「キャリアを築くには専門性が必要」と言われることが多くなりました。でも、専門性とは、いったい何なのでしょうか。わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも手当たり次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つ人も少なくないはず。

そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチでオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。

今回お話をお伺いしたのは、サイバーおかんとして、日本サイバー化促進活動をしているタナゴさん。

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=▲電飾をまとってイベントに出展するなど、日夜日本をサイバーにするための活動を続けている、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

不思議な活動内容、派手なかっこうからテレビや大手メディアにも引っ張りだこの彼女ですが、じつは遊技機(パチンコ・パチスロ)デザイナーとしてもバリバリ活動されているそう。今回はあえてサイバー活動には触れず、遊技機ならではのデザインの魅力や、専門性の育てかたを教えてもらいました。

タナゴ

日本のサイバー化を促進すべく、活動を開始したサイバーおかん。サイバーと無駄に溢れたグッズを多数開発している。本業はフリーのデザイナー。遊技機をこよなく愛し、デザイナーとして関わるだけでなく、多数のグッズを蒐集している。(Twitter:@1_design)

聞き手:少年B

オタク気質のフリーライター。サイバーなデザインや音楽を好む。あらゆるものに異様にハマりやすいため、パチンコに興味はありつつも、距離を取っている。

目次
遊技機デザイナーってどんな仕事?
パチスロの図柄がベルやスイカで統一されている理由
遊技機のデザイナーは、オリジナルのキャラも作れる!?
「Windowsのペイントツール」しか使えなかったけど、デザイナーになれた
好きなものは「全部やればいい」

遊技機デザイナーってどんな仕事?

少年B:
「サイバーおかん」としてさまざまなイベントに出展し、「味皇様になれる重箱」などを開発。メディアにも取り上げられ、注目を集めているタナゴさんですが、本業はデザイナーなんですよね?

タナゴ:
そうなんです。私はなんでもデザインする「よろずデザイナー」を名乗ってますが、いまの仕事の60~70%は遊技機(パチスロ、パチンコ)の映像や図柄などのデザインですね。

少年B:
遊技機の……図柄デザイン? いったいどんなデザインなんですか?

タナゴ:
口で説明するより、実際に見てもらったほうがわかりやすいと思います。Workship Magazineのロゴを遊技機風にしてみましょうか。

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
笑う。

タナゴ:
わかってもらえましたか?

少年B:
めちゃめちゃわかりました。フリーランスメディアから一瞬でパチンコ・パチスロメディアになりましたね。

タナゴ:
ありがとうございます。遊技機のデザインのなかでも、私が主にやっているのは印刷に関わる部分ですね。パチスロで回転する「リール」という箇所の図柄デザインだったり、ロゴが入ってる表面パネルの装飾デザインだったり。

そういう印刷に関わるDTP的なデザインから進行管理まで、全部やるのが私の仕事です。

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=▲パチスロでおなじみの「ベル」や「スイカ」なども、こまやかにデザインを考えているそう、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
印刷関係のデザインに関してはすべてやる感じなんですね……! 遊技機のデザインならではの難しさとかってあるんですか?

タナゴ:
そうですね……印刷技術がかなり特殊な点でしょうか。

少年B:
印刷が特殊……?

タナゴ:
パチスロのリールって、シルクスクリーン印刷なんです。Tシャツなどにも使われる印刷方法で、1色ごとに版を作って順番に重ねて印刷しなきゃいけないんですよね。

色の順番とか掛け合わせとかをある程度こっちが指示して印刷屋さんに出さなきゃいけないので、専門的な知識がないとそもそもできないんです。

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=▲タナゴさんが作ったオリジナルパチスロのリール図柄、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
なるほど、デザインだけやればいいってわけじゃないんですね……!

タナゴ:
シルクスクリーンはアートの世界で使われることもあって、「版を10枚重ねました」みたいな作品もあるんですけど、パチスロの図柄も同じかそれ以上に版を重ねて作っているんです。世間にはあまり知られていないけど、密かにすごいんですよ!

パチスロの図柄がベルやスイカで統一されている理由

少年B:
アートとパチスロってまったく対極なもののように見えるけど、支えているのは同じ高度な印刷技術なんですね! でも、なんでそんなに面倒な方法で印刷するんですか? もっと簡単な方法もあるのに……。

タナゴ:
遊技機って、国による厳しい規制があるんです。

少年B:
規則とは?

タナゴ:
パチンコホールは、風営法に則って営業しなきゃいけないんです。その風営法のなかに、機械に関わる規定もあって。サイズや図柄デザインが規定に合致しているかとか、回ってる時に目視できるかとか、厳しい検定に合格しなきゃいけないんです。

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=▲パチンコ店で遊技機を取り扱う人に向けた遊技機取扱主任者の資格も勉強のために取ったという、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
「真ん中のリールの“7”だけ色が違う」なんてわけにはいかないんですね!

タナゴ:
それどころか、少し色が剥げたとか角が欠けたとか、ちょっとした印刷ミスも許されません。だから、デザインは非常に厳しく管理してますね。難しい印刷方法を取っているのは、色を安定させるためなんですよ。

少年B:
検定に落ちた時だけ、やり直すとかではダメなんですか?

タナゴ:
検定料が1機種あたりパチンコだと144万円、パチスロだと162万円かかるんです。(変動あり、2021年4月現在の検定料)

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

タナゴ:
しかも1回検定するのに1ヶ月半〜2ヶ月くらいかかります。デザインのミスで通らなかったなんてことは許されないんですよ。メーカーの販促や売上の計画が狂ってしまうので……。

少年B:
それは確かにシビアだ……!

タナゴ:
そういう法律も考慮しなきゃいけないので、参入障壁はやっぱり高いと思います。その代わり、ちゃんとできる人のところには仕事がたくさん来ますね。

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=▲タナゴさんが趣味で集めたという図柄ロゴのコレクション、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
パチスロの図柄って、7のほかにもベルやスイカやチェリー、あと爆弾?ってイメージがあるんですけど、図柄の種類も法律で決まってるんですか?

タナゴ:
あ、あれは爆弾じゃなくて「プラム」というフルーツですね。

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=▲爆弾じゃなかったの……⁉、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

タナゴ:
図柄は法律で決まってるわけじゃなくて。たとえばベルは1899年に世界で初めて作られたスロットマシンのもの、フルーツの柄は1910年に誕生したスロットマシン「リバティベル・ガム・フルーツ」の流れを汲んでいるものと、昔のデザインが今でも受け継がれているんです。

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=▲「リバティ・ベル・ガム・フルーツ」のリール図柄。左からベル、オレンジ、プラム、レモン、スペアミントの葉、ガムのブランドマーク(出典:パチスロ業界初まとめ)、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
100年以上も柄が変わらないなんて!

タナゴ:
遊ぶ人が混乱しないように、という意味合いもありますね。そういう伝統がずっと変わってないところに痺れるんですよ。

メーカーによっては「うちのスイカは横切り」「うちは縦斬り」とか決まってたりするので、私は最初の企画の時に「スイカどうしますか?」と聞くようにしてますね。

遊技機デザイナーってどんな仕事?パチンコ・パチスロから広がったサイバーなデザインの世界
(画像=▲スイカの切りかたにも各社個性がある。なぜかメロンも混じっていた、じきるう、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
おもしろい! 同じように見えるけど、各社それぞれの個性があるんだ!

タナゴ:
デザイナー目線では「このメーカーの“7”は素晴らしいな」と思ったり、「あのメーカー、デザイナー変わったな」って気付いたりすることもありますね。