(本記事は、酒井レオ氏の著書『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』=アスコム、2019年3月16日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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0歳からスマホを使わせる

すべてのヨーロッパ人に当てはまるわけではありませんが、「グラス1杯くらいのワインなら10代の頃から親と一緒に飲んでいた」という話をたびたび耳にします。禁止されてこなかった分だけお酒に対する渇望感がないので、このように育ったヨーロッパ圏の人々は、成人してからもお酒と適度な距離を保って付き合っていけます。

対してアメリカでは、飲酒に関する法律が厳しく、21歳の誕生日まで親も絶対にお酒を飲ませません。すると、飲み方を知らない上にお酒に対する渇望感は高まる一方で、社会人になって親元から離れた途端、バカみたいに飲むようになります。

もちろん、10代から酒を飲めと推奨しているのではなく、これはあくまでも、規制するとその反動が大きいということのたとえです。

「スマホやゲーム、パソコンは何歳から使わせるのがいいか」。子育て中の方を対象とした講演会では、たびたびこの質問を受けます。極端なことを言えば、落としてケガをしないかなど安全性さえ確保されていれば、0歳からスマホに触らせたって構わないでしょう。だってそうじゃないですか?ダメと言ったって、世界はもう動いているんです。10年前に戻ってスマホをないものにはできません。

結論として、スマホとゲーム、日本の親が禁止したい2大デジタル機器については、すでにイエスかノーかの問題ではなく、どうコントロールするかの問題なのです。

「平日は1時間、休日は2時間までね」「宿題や明日の準備など、やることを全部やったらね」「夕食の前までね」など各家庭でルールを決めておけばいいだけではないでしょうか。もちろん、使いたいだけ使わせるのも、それが親のポリシーであれば、構わないでしょう。

今、世の中にある便利なものには、なるべく早く触れさせたほうが、扱い方も学ぶし、変な執着も生まないだろうというのが僕の考えです。それに、スマホの進化の速度を思い返せばわかる通り、この10年で世の中はガラリと変化しました。SNSで誰もが簡単に世界にメッセージを発信でき、世界中のどこにいても無料で通話が楽しめるようにもなりました。テクノロジーは止められないのだから、それとどう共存していくかを模索するほうが建設的です。

また、別の角度から見ても、0歳からスマホに親しんでいる子と5歳でデビューした子の差を埋めるのは、すでに難しい時代に入っているともいえるのです。10年後、20年後を生きていく子どもたちは、今とはまったく異なる世の中で仕事をしないといけない。その想定のものと、今から準備をしないと間に合わないのです。

ゲームなどは特に、周囲に影響されて欲しがっても、いざ手にしてみたらそれほどハマらない子もいれば、のめり込む子もいます。その差こそが、その子の個性。何に興味があって、どんなゲームが得意か、というところから、その子の特性や得意分野がわかります。

もし、ルールを決めても子どもが無視したり破ったりするのは、親がリスペクトされていない証。親子関係の見直しが急務ですし、一緒にゲームに取り組んでみることで、新たな親子関係が生まれるかもしれません。

プログラミングはIT分野を超えた必須スキル

日本では今、プログラミング教室がとても人気です。決して安くはない月謝を払い、子どもを教室に通わせている方も多いのではないでしょうか。しかし、その月謝を意義のある投資にするためには、残念ながら、プログラミングを習っているだけでは不十分です。

2020年からは、公立小学校でもプログラミングが必修化されるなど、国を挙げてITに強い人材の育成に力を注いでいるかのように感じますが、間違ってほしくないのは学校でプログラミングの成績が優秀であっても生き残っていけるとは限らないという事実です。

確かにこれからの産業の中心は間違いなくITです。ITの世界で活躍できる人材になることは、自分らしく、また世界のあらゆる場所で生きていく上で、外国語習得と同様に大前提です。

Facebook、Apple、Google、Amazon、最近ではUberやAirB&B などのようにビジネスのゲームチェンジャーといえるようなイノベーションを起こす企業は、世界でもトップレベルの超優秀なエンジニアやプログラマを大量に雇用しています。

しかし、こうしたプログラミングだけで圧倒的な高収入を得られる人材というのは、野球でいえばメジャーリーガー、しかも、オールスターに毎年出場し、野球殿堂に入るような特殊な才能の持ち主であって、もともと持っている素養が普通の子どもとは明らかに違います。

日本ではものづくりが尊ばれる文化から、システムやアプリが自分の手で作れるプログラマをたくさん育てようという考え方が受け入れられてしまいがちです。

お父さんお母さんも、自分の子どもが将来IT社会でAIに仕事を奪われずに生き残るにはどうしたらいいかと考えると、プログラミングができたほうがいいからと、なんとなくプログラミングスクールに通わせてしまっているのが現状ではないでしょうか。

しかし、せっかくプログラミングを学ばせるのであれば、親がもっと明確なビジョンを持って学ばせることが大切です。

アメリカ、シンガポール、インドなどIT先進国では単なるプログラミングだけでなく、その先にある「STEM(ステム)教育」が主流となっています。

STEM教育というのは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取った言葉で、各分野を単一で学ぶのではなく、これからのIT中心社会において重なる部分の多いこれらの分野を横断的に学ぶ教育を指します。

プログラミングを「作るための技術」としてとらえるのではなく、そうした分野が関連し合ってコンピュータのソフト、ハード、ネットワーク、AIなどが機能していることを学び、プログラマではなくても、社会のさまざまな課題を解決したり、ニーズに合わせたサービスを発想し、普及させるための共通言語としてプログラミングをとらえるというのがIT先進国でのスタンダードになっています。

さらに、最近ではSTEMにアート(Art)のAを加えた「STEAM(スティーム)教育」が台頭してきています。

20世紀には科学技術に対する過度な期待や誤った使い方によって環境汚染、温暖化、食糧難などが起きてしまいました。このことからも科学技術を批評的に見る目を養うためにも芸術は必要ですし、ロボットやコンピュータと人間が共存する社会を実現するには、美観や感触など人間の感性にフィットするデザインも必要になってきます。これがSTEMだけでなくSTEAMが重要視されている理由です。

繰り返しになりますが、プログラミングは単なる「作るため」のスキルではなく、複雑化していく社会に流されず、多様な価値観や能力を持った人たちとコミュニケーションしながら、社会を前進させていく上で必須なスキルなのです。

お子さんが、ロボットやゲームを作ることが楽しんでうまくできれば、もしかしたらスーパーエンジニアの素養があるかもしれません。

でも、うまくいかなかったとしても、たまたまそういうテーマに興味が見い出せなかっただけかもしれません。

プログラミングの世界は広く奥深いので、たとえ教室で結果が出なかったとしても一喜一憂せず、また違う教室に行ってみるのもひとつの手です。いずれにしても、少し長い目で見て、プログラミングに触れさせるのがSTEAMが身につくいちばんの近道ともいえます。

日本ではまだ体系的にSTEAM教育を学べる場はほぼありません。でも、その準備は少しずつ進んでいますので、プログラミングを習っているなら、科学や芸術の分野にも親しむ機会を多くつくり、STEAM教育の素地を養ってあげることが必要です。

アメリカやシンガポールはSTEAM教育先進国ですが、世界的に見ればまだまだ少数派。世界という軸で見れば、STEAM教育はマラソンがスタートを切ったばかりの団子状態にあり、中盤に差しかかる5年後に差は歴然とし始め、ゴール間近の10年後には世界の中での差がはっきりしてくるでしょう。

そのとき、日本が先頭集団から置き去りにされないように、国まかせにはせず、日本のお父さんお母さんが社会を牽引するくらいの勢いでSTEAM教育を推し進めていってほしいと思います。

STEAM教育でAI時代が求めるセンスを伸ばす

これからの時代は、個々のスキルにより専門性が求められてくるでしょう。そのぶん、一人では何もできない時代ともいえます。スペシャリストとスペシャリストが手を組んで、大きなプロジェクトを成し遂げる。そんなイメージです。ですから、これからの時代は協働性が求められるのです。

学校へ行くのだって、究極をいえば、勉強するためではありません。コミュニケーション力を育てるために行くのです。だから、テストで0点を取ったって目くじらを立てる必要はないし、「勉強頑張ってね」と送り出すのではなく、「友だちと仲良くね」「先生に感謝して」と送り出せばいい。

最近は、「将来AIに仕事を奪われないようにするにはどんな教育が必要か」という論調が多いように思います。確かに、現時点でAIやロボットによる代替可能性が高い職業と低い職業が存在するのは事実でしょう。

しかし、AIやロボットがある日突然向こうからやってきて、昨日まであった仕事を全部人間から奪っていくわけではありません。産業革命のとき、労働者が自分たちの仕事を奪われるのではないかと恐れて生産機械を破壊するラッダイト運動がありましたが、現代ではそういうことは起こりえない。

人からAIやロボットに仕事が置き換わっていくということは、同時に、人が集中すべきことや、人がより得意な仕事が増えていくということなのです。AIが得意なことはAIに任せて、そういった新しい仕事を生み出すことや、これまであまり社会で活躍できなかったハンディを持った人でも活躍できるようにロボティクスを活用するといった、プラス思考で子育てにも向き合うべきです。

そのためにも、これから子どもたちが共存していく技術や仕組みについて鵜呑みにせず家族で興味を持って考えたり、世界で恵まれず苦しんでいる人のことに思いを寄せることも大切ではないでしょうか。

繰り返しますが、STEAM教育は、科学教育を中心とするSTEM教育に、ArtのAを加えたものです。ここでもまたこの意味を理解していただけると思います。便利だとか合理的だとか、そういった理由でしかAIやロボティクスを活用する道を探れないのであれば、やはりそれは、人間とどこかで対立してしまうのではないでしょうか。

そうではなくて、人の豊かさであったり、困っている人に手を差し伸べる技術の使い方に関して発想できるようなセンスを高めていくべきです。そのためには、アートやデザインの力が必要でしょう。

単一分野のガチガチのスペシャリストではなく、チームの一員として柔軟なコミュニケーションができる能力ももったスペシャリストが望まれているのです。
 

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酒井レオ

ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちのバイリンガル日系アメリカ人。
日本とアメリカ両方の文化に影響を受けて育ち、ワシントン大学卒業後、JPモルガンを経て、コマース銀行(現TD銀行)に入社。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年、史上最年少にして「全米No.1」の営業成績を達成。30代前半の若さにしてヴァイスプレジデントに就任する。
同年、アメリカンドリームに挑戦する人たちを応援したいとの思いから、NPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立し、銀行業界からグローバルビジネス教育の世界へ転身する。金融、IT、メーカーなどあらゆる業界を対象に、社長・役員のためのエグゼクティブコーチングから、マネージメント研修、新人研修まで幅広く指導を行っている。
 

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