他の温泉マニアとの差別化や自分の強みは?

少年B:
温泉って魅力的だし、日本人ならもれなく好きみたいなジャンルですよね。

永井:
そうですね、「ニッチ」ではないですよね。

少年B:
これは自分が温泉ライターとして書けない理由でもあるんですが、インターネットの温泉オタクって3000箇所とか入ってるとんでもない人たちが普通にいるじゃないですか。発信をしたいと思いつつ、自分なんかが「温泉オタク」と言ってもいいのかな、おこがましいんじゃないかな……って葛藤があるんです。

「趣味だから、やりたい仕事を選んで受ける」温泉オタクの仕事スタンス
(画像=じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

永井:
わかります。正直、自分もその辺りは悩んでいました。温泉は玄人や専門家がたくさんいる世界だから、下手なことを言ったら怒られるんじゃないかとか。

少年B:
永井さんでもやっぱりそう感じていたんですね……!

永井:
「間違ってるぞ」とご指摘をいただくこともありますし、やっぱり怖いんですけど……。でも、それより「伝えて喜んでもらえることが大事」じゃないかなと思っています。

Twitterなどで発信する以前に、身近な人におすすめの温泉を聞かれて、教えたら感謝されることが何度もあって。それで、「めちゃくちゃ詳しい」じゃなくても「価値はある」のかなって、自信を持ったのはあります。

少年B:
確かに、発信しなきゃ始まらないですよね……! じゃあ、他の方々との差別化ってどういうことを考えているんですか?

永井:
図解を大事にしています。基本的に温泉ってわかりづらいんですよね。

「趣味だから、やりたい仕事を選んで受ける」温泉オタクの仕事スタンス
(画像=▲書籍でも図解を入れつつ、わかりやすく発信をしている、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
言ったらなんですけど、小難しいですよね。泉質でもたとえば「ナトリウムー塩化物泉」とかとっつきづらいし、浴感(お湯に浸かった感覚)がどうこうって言われても……。

永井:
そうそう、温泉にいくつも入ると、「ああ、これか」って理解する瞬間があるんですけど、初心者はわかりづらいので。だから「もっとシンプルに、カジュアルな表現で興味を持ってもらう」を大切にしています。

「趣味だから、やりたい仕事を選んで受ける」温泉オタクの仕事スタンス
(画像=じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

永井:
たとえば私の大好きな湯川内温泉って一軒宿で、パッと見の派手さもなくて。お客さんのほとんどは地元の方と温泉マニアみたいなところなんですけど、本当にいいから行ってほしいし行ったらどんな人でも感動する温泉なんですよ。そうやって、ファンが増えて長く営業を続けてくれたら最高じゃないですか。だから「温泉好きだけ」じゃなくて、多くの人に興味を持ってもらいたいなと思いながら発信しています。やっぱり泉質語りたくなってしまうことはあるんですけど───(オタク特有の早口)。

少年B:
語りたいことはあるけど、推しを知ってもらうためにあえて、わかりやすく伝えるってことですよね。新規への布教。

永井:
そんな感じです(笑) あとは、Twitter受けというか、そういう文脈で発信できる評論家さんとか観光協会さんってあんまりいないので、そういう部分に収まったという部分はあるかもしれないです。

永井:
たとえば「一泊いくらだとこういう宿です、こういう滞在の仕方です」みたいな。これ、人の金銭感覚による部分もすごくあるので、危ういんですけど。でも「私の感覚、個人の感覚です」って言いながら、出してみると意外と共感してもらえることも多かったので、ちょっとずつ恐れず出していくようになりましたね。

「趣味」だから苦労はない

少年B:
「温泉オタク」として行ってきたお仕事の苦労や楽しさはありますか?

永井:
しんどくなるまではやらないと決めてるので、苦労はないですね。会社員としての給料があるので、やりたくなかったら断っちゃいます。割に合わないことで大切な土日潰れるのはいやなので、「条件を聞いて、やりたい仕事を受ける」という感じです。

少年B:
本業としてやっていくなら「条件が合わなくても、露出のために受ける仕事」もあるかもしれませんが、そういう苦労がないわけですね。

「趣味だから、やりたい仕事を選んで受ける」温泉オタクの仕事スタンス
(画像=じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

永井:
必死になったり、自分を削って書いたり、少しでも稼ぎたいと頑張ったり……。そう思わないのが続けられる秘訣というか、楽しめる理由ですよね。仮に私から温泉を取っても仕事が残るので、「極力苦労しない」という方法を取っています。

少年B:
じゃあ、本も「すごく出したかった!」というわけではなかったんですか。

永井:
そうですね、「いつか出せたらいいな」くらいで、「どんなに条件が悪くても、本を出せるならやります!」みたいな感じではなかったですね。

今回の本は、エッセイとして楽しくやらせていただけるということだったので、それなら挑戦してみようかな、という感じでした。

「趣味だから、やりたい仕事を選んで受ける」温泉オタクの仕事スタンス
(画像=▲永井さんが書いた『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
今後、やってみたいお仕事や夢はありますか?

永井:
もしも推しの温泉がすごく困ってたら、公式SNSの運用とか、旅行プラン考えたりをしたいかもしれないですね……。でも、温泉や地域に近づきすぎると、「お客さんのための情報」じゃなくなるかもしれないという怖さがあって。

少年B:
どうしても、「この人たちのために伝えてあげたい」って人情が入ってしまいますもんね。

永井:
そうなんですよね。だから基本的にはあまり近づきすぎず「自分がお金を払ってどう感じたか」という情報を伝えていきたいなと思っています。