(5)企業だけでなく地域や経済を変えるSF

宙畑
『三体』の話が出たので、中国におけるSFについても伺いたいです。

数十年前まで「眠れる獅子」と言われていた中国が急成長した影に、SF教育やSF作家と企業のパートナーシップ、地方政府とのパートナーシップがあったと知り、驚くと共に深く納得しました。

世界で何が起こっているのかを知り、トフラーが1980年に書いた『第三の波』において唱えた、情報革命による脱産業社会を目指したことや、現在は2050年や2075年以降の戦略について多くの会議が開かれている事実からも、中国が国のさらなる発展にSF思考や未来学を使っているのがわかります。

宮本
SF的な思考が発展したから中国が発展したというよりも、中国はすでに発展したからさらなる飛躍を求めてSF的な思考に目を向けるようになったという流れかもしれません。が、いずれにしても、中国は「5年後に誰を抜く、どの国を抜く」といった目先のことだけをマイルストーンに据えるのではなく、未来の作り方を真面目に考えたり、国としてSF教育をするスキームを作ったり、といった次の一手を打っているのは間違いないです。

ただ、数年前にSF大会のゲストとして成都市を訪れた時は、まだ若干のハリボテ感もありました。煌びやかなディスプレイなどには圧倒されるのですが、建物に一歩足を踏み入れると乱雑な部分も目に入りました。最近は改善しようと努力しているようですが、まだまだ格差の問題もありますし、コピー商品もいまだに出回っています。

しかし、一旦はハリボテで出すけれど、中身をいずれ追いつかせてしまうのが中国かなという気もします。「プロトタイプ・シティ」と呼ばれる深圳市の活況に代表されるように、一旦無理をしてでもプロトタイピングして必要性を外に問うてしまう、みたいな考えもそもそもあるわけで、それはSF思考やSFプロトタイピング的な方法論とは相性が良い部分もあるかもと思います。

宙畑
都市開発もアジャイルに進めているということですね。中国ではSFで町おこしもしているのだとか。

宮本
青海省の蓮湖のことですね。あそこは以前は石油基地だったのですが、石油が枯渇すると放棄されてしまったという土地で、そこで地形が火星に似ているからという理由から「火星体験ができる観光地」としてSF的なPRをしたところ大成功した、という話を聞きました。

僕は日本で、町おこし的なことに対しアドバイスしてくれという小さな依頼に何回か関わったことがあるのですが、そういうとき、「この場所の伝統や歴史を活かした案を出してほしい」的に頼まれるケースが多いように感じました。でも、それだけだと、従来的な町おこしの方法とそんなに変わらないものができるだけなのでは、と思うんですよ。この蓮湖のケースでいうと、地形から過去になかった着眼点の「火星」という連想をして、人々に未来を見させたわけです。

宙畑
日本だと鳥取県が鳥取砂丘を月面に見立てた場所にしようと活動していますね。夜の鳥取砂丘を月面に見立てて、ARグラスやVRゴーグルを使って月面の宇宙飛行士のような体験ができるそうです。

宙畑
こういった例を見ると、SFを学び、SFの使い手を育てる教育に取り入れると国の発展に繋がりそうです。

宮本
もちろん、SFを学ぶことは発展の種になります。ただ、その方法論はよく考えるべきです。たまに「イーロン・マスクが昔ハマっていたというSFを読んだのですが、これが自分のビジネスにどう役に立つのか分かりませんでした」といったような感想をもらいます。それは当たり前で、そういうSFを今更イーロン・マスクと同じ読み方で読んでもスペースXをはじめとする大企業の後追いになって負けるだけです。そもそもほとんどのSF作品は「いまこの瞬間に役に立つかどうか」といった基準を意識しながら読むようには設計されていません。

むしろ、一歩出遅れている日本が今から新しいことに挑戦するなら、昔のSFに書かれていない新しいビジョンを、自分達でゼロから立ち上げることを考えた方が早いと思っています。

(6)SF思考は未来を先取りするメソッド

今回のインタビューと、『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』に書かれた内容をまとめると、「SF思考」は30年後、50年後の未来を想像し、ユーザーニーズや課題を自ら見つけ、自ら解決していこうというものになります。

未来のビジョンを描いてバックキャスティングしつつ、今ある研究開発中のサービスや製品のもつ課題を解決し、さらなる課題に目を向けて調整したり次の研究に繋げることでもあります。アイディアは言語化/視覚化することで人と共有しやすくなるので、小説や映画といった物語形式にします。

そして、SFコンテンツを何かの発展のために使おうとした場合、既存のSFからアイディアを得るよりも、「SF思考」のメソッドを使い、自分たちに合ったオリジナルのSF物語を作る方が有利であることがわかりました。

しかし、オリジナルのSF物語を作ると言われても、難しそうに感じます。そこで、後編の記事では「SFは読むより書く方が簡単だ」と話す宮本氏の考える「SFを書く方法」や、生み出したアイディアを持続させる方法などを伝えていきたいと思います。

提供元・宙畑

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