睡眠薬が効いている間だけ覚醒できる
ゾルピデムは即効性のある睡眠薬である一方で、効果時間が短いことが知られています。
そのためリチャード氏の精神的能力の上昇は一日につき1,2時間が限度であり、ゾルピデムの効果が切れると再び、チューブなしでは生きられない無動無言状態に陥りました。
彼は「睡眠薬が効いている間しか自分を取り戻せなかった」のです。
さらに治療が進むにつれて、医師は薬の効果が低下し始めたことに気付きました。
以前と同じ状態に回復するには、より多くのゾルピデムの投与が必要になり、それでいて効き目や持続時間も次第に弱く、短くなっていったのです。
原因は脳の過活動
しかしリチャード氏は諦めませんでした。
限られた時間を研究者たちが計画した実験に捧げ、意識の回復するメカニズムを解明する道を選んだのです。
結果、非常に重要な事実が明らかになりました。
ゾルピデムを服用する前後で脳波と脳磁波を測定したところ、ゾルピデムはリチャード氏の脳機能の一部を抑制していることが明らかになったのです。
この事実は、リチャード氏のような無動無言の状態は、脳が一種の「過活動」となり、正常な意識の形成が脳の激しい活動の嵐に邪魔されていることを意味します。
また睡眠薬であるゾルピデムには、この脳の過活動を抑制する効果があることが判明しました。
リチャード氏が睡眠薬が効いている間だけ意識を回復させられた背景には、ゾルピデムだけが持つ、過活動の抑制効果があったのです。
ただ代償としてリチャード氏に対するゾルピデムの効果は大きく失われ、現在では効果を発揮するために、2~3週間の断薬期間を要するようになってしましました。