を行っています。
さらに、メッセージアプリで知られるLINEの子会社であるLINE Fukuokaも、福岡市のスマートシティ化に参画していて、公共交通機関や銀行などのLINEの公式アカウントから混雑状況を確認できる機能をリリースしています。
(3)スマートシティ実現を支えるこれからのテクノロジー
本章ではこれまで紹介してきたスマートシティ化を実現するうえで鍵となるだろうテクノロジーを整理しています。
国土交通省都市局が出している「スマートシティの実現に向けて」でも以下のようなイラストを作成していますが、本記事では特にスマートシティの実現を促進するだろう5つのテクノロジーを紹介します。

Credit : 国土交通省都市局Source :mlit.go.jp/common/001249774.pdf、『宙畑』より引用)
IoT
センサや各種デバイスをネットワークに接続することで、都市内の交通状況や人の移動、気温、大気の汚染状況など測定したデータをリアルタイムに収集することができます。コペンハーゲンのDOLLのように、都市のインフラにIoTセンサが組み込まれるケースが増えていくのではないかと考えられます。
ドローン・衛星データ
ドローンや人工衛星が撮像したデータを地上で計測したデータと組み合わせて使用することで、広域のデータを素早く、均質にデータを取得できます。衛星データは、衛星が搭載しているセンサによってさまざまな種類があり、地形や土壌分布、交通状況や農作物の生育状況などが把握できます。
通信ネットワーク技術
IoTセンサやデバイスが取得したデータを集約するのに、安定した高速ネットワークは必要不可欠です。5Gの導入が進めば、大容量のデータ収集も可能になります。
AI
収集したデータはAIにとって分析されます。また、分析結果を利用して、AIが自律制御できるシステムも増えるのではないでしょうか。
データ可視化
分析されたデータは、行政や民間企業、一般市民に公開され、新しいアプリやサービスへの利用などさらなる波及効果が期待できます。