休みを取って「非日常」を過ごすことがクリエイティビティを高める

日本人が「休み下手」なのは、そもそも仕事や人生に対する考え方が、海外の一流のビジネスパーソンたちと違うからだと、長年、外資系企業でエグゼクティブたちの秘書を務めてきた能町光香氏は話す。なぜ、海外のビジネスパーソンは休暇を重視しているのだろうか?

長期休暇の価値は国際会議に匹敵する!?

数々のグローバル企業で重役秘書を務め、一流のエグゼクティブの働きぶりを間近に見てきた能町光香氏は、海外と日本のビジネスパーソンの「休み方」の違いをしばしば感じたという。

「日本人は、休むことにとかく罪悪感を覚えがちです。しかし外国人は、休みを必要不可欠なものだと捉えています。

もちろん、外国とひと言で言ってもお国柄はさまざまで、米国人はオフの時間を大切にしつつも時間を惜しんで働く仕事重視型。対して、私はデンマーク系企業での勤務が長かったのですが、デンマーク人にとっては、休暇の価値は仕事とまったく同じです」

北欧諸国の人たちには、全般に、「生きることを楽しむ」姿勢が浸透していると語る。

「これは、キャリアの捉え方がそもそも違うということです。

日本では、キャリアと言うと、仕事とほぼ同義ですね。しかしデンマークでは、キャリアとは『生き方』。人生の中に、仕事、家族、自分自身の楽しみといった要素が同等に存在していると捉えます。

ですから彼らは、『大事な国際会議』と『夏の長期休暇』を同じくらい重視するのです」

この姿勢は、長期休暇の予定を立てるタイミングにも表れている。

「日本人が夏休みの予定を立てるのは、だいたい夏前か、暑さが本番に入ってからでしょう。ところが私が勤めていたデンマーク系企業では、そのタイミングは1月でした。まずトップが休暇の予定を入れ、そこから順次、部下も決めていくのです。年明けの出社数日目には、毎年、上司から『今年のサマーバケーションはこの時期にしたいが、大丈夫かな』と確認が入りました。

休暇とは、年の最初に入れるべき、絶対に動かせない重要な予定なのです」

「休む暇がない」のはマネジメント力不足

もう一つの日本との大きな違いは、休暇期間の長さだ。

「少なくとも3週間は必要という考えが一般的。中には6週間休む人もいます」

日本人にはとてもムリに思える長さだ。1週間の休暇を取るときでさえ、居心地の悪さを覚えるビジネスパーソンが少なくないだろう。

「そう感じてしまうのはなぜか。そこには二つの側面があると思います。

一つは、『上司が良い顔をしない』『皆に比べて長く取るのは申し訳ない』という職場への気兼ねです。職場の中で、『休暇=周囲に迷惑をかけないのであれば取っていいもの』という位置づけが暗黙の了解になってしまっているのです。

これはおそらく、高度成長期の『長く働くほど豊かになれる』社会が醸成した価値観でしょう。そんな社会が機能しなくなった今でも、気兼ねだけが風習として残ってしまっているのです」

これを解消するには、職場風土の改革が必要だろう。もう一つの側面に関してはどうだろうか。

「二つ目は不安感です。『不在の間に仕事に支障が出たらどうしよう』と考えて、休暇中も落ち着かない人は多いでしょう。

これは、本人の中で増大している思い込みであることが多々あります。もし思い込みでないとしたら、不在の間でも滞りなく業務が回る仕組み作りができていないことが問題です」

この問題は、経営者や部課長など、リーダーの立場にある人間が解決すべきだと語る。

「日本人経営者の中には『休む暇なんかないよ』と語る方がよくいらっしゃいますが、そこにはしばしば『自分がいてこそ会社は回るんだ』という自負のニュアンスが含まれています。

しかし、同じことを海外で言うと、ご本人のマネジメント力不足だと見なされるでしょう。業務が円滑に進む仕組みを作れていないのだ、と」

完全に仕事を遮断し日常と逆のことをする

働き方改革が叫ばれる中でさえ、「休みづらさ」が払拭されない日本。その最大の原因は、日本人が長期休暇の「真のメリット」を知らないことにあると能町氏は指摘する。

「そのメリットとは、創造性が湧いてくることです。

創造性もまた、日本人が弱点とする部分ですね。海外のエグゼクティブは、まとまった休みを取ることでクリエイティビティが格段に増すことを、経験則として知っているのです」

実際、休暇直後には上司から「アイデアのシャワー」を浴びせられることが常だったそうだ。

「ある職場では、4週間の夏季休暇から戻った上司から、いても立ってもいられぬ様子で、『最高の戦略を思いついたから、すぐに部下たちと共有したい』と言われました。『アイデアが湧いてきて頭が爆発しそうだ!』と嬉し気に語る上司の様子や、その後に訪れた業績の急上昇は、今も記憶に残っています」

ちなみに能町氏も、上司の休暇中に、同時に休暇を取っていた。

「これも、日本人の価値観では違和感を覚えるところでしょう。秘書こそ上司の留守をきちんとフォローすべきだ、と。

しかし、私のより重要な役割は、戻ってきた上司のアイデアを実現する舞台を的確にコーディネートすることです。その際に求められる発想力や広い視野を得るには、私自身にも仕事を離れる時間が不可欠でした」

一定期間、仕事を完全に遮断することが、創造性の源泉になる。では、その時間は、どのようにして過ごすのだろうか。

「日常の仕事と逆のことをするのが創造性を育む秘訣です。

まず必要なのは『デジタルデトックス』。パソコンを開かない。メールも見ない。情報過多な都会から遠く離れる。デンマークの人たちは、サマーハウスと呼ばれる湖畔の別荘で過ごすことが多かったですね。

家族とともに心ゆくまでくつろいだり、自然に触れたり、ジョギングなどで身体を動かしたりして過ごします」

母国やその他の国々での滞在を満喫することが多いが、日本赴任の最後の年には日本を満喫したいという人が多かったという。

「と言っても、観光地を巡るわけではありません。彼らが希望するのは、山奥の禅寺や座禅道場への滞在でした。

スティーブ・ジョブズの例を挙げるまでもなく、東洋思想へのリスペクトを持つ海外のエグゼクティブは多くいます。静寂や『無の境地』に身を置きたいという気持ちを、一流の人ほど強く持っています。これも、日常の激務から隔絶した、究極的な非日常ですね」

上の立場の人ほどよく休むのはなぜか?

日本人の場合、寝ているだけで休暇が終わる、もしくは、家事などに忙殺されて疲れたまま仕事に戻る、というケースも少なくない。

「それは、普段から疲れすぎていることが問題です。

海外のエグゼクティブは、そもそも疲れを蓄積させません。責任の重い仕事をしている人ほど、こまめに休みます。週末に働くこともなく、毎晩7時間、しっかりと眠ります」

長期休暇以外にも、1週間単位、1日単位、そして1時間でも、こまめな休息を取るという。

「彼らの仕事を見ていると、一気に集中して5分休み、また一気に集中する、というスタイルを取っています。

リーダーの一番の役割は意思決定であり、疲れるとその精度は落ちるもの。ですから、疲れればすぐ休む習慣が身についているのです」

こうしたメリハリは、ランチタイムの1時間の中にもある。

「丸の内に勤務していた頃の上司は、ランチを20分で終わらせて、皇居近辺を散歩したり、銀座のギャラリーに足を運んだりする習慣を持っていました。自然や芸術に触れる『非日常』を、こまめに挟んでいたのです。これもまた、アイデア喚起のための工夫です」

早朝にスポーツをする人が多いのも特徴だ。

「日本に赴任したばかりの上司から、『朝6時にテニスをしたい』と頼まれたことがありました。海外ではエグゼクティブのためにテニスの相手をするサービスは珍しくないのですが、当時の日本でその希望を叶えるのにかなり苦労した覚えがあります。

ともあれ、まず身体を動かし、シャワーを浴びてから出社するのが定番。1日の最初に身体を目覚めさせれば、直観力や発想力がより高まるのです」

「休まない上司」では部下は育たない!

休息や休暇がもたらすものは、本人の創造性だけではない。

「リーダーが休むと、部下が育ちます。上司が不在の間のオペレーションを考え、他部署と連携して意思決定する。その中で、次代を担う人たちのリーダーシップが磨かれるのです」

もちろん、それができるようにするためには、日頃からの業務内容の透明化・合理化が欠かせない。

「業務や方針は必ず上司・部下間で共有し、誰かが代わりを務められるようにしておきます。コミュニケーションも綿密に取り、部下が業務を抱え込んでいないか、モチベーションは維持されているか、目標は何か、などを詳しく聞き取ってフィードバックする。こうして職場に『話す土壌』ができていることも、休暇の取りやすさにつながります」

これは、日本の会社の「休みづらさ」を解決するヒントにもなるだろう。

「業務の透明化と情報共有、日常的な部下育成があれば、『休んでいる間も仕事が心配』という問題はなくなります」

加えて大事なのは、上司が先立って休みを取ることだと語る。

「休まない上司は、必然的に『部下を休ませない上司』になります。上司が毎日早く帰り、積極的に休暇を取れば、職場の文化が変わります。『今日はNO残業デーだから早く帰れ』と口で言うより、ずっと効果的です。

部下の『コントロール』から、こうした『マネジメント』へとシフトすることが、今の日本のリーダーに求められているのではないでしょうか」

文・能町光香(のうまち・みつか)
〔株〕リンク代表取締役/日本秘書アカデミー代表/人材育成コンサルタント
青山学院大学、The University of Queensland大学院卒業。京都大学経営管理大学院(MBA)在学中。留学後、10年間にわたり、外資系企業数社にて、経営層を補佐するエグゼクティブ・アシスタント(社長・重役秘書)を務めたのち、独立。現在は、企業研修や講演、執筆活動を行なう。。21万部のベストセラー『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』(クロスメディア・パブリッシング)、『なぜ一流のリーダーは東京-大阪間を飛行機で移動するのか』(扶桑社新書)など著書多数。《取材・構成:林 加愛》(『THE21オンライン』2019年7月号より)

提供元・THE21オンライン

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