プライベートブランドは諸刃の剣

メーカーにとって、プライベートブランドは諸刃の剣です。

一定の売上が確保できる、というメリットもある反面、納入価格が安く抑えられ、利益率が大幅に低下する、というデメリットもあります。

公正取引委員会の調査では、以前からプライベートブランドの納入価格が問題視されていました。

「元々NB(ナショナルブランド」=自社ブランド)商品として取引している商品のうち、売行きの良い商品について、包材だけを変えてPB商品として取引している場合が多い。この場合、当社の製造原価は変わらないが、PB商品となる際には3割程度納入単価(納入価格)を引き下げるように求められている」
食品分野におけるプライベート・ブランド商品の取引に関する実態調査報告書(公正取引委員会)

先ほどの「ごま」を例にとり、利益への影響を推測してみましょう。

ナショナルブランド「カタギ食品 有機いりごま 金」は、小売価格281円。対して、プライベートブランド「みなさまのお墨付き 有機いりごま 金」は235円(共に税込)。プライベートブランドの方が、46円安くなっています。

46円が価格に占める比率は16%。

仮に、この16%を全てカタギ食品が負担し、全商品をプライベートブランドに置き換えると、約38億円の売上高は6億円減少します。カタギ食品の純利益は約1億円しかありません。赤字に陥る可能性が非常に高い、と言えます(※2 2021年3月決算値より)。

食品メーカーにとって、自社ブランド(ナショナルブランド)を減らし、プライベートブランド受託を増やすことは、利益減少に直結するのです。

よって、いまの小売への「安価な」納入価格を維持しつつ、プライベートブランドの製造比率を増やし、さらには、原材料の高騰を負担する。これは難しいでしょう。

納入価格の値上げは避けられません。これは、小売の販売価格に反映されます。時間差はあれど、プライベートブランドも値上げされる、ということになります。

国も、納入価格の値上げには前向きです。

「国際的な需給で原材料価格があがる中、適正に価格転嫁が進まなければ食品産業そのものが成り立たなくなる」(農林水産省 新事業・食品産業部企画グループ長吉松亨氏)
「適正に価格転嫁を」 小売り、PB値上げ巡り変化の兆し|日本経済新聞

新たなガイドラインを設定し、小売への価格転嫁を促します。

さて、小売はどう対応するのでしょうか。

値上げに踏み切るプライベートブランド

イオン(イオン株式会社 以下イオン)は、2021年9月に発表した、「プライベートブランドの『年内』価格凍結宣言」を、2022年3月31日まで延長する、としました。

値上げでプライベートブランドシフトが加速する
(画像=イオンニュースリリースより、『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

一見、「価格据え置き」発表のようですが、裏を返せば、4月1日以降は「値上げする」ということです。

「原価率が上がっており、商品単体での利益率は下がっているのが現状。(据え置き期間も)2022年3月31日までが限界に近いと考えている」(イオン株式会社 執行役商品担当 西峠泰男氏)
原価高騰のなか、イオンが「価格凍結」を22年3月末まで延長する理由とは |ダイヤモンド・チェーンストアオンライン

「可能な限り現状を維持する」とする西友や、競合他社も、値上げに追随するでしょう。