なぜ、全米10大モールに21世紀開業のモールがひとつも入っていないのか?

次に、主として賃貸総面積でランク付けした全米10大モールの表をご覧ください。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

まず、アメリカの実売店舗業界で最大の話題を集め、従来は稼ぎ頭でもあった大型モールは、当然何かと議論の対象になるので、あちこちのメディアや調査機関がランキングを公表しています。

その中で、私が『アメリカの10大企業』というサイトの選定したトップ10を選んだについては、ふたつ大きな理由があります。

  1. 賃貸総面積ではなく稼働面積で比較しているので、21世紀に入っていかに巨大モールが凋落したかがはっきりわかる。
  2. 何台分の駐車場を自前で運営しているかが集計されているので、アメリカ型モールにとっての駐車場の重要性もよくわかる。

まず、巨大モールの最盛期は1960~70年代で、すでに1980年代には巨大モール開発はいったん下火になっていました。

そして、1990年代に入ってロウソクが消える直前に輝きを増すように、1992年開業の全米トップと評価の高いモールができたあとには、6位と10位も1990年代後半の開業ですが、賃貸総面積も入居店舗数もぐっと小粒になってしまいます。

首位のモール・オブ・アメリカを運営しているトリプル・ファイブも、現在経営危機の真っただ中にあるアメリカン・ドリーム・モールも同じ企業というより、同じ一族の経営なのですが、どうやら倒産隔離のために別会計にしているようです。

モール・オブ・アメリカがあるミネソタ州ブルーミントンは、よく双子都市と呼ばれる州内最大のミネアポリスからも、州都であるセントポールからも行きやすい場所にあり、どちらからも集客できるので巨大モールが成功したと言われています。

じつは、このモールが成功するまで、ミネソタ州都市部はモール不毛の地と呼ばれていました。どちらの市も都心部にモールを造ろうとしても、用地取得の制約もあって6~10階の中層都市型モールを建てては惨敗してきたのです。

ただ、その中でミネアポリス最初のモール、ロエブ・アーケードは1914年、第一次世界大戦開戦の年という不吉な出発だったにもかかわらず、ご覧のようにアールデコ調の優雅な建物や宣伝ポスターの力もあって、1950年代までは繁盛していました。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

このポスターでは飾りのように正面にたった1台だけ描かれていた自動車が大衆の交通機関となるとともに、中層建物の売り場面積にふさわしい台数のクルマを収容するスペースがどうしても捻出できなくなって、アメリカ中の都市型モールが没落していったのです。

ほかの都市では比較的あっさりと郊外巨大モールの誕生を許したのに、双子都市ではそうなりませんでした。

おそらく、2都市を合わせれば都市型モールを維持するだけの集客を見こめるけれども、どちらもそのモールを相手方の土地に建てられたくないという意地を張っていたからでしょう。

そうこうしているうちに、ブルーミントンという「中立」の立地に全米最大の郊外型巨大モールを建てられてしまったわけです。

独立戦争でも南北戦争でも戦場となったバージニア州フレデリックスバーグにある、6位のセントラル・パーク・モールは、賃貸総面積では当然トップ10に入る規模にもかかわらず、ほかのランキングではまったく入選していません。

おそらく、ほかの選定者たちは、自前の駐車場がないモールは適格条件を欠いていると判断して初めから審査対象に入れていなかったのでしょう。

モール運営母体か、このランキングの選定者もそれをかなり気にしていたようです。

ほかのモールの写真は内部を写したものばかりなのに、このモールだけは遠景にして「自前の駐車場はなくても、すぐそばにかなり大きな駐車スペースはありますよ」ということを強調しています。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

すぐ前に広大な駐車場があると言っても、自前でないといろいろ不自由もあるでしょう。かなり安定した収益源がひとつ減るという問題もあります。

それは着工する前からわかった上で、強引に郊外型巨大モールを建てたわけです。

アメリカがいかに広い国だと言っても、1990年代後半にもなると幹線道路沿いに巨大モールを建てられるほどのスペースを確保するのは、かなりむずしくなっていたのではないでしょうか。

たんに新設がむずかしくなっただけではなく、すでにしっかり顧客層をつかんでいたランドマーク的なモールでさえ、とくに都市型立地で増える駐車場需要に対応できる空き地が周辺にないと寂れていくようになりました。

迷子になる楽しさを体験させてくれたホートン・プラザの、哀しい末路

その典型が、「体験建築」を提唱したジョン・ジャーディの出世作となったサンディエゴ市中心部のホートン・プラザです。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

ほぼ正方形の敷地に対角線状に切れ目を入れて、双方の各層の階高を微妙に違えてスロープでつないだり、当然通り抜けられるように見えた通路が突如行き止まりになったり、下の層に行くための抜け穴が隠されていたりといった、迷路に似た設計になっています。

主設計者のジャーディは、熱狂的な読者の多かったSF作家、レイ・ブラッドベリがどこかで言った「旅の楽しみの半分は迷子になることの審美性にある」ということばからこの発想を得たと言っています。

構造だけではなく、色彩的にもほとんど原色は使わずに華やかな雰囲気を醸し出すなかなかしゃれた色使いをしています。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

福岡市のキャナルシティ博多は、おそらくこのモールからアイデアをいただいているところが多いのではないかと思います。

ただ、もともと配色が抑制されたものだっただけに、自動車のアクセスが困難で客足が途絶えてしまうと、一層みすぼらしくなってしまいます。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

そして、最後まで残っていたキーテナント、メイシーズが2020年に全米各地での店舗削減の一環として、サンディエゴ店も閉鎖すると決めたので、ほぼ全面取り壊しに近い大規模な再開発が実施されることになりました。

土地建物を丸ごと買い取ったストックデ―ル・キャピタル・パートナーズ社は「対角線で切り取られたふたつの直角三角形という基本構造は活かしたまま、ハイテク企業の研究会衣鉢部門ばかりをテナントとするテクノロジー・キャンパスとして2022年に再開する」と言っていました。

巨大モール、アメリカン・ドリームが開業丸3年保たずにアメリカン・ナイトメア(悪夢)に
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

最近、学生のころ頭に浮かんだアイデアを追っかけているうちに、ほとんど苦労らしい苦労もなく大富豪になってしまったハイテク企業の創業者たちが、自社の敷地をキャンパスと呼ぶのが流行っているようです。

そういう流行に便乗することにも不安を感じますが、ただでさえクルマ以外の陸上交通機関が極端にとぼしいサンディエゴ都心部にあって、駐車場スペースに不足が生じるのはわかりきっているだろうと思います。

にもかかわらず、これまた流行に便乗して貴重な平屋根部分の大半は太陽光発電パネル設置に使ってしまって、駐車場スペースはごくわずかになりそうです。

どうもこの再開発は大失敗に終わりそうな気配濃厚だと思います。

後半では、そもそも実売店が不振なのはeコマース(日本流に言えばインターネット通販)に負けているからだろうかについて論じます。

文・増田 悦佐/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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