山火事理論を用いた、過去のオミクロン株予測の検証と、今後の日本を含む世界15カ国のオミクロン株の予測を行います。
1.山火事理論による予測の意味するもの
昨年の11月から導入した山火事理論は、感染拡大の上昇フェーズの陽性者データから初期条件を決定すると、その後のピークアウトの時期、大きさ、ピークの幅が全て決定される、つまりピークアウトのメカニズムを内蔵している理論です。
それまで行ってきた本連載の現象論的取扱いは、既存データを再現するようにパラメータを変化させ、経験則を含めてその延長として予測するものでした(AIによる予測もこの類に入ると思います)。このようなピークアウトのメカニズムを内蔵していない予測とは根本的に異なります。
現在、山火事理論の更なるブラシュアップと定式化を進めていますが、同時に、この理論を現実の現象に適用した場合、どの位データの再現性があるか、多くの国のデータに対して、どの位普遍性と予測性能があるか、を検証しています。
2.実効再生産数Rtの引き起こした問題
現状把握や予測の指標としてよく使われる「実効再生産数Rt」について再びコメントします。Rtの定義は、「ひとりの感染者が何人の人に感染させるかの人数」です。
図1は、日本の陽性者のデータと計算結果から簡易式(東洋経済方式)で求めたRtです。上側がRt(左右とも同じ)、下側が陽性者(左が線形、右が対数表示)の時間変化です。第5波と第6波を入れると、それ以前があまりに小さくなって見えないので、昨年6月の第4波までの図を使います。
左の図で、Rtと陽性者の変化を比較すると、第1、2、3、4波の大小の関係が逆に見えます。Rtは陽性者の変化の「倍率」に比例します。右図の対数表示で見ると、陽性者の変化は、第1波が一番急で、第2、3、4波と上昇の傾きが緩やかになっています。Rtの大きさはこれを反映しています。しかし、Rtはあくまで「倍率」の指標なので、変化「速度」(微分値)とも違います。
例えば指数関数で上昇もしくは減少する場合、「速度」は変化しますが、Rtは一定になります。Rtの大きさや増減が、陽性者数の変化の様子を直感的に示す指標にはなっていません。
では、どのような問題でRtが重要かというと、人口問題や原子炉の実効倍増係数のように1との大小がシビアな問題では甚だ重要です。あくまで1との大小が重要な指標です。それ自体の値の増減を、他の現象の変化と相関を取る、もしくは、Rtを外挿して予測する、ということは適切ではありません。
更にSIRモデルのように陽性者全体を変数とする一体の方程式では、Rtの定義、「ひとりの感染者が何人の人に感染させるか」、ということを定義通り直接計算できません。ある近似を入れて間接的に導出しています。モデルのダイナミカルな変数ではないものを指標にすることも不適切です。本連載では、微分方程式の解法に、テスト粒子を使ったモンテカルロ法を用いているので、個人間の多体の相関であるRtを直接計算できますが、上のような理由で指標としては用いていません。