昨今、終身雇用が見直され、さまざまな理由から転職活動を行う人が多くなりました。マイナビの調査によると、正社員の転職者は、2016年から2019年の間に、約2倍増えています。

転職活動を前向きに捉える人も多く、今後さらに転職率は増えることが予想されます。個人としては、転職活動はキャリアアップに繋がる良い機会になるでしょう。

一方、企業としては「せっかく社員を育成したのに……」と思うものです。

そこで導入したいのが、アルムナイ採用。社内の内情や専門知識のある社員を再び雇用することで、育成のコストを削減できるだけでなく、転職先で獲得したスキルを会社に還元してもらうことも可能です。

今回はアルムナイ採用の事例や実態をお伝えした上で、メリットと導入のポイントをご紹介します。

目次
アルムナイ採用とは?
アルムナイ採用の事例3選

アルムナイ採用とは?

アルムナイ(alumni)とは、英語で「卒業生」を意味する単語。同時に、会社を退職したOB/OG社員を指す言葉としても使われています。

「アルムナイ採用」とは、退職した社員を、再び雇用する採用方法です。「カムバック制度」とも呼ばれます。転職した社員をはじめ、育児や介護を理由に退職した社員などが対象になります。

現在、厚生労働省は育児カムバック制度を支援しています。育児や介護等で職場をはなれた女性を再雇用する企業に、助成金を給付するなど、国もサポートをはじめている採用方法です。

アルムナイ採用の現状

昨今注目されているアルムナイ採用ですが、実際どのぐらい広まっているのでしょうか。まずは、アルムナイ採用の現状から見ていきます。

次の表は、マイナビの中途採用状況調査2020年版(2019年実績)で明らかになった「従業員数に応じたアルムナイ採用の導入率」です。調査した会社のうち、約66%がアルムナイ採用を実施しています。

アルムナイ採用を
導入している
アルムナイ採用を
導入していない
60人未満0.4790.659
60〜299人0.6580.342
300人〜0.80.2
全体0.6590.341

(※株式会社マイナビ「中途採用状況調査2020年版(2019年実績)」の図5「アルムナイ採用実施」より、筆者が表を作成)

しかし会社規模ごとに見ると、大きな差があります。従業員300人以上の企業では、8割の企業がアルムナイ採用を導入しているのに対し、従業員60人未満の会社では、実施率が5割を切る結果に。

パーソル総合研究所で行われた調査でも同様に、従業員規模5000人以上の企業ではアルムナイ採用の実施率が20.2%なのに対し、従業員5000人以下の企業では実施率が8.6%でした。

以上のことから、大企業ではアルムナイ採用を導入する傾向が見られるものの、中小企業ではまだまだ導入が進んでいないことが見受けられます。

アルムナイ入社の現状

まだまだ実施率が高いとは言えないアルムナイ採用ですが、実際にアルムナイ採用で再入社する人は、どのぐらいいるのでしょうか?

パーソル総合研究所の調査によると、再入社した社員のうちカムバック制度を利用した社員は、全体の4%。約76%の社員は「上司や同僚に誘われた」「上司や会社に自分から打診した」といったように、非公式の形で会社に戻っていました。

ただし同調査では、アルムナイ向け施策がある企業の方が、企業への再入社の意向が3倍以上高いことも明らかになっています。現状は、非公式で入社する人が多数ですが、アルムナイ採用やアルムナイ向けの制度を整えることで、さらに多くのアルムナイが戻ってくるかもしれません。

「アルムナイ経済圏」では年間1兆1500億円の経済規模!?

アルムナイ採用とは? 退職者を”即戦力”として再雇用する、これからの賢い人事戦略
(画像=▲出典:パーソル総合研究所、『Workship MAGAZINE』より引用)

会社のアルムナイを巻き込んだ経済活動を指す「アルムナイ経済圏」の規模は、1兆1500億円/年とも言われています。

「アルムナイ経済圏」はパーソル総合研究所による造語。離職者による元在籍企業・元同僚との取引範囲を意味する(引用:パーソル総合研究所)

アルムナイ採用だけでなく、退職後もアルムナイと繋がる仕組みを作るのがベストといえるでしょう。

アルムナイ採用の事例3選

「アルムナイ採用やアルムナイ向け制度を打ち出したいけど、どうしたらいいか分からない……」という方も多いのではないでしょうか。

そこで、実際にアルムナイ採用やアルムナイ向けの制度を行っている電通、アクセンチュア、スープストックトーキョーの実践例をご紹介します。

事例1. 電通(アルムナイネットワーク)

アルムナイ採用とは? 退職者を”即戦力”として再雇用する、これからの賢い人事戦略
(画像=▲出典:電通デジタル、『Workship MAGAZINE』より引用)

電通では「DENTSUALUMNI」を立ち上げ、アルムナイとの関係を積極的に作り上げています。アルムナイネットワークでは、アルムナイ同士が交流したり、アルムナイの現在の活動を確認したりすることが可能です。

また電通デジタルでは、「一度卒業したとしても、いつでも再入社のチャンスがあります」と採用HPで宣伝しています。

事例2. アクセンチュア

アルムナイ採用とは? 退職者を”即戦力”として再雇用する、これからの賢い人事戦略
(画像=▲出典:accenture、『Workship MAGAZINE』より引用)

電通と同様に、アクセンチュアもアルムナイ同士が繋がれる「アクセンチュア・アルムナイ・ネットワーク」を整備しています。

復職のサポートはもちろん、アルムナイを通してネットワークを広げたり、アルムナイや社員同士で連携したりすることで、双方にとって好ましい関係づくりを続けています。

事例3. スープストックトーキョー

アルムナイ採用とは? 退職者を”即戦力”として再雇用する、これからの賢い人事戦略
(画像=▲出典:スープストックトーキョー、『Workship MAGAZINE』より引用)

スープストックトーキョーは、バーチャル社員証を導入。バーチャル社員証があれば、お会計時の割引や、再就職できる制度を利用できます。なおバーチャル社員証を発行するのに、勤務年数は関係ないとのこと。

アルムナイ採用と同時に、アルムナイ経済圏を広げる活気的な取り組みをしています。