(本記事は、星﨑尚彦氏の著書『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』=KADOKAWA、2018年10月5日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
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「悔しい!」と思わせろ
ホシキャラバンで各店舗を訪れるたびに、正社員やパートさんを含む全スタッフと10分ずつ面談をしている。天領ミーティングやアクション会議も入れれば、毎週800~900人ぐらいと会っているが、それで皆の士気が高まると思えば、ちっとも疲れない。それに私も、皆と話をする時間が楽しい。酒も一緒に飲むから、顔も名前もプライベートのこともぜんぶ覚えてしまった。向こうも、こちらを社長とも思わず、ざっくばらんに話してくれるようになった。
あるとき、高田馬場本店に私がいくと新卒の3人が挨拶にやってきた。「わざわざ来なくていいから、そんな時間を割くな」「いえ、顔が見えたので、挨拶したほうがいいと思って」新卒ですら、社長を相手に「調子どう?」みたいな、軽いノリで接してくる。あるスタッフのご家族が亡くなった、臨終に間に合わなかった。そういう話を聞いたら「残念だったな」とこちらから声をかける。「なんで知ってるんです?」と、本人にはびっくりされるが、そんな話が自然と伝わってくる付き合いを、私たちはしている。そういうちょっとした会話、コミュニケーションこそが大事だ。
人が気にする情報はどんな些細なことでも聞き漏らさない。おかげで私はメガネスーパーのかわら版といわれるようになった。仲良くするばかりではない。ひとたび現場に出れば、どれだけ多く、細かいところに気がつけるかの、勝負だと思っている。
「あのお客さんに付いて」と指示したり、出しっぱなしになっているゴミを発見したり。お客さまの検査中に店の中での社員同士の会話の声が大きくても注意する。接客業が本業だというのにそのぐらいの配慮ができないのかと、日常の接客能力を疑ってしまう。アクション会議で決まったことが反映されていなければ、すかさずお小言だ。
ほかにも、所作が悪いとか、お客さまに付くのが遅いとか、ものすごくうるさい社長であることは間違いない。会議でも飲み会でも、それは同じだ。少しでも多くのことに気がつくように、いつもアンテナを張っている。これは勝負なんだ。私は徹底的に、本気でやる。そして、私に注意された現場のスタッフは、「うるさいなあ」と思う以上に、悔しいと思うのだ。
「なんで自分は気がつかなかったんだろう」「社長に先を越された」と思うわけだ。私のほうも、自分と距離が近いスタッフには、遠慮がなくなり、「こんなところに気づかないなんて、ダセェな」と、挑発するようないい方をすることもある。レベルの高い社員ほど、悔しい言葉だと思う。だが、それがいい刺激になっていると思うのだ。だから私も本気になる。
「どうでもいいことですが……」を聞き出せ
社員たちはなんでも話してくれる。ある時、社員が、「meganeSUPER というロゴの下に、カタカナを入れてはどうでしょう? ダメでしょうか? その方がわかりやすいと思います」という意見をくれた。その通りである。すぐにカッティングシートを使って、英語表記の下にカタカナでメガネスーパーと入れた(以後はすべての看板で、カタカナ表記が上に、大きく書かれるようになった)。
また、ある時は、「天領ミーティングを生で聞きたいのだが、なかなか時間を作れず、行くことができない。同時中継してもらえないでしょうか?」という声があった。私としても、全国を飛び回っていても、すべてを同時に網羅できない悔しさがあったので、〝これだ〞と飛びついた。今では、メガネスーパーの常識となっている、同時中継・アーカイブ化の始まりだ。
さらに、プライベートブランドにメガネスーパーのロゴを入れてはどうかという意見をくれた社員がいた。プライベートブランドなので、絶対に入れるべきなのだが、当初は、「〝メガネスーパー〞なんて入っているのは恥ずかしい」とか、「それではお客さまが買ってくれない」などという意見もあったのだ。しかし私としては、会社の戦略上も絶対に入れるべきだと思っていた。
なんといっても自社ブランドであるし、お客さまが調整などで来店されても、データを見ずに自社ブランドのメガネだとすぐにわかる。また、メガネスーパーの名前が入っているので、お客さまも「どうせなら」とメガネスーパーに調整に来てくださるようになる。そもそも他社への持ち込みは、一般的になかなかハードルが高い。当社は他社眼鏡大歓迎という戦略を打ち出しているが、競合他社はダメだというところもまだ多いからだ。閉鎖社会の象徴である。この声を後ろ盾に、全商品に自信をもってメガネスーパーのロゴを入れることにした。
さらに、私に反論してくる社員が出てきたのは、大きな成長を感じる。最初はこちらが「やろう!」といっても「本当にいいんですか?」とオドオド聞き返してきたような奴らが、自分の意見をしっかり返してくる。キャラバン中でも飲み会の席でも、社長が「なぜだ、どうしてだ」と問い続けていたら、そこまで鍛えられるのだ。
「データを見る限り、その施策をやっても効果がありません」とかズバリ意見されると、こちらもたじろいでしまう。だが、それが嬉しい。議論が盛り上がれば、お互い言葉に遠慮がなくなることもある。社員の意見がビジネスパーソンとして未熟だと思えば、「それはこんな理由でダメだ」と諭すこともある。でも、そこで根に持つようなことは一切ない。反論でも重い相談ごとでも、どんどんいってほしいと伝えている。
そんなわけで、今ではプライベートのことも相談に乗っている。夫婦仲がこじれた。娘が口をきいてくれない。家を買いたい。忙しくてパソコンをいつも持ち歩いていたら奥さんがキレた、という相談もあった。「よし、もうキャラバンには来るな、すぐ帰れ。家族旅行にいってこい。そこで点数を稼ぎ、点数が溜まったらまたキャラバンに戻ってこい」こんなふうに、バッサバッサと相談をさばいていく。
しかし、なかには、「社長には話しにくい」相談もあるだろう。また私のようにズバズバいう人間には悩みを打ち明けたくない、という社員もいるはずだ。私のキャラは変えようがないが、悩みがありそうな者、仕事で行き詰まっていそうな者をみつけたら、こちらから一言、声をかけるようにしている。
「お前、なんかあるだろ」何か抱えている人間は、表情でわかる。とりわけ、「どうでもいいことなんですけど……」「社長にいうことじゃないかもしれませんが……」面談中、この2つのフレーズのどちらかが出てきたら、「きた!」と思う。言葉の印象とは裏腹に、ヘビーな相談が隠れていることが多いのだが、早期発見できて何よりだ。どうにもできない状況に悪化してから報告されるより、よほどいい。宝石を掘り当てたようで、むしろ嬉しくなってしまう。逆に「社長、聞いてください」としょっちゅう向こうから近寄ってくる人間の相談はまず心配いらない。そんな相談ばかりしてくる軽いキャラの社員もいるのだが、「いいからお前はあっちに行け」とあしらっている。
「やっちゃいました」を叱らない
まあ、仕事上のバッドニュースを筆頭に、「社長にはいいにくいな」ということは、よくあると思うのだ。
私と1日中一緒にいるのに、「なんでそんな大事なことをいわないでいたの?」と思うことも、しばしばだ。バッドニュースでも「今、こんなことになっているんです」と素直に報告すればいいものを、きれいに取り繕おうとして、抱えこむ。よくあることだ。だがそれこそ、本社にいてはわからない情報なのである。私としてはなんとしても聞き出したい。そこは奇をてらわず「やっちゃいました」でいいのだ。私は、会社員時代から相談や報告が得意だった。その頃学んだコツを社員たちに伝えている。
「最悪のことを想定して報告しなさい。一番いいたくない相手に、一番いいたくないことを、一番早くいいなさい」たったこれだけのことだ。社員にとって一番いいたくない相手というのは、社長の私だろう。だが、反省している人を叱ることは決してない。同じミスを繰り返さないように「原因」をしっかり分析するようにいうことはあるが、、叱ったところで時間が戻るわけでも、改善するわけでもないのだ。
0秒経営において優先順位が高いのは、二次被害を防ぎ、リカバリーへと動くこと。そのために具体的な打ち手を考えるのが得意なのは、プロ経営者として数々の修羅場をくぐってきた私だ。「だから、真っ先に相談するべきは私だよ」と話している。
星﨑尚彦
1966年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、三井物産(株)に入社。主に繊維事業、ファッション事業に携わった後、スイスのビジネススクールIMDへ留学。MBA取得後の2000年、スイスの宝飾メーカー「フラー・ジャコー」日本法人の経営者に就任、短期間で同社業績の飛躍的向上に成功。2013年6月、メガネスーパーの再建を任され、2016年に同社9年ぶりの黒字化を果たす。2017年11月には株式会社ビジョナリーホールディングスの代表取締役社長に就任。アイケアの啓発・普及を旗印に、先進アイケアサービス・店舗の拡大や積極的なM&Aといった成長戦略を加速させ、2018年には3期連続の黒字を実現。
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