ロケットに乗って家族で宇宙旅行へ。まるでSF映画のような夢物語が現実になるかもしれません。
特別な訓練を受けた宇宙飛行士だけに許されていた宇宙の体験を一般の人にも提供しようという機運が高まっています。今回は、「宇宙旅行ビジネスの今」に焦点を当て、実際に宇宙旅行ビジネスを展開している有力企業を紹介。また、今後について考えてみます。
※2021年7月20日にブルーオリジン社のフライト成功を追記しました
※2021年7月12日にヴァージン・ギャラクティック社のフライト成功を追記しました
※2021年7月9日にヴァージン・ギャラクティック社、ブルーオリジン社、スペースパースペクティブ社の説明文を追記しました
※2021年8月16日にヴァージン・ギャラクティック社の販売再開に伴う料金改定について追記しました
(1)旅行ビジネスの市場規模
宇宙旅行ビジネスの前に、旅行市場の現状について確認しておきましょう。
世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)が発表した資料によると、2018年時点での全世界の旅行産業の市場規模は約8兆8千億ドル(約968兆円)。全世界で約3億1900万人の雇用を生み出しています。成長率は、業界全体で全世界のGDP成長率を上回る3.9%。これは成長著しい医療業界、IT業界、金融業界のいずれの成長率も上回るもので、旅行産業が今後も有望な産業セクターであることがうかがえます。
日本国内でも、旅行産業は一大産業です。同資料によると、2018年時点における日本の旅行産業の市場規模は約40兆6042億円で、世界第三位となっています。これは、日本のGDPの7.4%を占めており、日本の旅行産業がいかに大きいかを示しています。なお、日本の旅行産業の特徴として第一に挙げられるのは内需の割合が大きいこと。40兆6042億円の市場のうち、日本人による消費が82%を占めています。外国人による消費は18%しかなく、他の先進国に比べて低いのが特徴です。

世界ランキングでは、アメリカの旅行産業の市場規模がトップです。2018年におけるアメリカの旅行産業の市場規模は約1兆6000億ドル(約176兆円)と群を抜く規模で、世界全体の約18%を占めています。アメリカの旅行産業はアメリカ国内に1560万人の雇用を産む、アメリカの重要な雇用基盤のひとつになっているのです。
(2)実現間近!? 宇宙旅行サービスの現状とその費用、市場規模予測
巨大な市場とともに成長を続ける旅行産業ですが、宇宙旅行が加わると、さらに拡大することでしょう。宇宙旅行産業は、2028年には140億ドル(約1.5兆円)になるとの予測もあります。まずは、実際に宇宙旅行サービスを展開している4つの会社をご紹介します。

現在、宇宙ビジネスで実現に向けて動きがある旅行サービスは、大別すると大きく以下の4つがあります。
1.無重力を体験できる小宇宙旅行
2.滞在する宇宙旅行
3.宇宙を経由した旅行(移動)
4.月・火星への移住

各サービスで実際にどのような動きがあるのか、見ていきましょう。
■無重力を体験できる小宇宙旅行
ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)、費用は1人25万ドルから45万ドルに値上げ

ヴァージン・ギャラクティックは、著名起業家でヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏が立ち上げた宇宙旅行会社です。2004年の会社設立ですので、宇宙旅行会社としては黎明期からいる企業の1つです。
ヴァージン・ギャラクティックの事業目的の1つは「宇宙旅行のための宇宙船を製造し、打ち上げること」です。ヴァージン・ギャラクティックは、2019年2月に「パイロット以外の人員」1名を乗せた宇宙船「VSS Unity」を宇宙空間に到達させ、そのシンプルな事業目的を実現しています。
ヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行プログラムとは、どのような内容なのでしょうか。宇宙船VSS Unityは乗員2名、乗客6名の8人乗りの小型宇宙船です。実際には飛行機のように飛行し、なおかつ垂直上昇して宇宙空間へ到達するので、スペース・エアプレーンという呼び方が正しいでしょう。乗客がVSS Unityに搭乗すると、母機にドッキングされた状態で高度15kmまで飛行し、そこから母機から分離してエンジンを噴射、高度を上げます。
高度80kmに達すると落下を開始し、乗客は4分間程度無重力状態を体験することになります。高度12kmまで降下すると通常飛行モードに切り替わり、後は普通の飛行機のように飛行して地上の滑走路に着陸します。出発から着陸までの宇宙旅行の体験時間は90分程度とされています。
そして、2021年7月11日(アメリカ時間)には、創業者であるリチャードブランソン氏自らが搭乗しての宇宙旅行を実施し、見事成功しました。
気になる料金は、もともと一人25万ドル(約2750万円)だったのですが、8月の予約販売再開のタイミングで約2倍の45万ドルに値上げがありました。
なお、販売再開前の時点で、ヴァージン・ギャラクティックは事前予約がすでに複数の日本人を含む600人程度ありました。今後ますます宇宙旅行に注目が集まることは間違いないでしょう。
ブルーオリジン(Blue Origin)、費用は1人20万ドル?

ブルーオリジンは、Amazon創設者のジェフ・ベゾス氏が立ち上げた航空宇宙企業です。ブルーオリジンの設立は2000年で、ヴァージン・ギャラクティック同様に宇宙旅行の初期の頃から名を連ねる企業です。人類がより安価に宇宙へ飛び立てるようにする。どこかAmazonとも似たようなコンセプトで事業を展開しています。
さて、ブルーオリジンも宇宙旅行サービスの提供を予定していますが、どのような内容でしょうか。ブルーオリジンは、独自開発した再利用型ロケットの「ニューシェパード」を使い、旅行者を宇宙空間へ運びます。ニューシェパードはロケットとクルーカプセルで構成され、6人乗りのクルーカプセルを宇宙空間で放出。ロケットは地上へ帰還し、自動制御で着陸します。
ニューシェパードも、ヴァージン・ギャラクティックのVSS Unityと同様に地上100kmまで上昇。地上100kmでクルーカプセルが分離され、自由落下を開始します。その間、搭乗者は数分程度の無重力状態を体験できるのです。なお、クルーカプセルは自動制御されるため、操縦士は搭乗しません。一定の高度まで落下するとパラシュートが展開され、そのまま地上へ軟着陸します。
気になる料金ですが、ブルーオリジンによると、現時点での料金は一人当たり20万ドル(約2200万円)を予定しているそう。ただし、こちらも前述のヴァージン・ギャラクティックの料金改定に伴い、大きく値上げする可能性が高そうです。
なお、ニューシェパードの打ち上げから帰還までにかかる時間は15分程度。単純に時間だけを比較した場合、ブルーオリジンよりもヴァージン・ギャラクティックの方がお得感があるかもしれません。
2021年7月20日に創業者のジェフベゾス氏が搭乗した初フライトを見事成功。ちなみに、本フライトでオークションで販売されていた宇宙旅行同席の切符は2800万ドル(約30億円)で落札され、世間を騒がせました。