「YAMAP」では新機能のアイデアはどう生まれる?

ヤマップ流! ユーザーの心をつかむデータを使った新機能リリースのコツ
(画像=Credit : YAMAP、『宙畑』より引用)

中村:今年10月には紅葉の状況がひと目で分かる「リアルタイム紅葉モニター」機能がリリースされましたね! こうした新しいアイデアはどのように生まれてくるんですか?

松本:具体的には、私の属する2人体制の「分析チーム」が朝会で話しこんでアイデアを醸成し、「kibela(キベラ)」で共有します。すると、ビジネスサイドの人間もまじって、みんなでディスカッションが進むんです。データを活用して、もっと面白い登山を体験しよう! という意識は社員みんながもっていますね。

中村:たとえば、上の「リアルタイム紅葉モニター」はどのようにリリースされたんでしょう? 

土岐:「紅葉企画」は毎年やりたくてもなかなか大がかりにできなかったんですが、松本さんが「今年はやるぞ!」と言ってガリガリ作ったんです(笑)。そして、「YAMAP LABO(ヤマップラボ)」で試験的にリリースしました。

中村:「YAMAP LABO」! 独自の試験場をお持ちなんですね。

ヤマップ流! ユーザーの心をつかむデータを使った新機能リリースのコツ
(画像=Credit : YAMAP、『宙畑』より引用)

土岐:そう。新機能を実装する際は、この「YAMAP LABO」でどう使われるかを観察したり、アンケートをとったりして、事前にできるかぎりユーザーの声や情報を集め、精度を高めてからリリースするようにしています。

松本:ウケるかどうかわからないものは「YAMAP LABO」で試すのですが、登山者の安全に関わるものなど必ず利用されるだろう機能は試すことなくリリースすることもあります。

たとえば去年、「みまもり機能」を開発した際は、ひとりのエンジニアが試しに作ってきたものを社員みんなで試し、実証がとれたので、正式にリリースしました。エンジニアがアイデアを出し、実際に機能を作ってもってくるというのも活発だと思います。

中村:なかなか聞かないケースですが、エンジニアがいる企業はそのフットワークの軽さがとても魅力的ですね。ちなみに「みまもり機能」とは?

土岐:電波の届かない山のなかでも YAMAP ユーザー同士ですれ違ったときにBluetoothを使い、位置情報を交換できる機能です。

ヤマップ流! ユーザーの心をつかむデータを使った新機能リリースのコツ
(画像=Credit : YAMAP、『宙畑』より引用)

土岐:交換した人がオンラインにつながる環境にいけば、すれ違った相手の位置情報を YAMAP のサーバーに送信できるんです。もし、相手が遭難してしまった時も救助のための手掛かりになるんです。

2020年5月には、岐阜県・左門岳でYAMAPのみまもり機能が遭難者の居場所を特定するのに役立ち、無事に救助されました。便利な登山ツールではなく、登山者の命に寄り添うインフラサービスになることも、私たちの願いなんです。

「YAMAP」プロジェクトの目標管理と検証方法は?

中村:実装したいアイデアがたくさん出てくる中で、開発の優先順位はどう決めているんでしょう?

松本:いつも約3ヶ月ごとに「OKR(Objectives and Key Results/目標と主な結果)」による目標管理を行っています。「今期はここに集中しよう、そのために一番効果的なのはこの機能だ」という優先順位のつけかたですね。

土岐:ざっくりいうと、常にあるオブジェクティブ(目標)は「規模の拡大」と、「マネタイズ」の2つです。いずれも達成したい数値目標をおき、データを見ながら施策の方針を決めていく流れです。

中村:施策の効果検証ではどんなデータを見るんですか?

松本:まずはOKRで設定した目標数値を達成しているかどうか。「ユーザーのコミュニケーションを促すためにTwitterみたいな機能を作ろう」という施策があったとしたら、「何人が投稿すること」「何%がその機能を使うこと」などの細かい目標値を設定しているのです。

中村:まさしくデータ・ドリブンなんですね! データを読み解くのは一定のスキルがいるものですが、社員の皆さんはデータに親しんでいらっしゃるのですか?

土岐:これまで、データを扱えるのは松本が率いる「分析チーム」だけでした。営業チームや保険チーム目標値を達成できたかどうかの検証は、分析チームに数字を出してもらってはじめてわかることでした。

でも、「Looker(ルッカー)」というサービスを導入すると、みんながデータを自分で読み解けるようになったんです。今は、自分たちで読みといたデータをもとにした提案が増え、改善のPDCAサイクルもすばやく回せるようになってきました。

松本:営業チームが「このセグメントをセールスレターを出し分けてみたらコンバージョンが上がりました」と言っていたりして、まさにデータの民主化です! みんながデータを使いこなして、自力で施策を進めるところまできているのがうれしいですね。おかげでぼくら分析チームにも余裕ができて、新しいアイデアの分析に取り掛かることができる状態ですから。

「YAMAP」と考える! 衛星データの可能性

中村:ここで、山岳アウトドアにおけるデータ活用を長年やってこられたお二人にお願いがあります。ぼくたちの山登りがもっと安全に、楽しくなるような衛星活用のアイデアを一緒に考えてください!

土岐:おっ、いいですね。ぜひ! そもそも衛星画像の更新頻度ってどのくらいなんでしょう?

中村:光学画像は有料の画像なら1日で最大14回、SAR画像は有料の画像なら1日1回以上撮影できる可能性があります。無料の画像でも5日に1回取得の頻度では更新されます。

土岐:実は、さきほど触れた「3Dリプレイ」のデータは衛星写真を利用しているのですが、ものによっては冬に撮られた写真しかなくて、ずっと雪山で表示されたりするんです。春なら新緑、夏なら緑、秋なら紅葉に染まるリアルタイムの山を反映できたらもっと楽しいだろうなと思っていたんですよ。

ヤマップ流! ユーザーの心をつかむデータを使った新機能リリースのコツ
(画像=Credit : YAMAP、『宙畑』より引用)

中村:そういうことなら、無料の光学画像でいけると思いますよ! 定期的に画像を差し替える手間はあるかもしれませんが、できる可能性は十分あります。

土岐:たとえば、実際に現場にいるユーザーが撮った写真と、リアルタイムに近い衛星写真を組み合わせて、VRとまでは行かないにしても、その場でどんな景色が見えるかを仮想的に見せられたら面白そうですね!