戦後国際政治を歪めた拒否権

第一次大戦後に出来た「国際連盟」が、大国同士の争いで機能不全に陥った反省に基くものですが、この拒否権制度こそが、第二次大戦後の国際政治を歪んだものしている最大の原因です。しかも、日独は未だに国連憲章上で「旧敵国」とされており、これを修正し、日独を常任理事国に加わえようとしても、拒否権に阻まれて実現しません。(ちなみに、1970年の核兵器不拡散条約でも、五大国だけが核兵器の保有を公認されており、しかも条約改正には5大国の同意が必要なので、彼らが持つ核を廃絶させることは永久に不可能です。)

歴史は皮肉なもので、日本と戦った蒋介石の中華民国は戦後、毛沢東の中華人民共和国に敗れ、1972年に国連から追放。代わりに共産中国が代表権を認められ、安保理の常任理事国の地位を引き継ぎました。これについては当時のニクソン米大統領と策士のキッシンジャー補佐官(その後国務長官)の判断が決定的でしたが、今になって、あの判断は間違っていた、中国を甘やかし過ぎたという意見がこの数年来米国でも大勢になっています。特にトランプ政権末期にポンペオ国務長官が行った演説が画期的でした。

がしかし、今さらどうにもなりません。中国は既得権である常任理事国の特権的地位と拒否権をフルに活用して、今後益々自国権益の拡張路線を驀進し続けるでしょう。これに対抗するためには、日本はあらゆる知恵を絞って万全の対中外交を展開して行かねばなりません。(この点で、昨年本欄に5回連載した拙稿「体験的対中外交論」は多少なりとご参考になると思います。)

日本人はもっと悪賢くなるべし

どうも日本人は、昔から黒白をはっきりさせる潔さを尊ぶ国民性があり、外交でぬらりくらり、巧妙に立ち回るのが苦手というか、そうした対応をさげすむ性向があるように思います。おそらく古来の武士道精神などの影響でしょうし、現行憲法のナイーブな「平和主義」の影響もあるでしょう。

しかし、それでは複雑怪奇な現在の国際政治環境の中では通用しません。誤解を招くことを覚悟で敢えて言えば、日本人はもっと国際社会でズル賢く、巧妙に立ち回る術を身につけるべきでしょう。ルーズベルトやチャーチルのようには中々行きませんが、彼らの爪の垢でも煎じて飲む必要があると思います。

(2022年1月16日付東愛知新聞令和つれづれ草より転載)

編集部より:この記事はエネルギー戦略研究会(EEE会議)の記事を転載させていただきました。オリジナル記事をご希望の方はエネルギー戦略研究会(EEE会議)代表:金子熊夫ウェブサイトをご覧ください。

文・外交評論家 エネルギー戦略研究会会長 金子 熊夫/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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