「キャリアを築くには専門性が必要」と言われることが多くなりました。でも、専門性とは いったい何なのでしょうか。わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも手当たり次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つ人も少なくないはず。
そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチだけどオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。
今回お話をお伺いしたのは、「ミスター平成ライダー」の異名を持つ、スーツアクターの高岩成二さん。スーツアクターとは、着ぐるみなどのコスチュームを着用して、アクションや演技を行う俳優です。仮面ライダーシリーズをはじめとした特撮映画やテレビドラマ、エンターテイメント施設等で多く活躍しています。
高岩さんは18歳からスーツアクターとして活動し始め、長年主役のヒーローを演じてきた大ベテラン。53歳を目前にしてフリーランスに転身した高岩さんに、当時の裏話やスーツアクターならではの仕事の矜持を教えてもらいました。
目次
スーツアクターを志した理由とは
スーツの上からでも「表情が見える演技」を
スーツアクターを志した理由とは
少年B:
はじめまして。高岩さんは、長年「仮面ライダーの中の人」として、『仮面ライダーアギト』や『仮面ライダーウィザード』などに出演されていましたが、やはり子どものころからライダーや戦隊といったスーツアクターが夢だったのですか?
高岩:
いいえ、まったく。小学生の頃の作文には「体育の先生かスタントマンになりたい」と書いていましたね。

少年B:
スタントマン!? なぜスタントマンに憧れていたのですか?
高岩:
子どもの頃からアクション映画が好きで、当時は千葉真一さんをはじめとしたアクション俳優が活躍されていたんです。そのなかでも僕は倉田保昭さんや真田広之さんに憧れていて。ただ、「アクション俳優」っていう言葉を知らなくて、「スタントマン」だと思いこんでいたんでしょうね。だから、実際の夢としてはアクション俳優になりたかったんです。
それで、小学5年生だか6年生のころにテレビのテロップで「JAC(※)」を知って、「ここに入れば俺も真田広之さんみたいになれるのかな」って。
※ジャパンアクションクラブ。高岩さんが所属していたジャパンアクションエンタープライズの前身で、数多くのアクション俳優やスタントマンが所属していた芸能事務所。

高岩:
高校生になってからは「バク転ぐらいできなきゃいけないだろう」と思って器械体操部に入って、高2の春にJACの門を叩くんです。JACではまず2年間は養成所に入るんですが、高校卒業までは学校と部活と養成所を掛け持ちで生活していました。
少年B:
めちゃめちゃハードな生活だ……! アクション俳優を目指されていてJACでも俳優コース志望だったと聞きましたが、そこからなぜスーツアクターに?

高岩:
養成所を無事卒業してJACの正式メンバーになれたんですが、まぁ最初から仕事がもらえるとは思ってなかったんです。でも、事務所から「さっそく今週から仕事があるぞ、やりたいやつはいるか?」と。
早い者勝ちですから、これは真っ先に手を上げなきゃ!と思って、仕事の内容も聞かずに「やります!」って言ったら、「後楽園ゆうえんちのヒーローショーだ」って……。やられた!と思いました。
少年B:
「後楽園ゆうえんちで僕と握手!」ってやつですね。最初はスーツアクターをやりたくなかったんですか?

高岩:
そりゃそうですよ。真田広之さんみたいになりたいと思ってたから、「ヤア!トウ!」みたいな仕事は……もう当時の自分のなかでは論外だったんですよ。でも、手を上げちゃったんだからもう仕方ねぇな、って。
で、最初は悪の戦闘員だったんだけど、デビュー2年後にはヒーローになって。いざやってみたら、だんだんヒーローショーが楽しくなってきたんです。
少年B:
後楽園ゆうえんち(現・東京ドームシティアトラクションズ)のヒーローショー、わたしも見たかったんですけど、関西在住なので結局一度も連れていってもらえませんでした。たしかに熱気がすごそうですね。
高岩:
当時は全盛期だったので、お客さんが2,000人くらいいて、目の前で僕らの動きに興奮してくれるわけですよ。やりがいを肌で感じることができたので、だんだん「顔出てなくてもいっか」となっていったんです。

高岩:
もう「ずっとヒーローショーをやっていきたい」ぐらいの気持ちになっていたんですが、メンバーになって5年目に演じた『恐竜戦隊ジュウレンジャー』からはテレビにも少し呼ばれるようになって。7年目の『忍者戦隊カクレンジャー』では主役のレッドを演じました。
少年B:
なつかしい! 巻物のおもちゃが家にありましたよ。まさかあのカクレンジャーが高岩さんの主演デビュー作だったなんて……!

高岩:
その頃にはもう「顔出しをしたい」なんて思いはなくなってましたね。面を被っていくぞ、という気持ちが大半を占めていて。
スーツの上からでも「表情が見える演技」を
少年B:
高岩さんは演技力の高さが話題になることも多いですよね。カクレンジャーでは、どんな演技を心がけていたんですか?
高岩:
最初はヒーローショーと似たような、わかりやすくデフォルメした表現で動いていました。ただ、スーツアクター12年目の『救急戦隊ゴーゴーファイブ』のころから、演技についても強く意識し始めましたね。

少年B:
仮面ライダーじゃなくて、スーパー戦隊がきっかけだったんですね!
高岩:
そうです。ゴーゴーファイブは5人兄弟の戦隊で、僕は長男坊の役なんだけど、弟に向かってガッツポーズをしたり、大きくうなずいたり……。でも、「兄弟同士で絶対そんな動きはしないでしょ」と思って、だんだんデフォルメされた大きな動きに違和感を覚え始めたんです。
少年B:
わたしも長男ですが、たしかに兄弟でそんなことしませんね。
高岩:
するとしたら、アイコンタクトじゃない?って。すごく自分のなかでモヤモヤし始めて。

高岩:
その頃は「スーツアクター」って言葉はなくて「中の人」って言ってたんだけど、中の人たちで飲みに行く機会があって。「うちらは役者としてこの世界に入ってるんだから、役者として演技をしましょうよ」って話をした覚えがありますね。
少年B:
でも、いきなりそんなことを始めたら監督は戸惑いませんか?
高岩:
最初のうちは何度も「高岩、もっとわかりやすくやってもらっていい?」って言われたんですが、「嫌です、これでいかせてください」って(笑)。
別に監督が折れたわけじゃないと思うんだけど、そのうちに一発OKが出ることも増えてきて。お面の上からでも表情が見えるような動きができてきたのかな、という自負はあります。

高岩:
そのうち、監督がほかのメンバーにも「表情が見えるようにやって」と言い始めたんです。それから打ち合わせを重ねて、変身前の役者さんと動きを擦り合わせて、「変身後も同一人物に見えるような動き」を追求するようになりました。
少年B:
高岩さんのこだわりが作品そのものを変えていったんですね……!
高岩:
あと自分は『仮面ライダーアギト』から仮面ライダーシリーズに移るんですが、そのころからかな、テレビがハイビジョンに切り替わるわけですよ。細かい描写が撮れるようになったので、いっそうナチュラルな動きにしようと。デフォルメされた動きだとわざとらしくなってしまうので。
もちろん、ただリアルに演じても、お面をつけていると伝わらない部分は当然あるので、デフォルメとリアルの匙加減は難しかったですね。

少年B:
仮面ライダーシリーズに移って、変わった部分はありましたか?
高岩:
戦隊はファンタジー色が強いけど、平成の仮面ライダーはけっこうハードなドラマが展開されているので、スーツアクターにも「お芝居」を求められる番組だと思ってます。いい悪いじゃなくて、仮面ライダーの方が対象年齢が高めなんです。

高岩:
途中、仮面ライダーから戦隊に戻った時期もあったんですが、子どもはやっぱりデフォルメされた動きの方が喜んでくれるので、そこは意識的に演じ分けていました。でも、昔の動きには絶対戻したくなかったので、そこは断固としてやらないぞと(笑)。