近年、「人生100年時代」という言葉がいろいろな場面で使われています。
この言葉に対する印象は、人によってさまざまです。「長生きができて素晴らしい」と思う人がいる一方、「そんなに長生きしたくない」と感じる人もいます。
ただ、長生きについて前向きにとらえている人であっても、金銭面においては不安を感じている人は多いのではないでしょうか。
資産寿命とは?
「資産寿命」とは、貯蓄や退職金など現役時代に築いてきた資産が、老後の生活を営む中で尽きてしまうまでの期間のことを指します。
日本は世界有数の長寿大国です。
経済的に豊かで衛生状態が良く、医療制度も整っていることなどが長寿の理由だといわれています。
それ自体は喜ばしいことなのですが、素直に長寿化を喜べなくなってきています。
実は近年、「長生きする」ことが「リスク」となってしまっているのです。
長生きすることがリスクになる?
「長生きすることがリスクになる」ということは、どういうことでしょうか。
現在、公的年金は原則65歳から受け取ることができるようになります。
リタイア後から年金の受給開始までの間は、自ら保有する資産の取り崩しによって、年金受給開始後は、給付額と月々かかる生活費との差額を自ら保有する資産の取り崩しによってまかなうことになります。
そのため、長寿化によってリタイア後の人生が長くなると、保有資産が底を突いてしまう時期が来る可能性が高くなってしまうのです。
長生きするリスクは多くの人が感じているようです。
アクサ生命保険が行った「人生100年時代に関する意識調査」によりますと、人生が100年になること自体は50.7%の人が「ポジティブ」と回答しているものの、「長生きすることはリスクになると思うか」という質問に対しては「そう思う」という回答が78.6%にも上っています。
(参照)アクサ生命保険株式会社「100歳まで生きたい」人はたったの21.2%! ― 老若男女1,000名に聞いた「人生100年時代」のリアル
資産寿命が寿命に届かない?
厚生労働省が発表した「平成30年(2018年)簡易生命表」によりますと、日本の平均寿命は2018年現在で男性81.25歳、女性87.32歳となっています。
この数字だけを見ると「まだ100歳には届いていない」と思われるかもしれませんが、これは平均寿命なので別の指標を見る必要があります。
同表の65歳の人の平均余命(あと何年生きることができるのか)を見ると、男性19.7年、女性24.5年となっています。
つまり65歳まで生きた人はその後、男性には約20年間、女性には約25年間もの平均余命があるのです。
さらに、生命表上の特定年齢まで生存する者の割合を見ると、男性の26.5%、女性の50.5%の人が90歳まで生存しています。
つまり、男性は4人に1人、女性は2人に1人が90歳まで生きるということです。
また、健康寿命も延びています。
健康寿命とは「日常生活が制限されずに暮らせる期間」と定義されていますが、2016年時点で男性が72.14歳、女性が74.79歳となっています。
(参照)厚生労働省 平成30年簡易生命表の概況
ゆとりある老後生活にはいくら必要か?
社会現象となった「老後2,000万円問題」
資産寿命という言葉が脚光を浴びるようになったのは、ある出来事がきっかけでした。
2019年6月に日本中で大騒ぎとなり、社会現象にもなった「老後2,000万円問題」です。
この問題の引き金となったのは金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した「高齢社会における資産形成・管理」という報告書です。
この報告書の中で資産寿命という考え方が示され、多くの人の目にとまることとなりました。
この報告書では、以下のモデルに基づいて試算されました。
- 夫65歳、妻60歳の時点で夫婦ともに無職
- 30年後(夫95歳、妻90歳)まで夫婦ともに健在
2017年総務省「家計調査」から割り出した高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の平均額を当てはめると、収入が209,198円、支出が263,717円となり、毎月54,515円の不足が生じる計算となります。
これが12ヶ月、30年続くと合計1,962万円となるところから、老後生活に約2,000万円不足すると言われるようになったのです。
金融資産保有額の実態
以上の試算はあくまで一つのモデルケースであり、すべての人に当てはまるわけではありません。
また、ライフスタイルも人それぞれであり、それによって月々の支出額が変わってくることは言うまでもありません。
しかし、一つの指標になると言えるしょう。
では、国民はどの程度の金融資産を保有しているのでしょうか。
金融広報中央委員会が実施した調査によると、金融資産の平均保有額は単身世帯645万円、2人以上世帯で1,139万円となっています。
統計では、平均値よりも中央値(データを小さい順に並べたとき中央に位置する値。)のほうが実態に近いケースが多いので、中央値も確認しておきましょう。
中央値では、単身世帯45万円、2人以上世帯419万円となっています。
(参照)金融広報中央委員会 家計の金融行動に関する世論調査
さらに世代別に見てみましょう。リタイア後の生活が迫ってきている50歳代を見ると、平均値1,194万円、中央値600万円となり、2,000万円には届いていない実情が見てとれます。
世帯主の年齢 | 平均値 | 中央値 |
---|---|---|
20歳代 | 165万円 | 71万円 |
30歳代 | 529万円 | 240万円 |
40歳代 | 694万円 | 365万円 |
50歳代 | 1194万円 | 600万円 |
60歳代 | 1635万円 | 650万円 |
(参照)種類別金融商品保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)