目次
2号ライダーに嫉妬!? スーツアクターの裏話
53歳目前で突然の独立。フリーランスになってどう変わった?
2号ライダーに嫉妬!? スーツアクターの裏話
少年B:
人数も違いますよね。戦隊はいつも5人で行動するけど、仮面ライダーはそうでもないというか。
高岩:
そうですね。あとキャラクター人気も違ってて。戦隊はだいたいレッドが人気で、女の子はピンク、クールなブルー……みたいな感じでだいたいある程度決まってるんですが、仮面ライダーは露骨に差が出るんですよ。
だから、自分の演じたライダーの人気を気にしたり、「俺のベルトが一番売れてるぞ」みたいな争いがあったり(笑)。
少年B:
そういう仲間うちの競争があるんですね!

高岩:
変身前の役者さんより、むしろスーツアクターのほうが「主役を食ってやるぞ!」って意識は強いかもしれないですね。仮面ライダーって1号は主役、2号はカッコいい役、3号は特殊な立ち位置なんですよ。
じつは、デザインも2号ライダーが一番カッコいいんです。
少年B:
えっ、主役が一番カッコいいのでは……?
高岩:
主役の人気が出るのは当たり前だから、2号をカッコよくして、3号には子どもが食いつきそうな特徴を持たせて、せめぎ合わせるんですよ。だから、そこの嫉妬心はけっこうありますね。いつも「いいな、2号はカッコよくて」と思ってる(笑)。
少年B:
主役ならではの嫉妬ですね。あと気になったんですが、ああいうヒーローの動きはどのようにして学ぶんですか?

高岩:
JACの養成所でアクションのノウハウを教わりますが、あくまでも基礎・基本的なものなので、あとは現場で覚えていきます。自分で自分を磨かないと、その先へは進めない。
少年B:
高岩さんがアクションの参考にしたものはありますか?
高岩:
やっぱり憧れていた真田広之さんのアクションがベースになっていますね。あとはスーツアクターはマスクで表情が見えないし、体の動きをデフォルメしなきゃいけないので、能や歌舞伎、落語の動きなんかも参考にしてました。
少年B:
仕事を終えて、家で研究をするわけですね。大変だ……!
高岩:
スーパー戦隊だとアクションスタイルが忍者だったり中国武術だったりと決まってるので、配役が決まってから勉強したり。できないまでも、ちょっとでも動きを近づける努力をしていました。とはいえ、好きが高じて始めたことなので、別に苦ではなかったですね。

少年B:
これはキツかったなって作品はありますか?
高岩:
キツかったのは……『仮面ライダーウィザード』かな。当時流行っていたパルクールやXMA、つまりアクロバットな動きを求められたんです。でもこっちはもう40歳半ばだったので、若い子みたいにクルクルは回れないじゃないですか。
さすがにアクションは代役を立ててもらったんですが、まったく丸任せにするわけにはいかない。せめてひとつでもふたつでもやらなきゃなと思って、そこは苦労しましたね。動きやすくするために体重を7キロ落としたけど、それでも身体が言うことをきかない(笑)。

少年B:
アクションは代役を立てるからいいや、じゃないんですね。
高岩:
じゃないですね。撮影演出的に、いきなり僕から代役に変わると、カラーが変わりすぎてしまう。だから、途中でうまくバトンタッチができるように、最低限のことはしなきゃいけないんです。ヒーローは同一人物なので。
少年B:
逆に言えば、そのアクションができなくても主演の仕事が来たんですね……!
高岩:
最初は「できません」って断ったんですよ。ヘタに「がんばります」って言って、いざできないと撮影が止まってしまうから。でも、長い付き合いで信頼関係があるので、「大丈夫、代役立てますから」って言ってくれて。

高岩:
そもそも、アクロバットはあくまで演技の一部分。平成ライダーは演技がすごく求められる仕事で、だから「怪我しても、入院しない限りはやってくれ。ごまかして撮るから」って言われてましたね。だからこっちも応えなきゃいけない。
53歳目前で突然の独立。フリーランスになってどう変わった?
少年B:
そんな高岩さんですが、53歳を目前に独立されたのは驚きました。フリーになってまだ日が浅いとは思うのですが、いまはどのようなお仕事をされているんですか?
高岩:
顔出しの俳優として舞台公演をやったり、直近では東映でお世話になっていたプロデューサーさんの紹介で、ひかりTVでドラマの主演を1本やらせていただくことになりました。いまは地上波から離れていますね。
あとはアクション教室や一般の方向けのアクションワークショップを開いたり、家内がやっている中国武術のパフォーマンス集団の指導をしたりしています。どうしても単発・不定期の仕事が多いのですが、毎週行っているアクション教室は固定の収入源なのでありがたいですね。
少年B:
独立した理由についてもうかがえますか?

高岩:
大きな理由はないんですけど、50歳の節目で次世代にバトンタッチしたいという意向がありました。スーツアクターって、いわゆる着ぐるみを着て活動するわけですけど、この年になるとだいぶ体に負担がくるようになって。
それに、変身前の役者さんは10代~20代前半なんですよ。ほぼほぼ自分の息子ぐらいの子の変身後を50過ぎのおっさんがやるって、さすがにちょっと無理があるよなと思ってきて。
少年B:
そういう理由だったんですね。演技にこだわった高岩さんらしい決断……!

高岩:
あとは事務所に身を置いておくとできないこともあったので、自分自身だけでどこまでいけるか試したくなったのもありました。ここ数年、指導・育成を始めていたんですが、それと自分の演技という二足のわらじを履くことが、どうも自分のなかでうまくできなかった。
後ろ盾がなくなるのはもちろん怖いし、年齢も、時期もそうです。令和元年の『仮面ライダーゼロワン』では主役を降りて敵役だったし、コロナの影響で撮影がストップしたこともありました。僕らは1話いくらの契約で出演しているので、それまでの主役をやっていた時期に比べると収入も減りました。
少年B:
そうですよね。正直なところ、フリーランスになるタイミングとは思えなくて。
高岩:
ただ、どっちつかずだと自分のメンタル的なバランスを崩してしまうので、はっきり選んだほうがいいなと。それで生活費がカツカツになるのは一歩踏み出そうと覚悟のうえで独立を決めました。

少年B:
フリーランスになったことで、心境の変化は何かありましたか?
高岩:
『仮面ライダーゼロワン』で主役をバトンタッチした時にもほっとしたんですが、今回フリーランスになって、さらに肩の力が抜けたような部分があって。無意識のうちに、だいぶ気を張ってたんだなと思いますね。ここから「じゃあどうやってお金稼いでいこう」って考えると不安でしかないですけど(笑)。