IPOの上場日、証券取引所が開く9時を過ぎても初値(上場して初めての株価)がつかないことがよくある。上場初日に初値がつかずに、翌営業日に初値が持ち越されることもある。その理由は何だろうか。なぜIPOの初値がすぐにつかないのかを見ていこう。
- IPOは上場日に初値がつかないことがある
- IPO株の初値は寄り付きと板寄せ方式で決まる
- 上場日に初値がつかない場合は翌営業日以降に持ち越される
- 初値が初日につかない場合は買い殺到だけでなく売り殺到の場合もある
IPOは上場日に初値がつかないことがある
IPO(Initial Public Offering)は新規公開株とも呼ばれ、証券取引所に新規で上場する株のことだ。IPOの初値とは、証券取引所で初めてついたIPO株の株価である。
IPO株は、一般投資家でも上場前に購入できる。IPO株を上場前に購入するには、抽選に当選するか証券会社から配分してもらい、IPO株を購入する権利を得る必要がある。IPO株購入の権利を得たら公募価格(公開価格)で購入して上場日を待つ。IPO株の初値は公募価格を上回ることが多く、上回った場合には初値で売れば利益を得られる。
証券取引所は朝9時に開くが、IPO株上場日の朝9時に初値がつかないことが多い。IPO株の初値は「寄り付き」という方法で決まる。
IPOの初値が決まる寄り付きと板寄せ方式
寄り付きとは、証券取引所が開く際に買い注文と売り注文をすり合わせ、最初に成立した取引のことである。IPO株の初値も、この方法で決まる。
証券取引所の買いと売りの注文状況は、「気配値」で確認できる。気配値とは、買い注文と売り注文の金額と注文数が表示されたもので、「板」(いた)とも呼ばれる。買い注文が多ければ気配値が上昇し、売り注文が多ければ下落する。
証券取引所が開いた際などに買い注文か売り注文のどちらかに偏っていれば、「特別気配」となり売買が一時停止される。特別気配になると気配値に「特」などが表示され、「板寄せ方式」で売買を成立させる。
板寄せ方式では、成行注文を優先して処理する。成行注文とは、値段を指定しないで行う注文で、買い成行注文を出すと一番安い売り注文と売買が成立し、売り成行注文を出すと一番高い買い注文と売買が成立する。成行注文の約定(売買の成立)の後に、買い注文と売り注文を突き合わせてバランスが取れる価格を決め、約定させる。
IPOの初値がなぜ初日につかないのか
なぜIPOの初値が初日につかないことがあるのだろうか。
IPO株の一日あたりの値幅には制限があり、板寄せ方式にて「値幅制限内」で約定価格が決まると初日に初値がつく。つまり、値幅制限内で買いと売り注文のバランスが取れないと上場初日に初値がつかない。
初日は公募価格(公開価格)が基準となり、IPOの値幅上限が2.3倍、値幅下限が0.75倍である。2日目以降は、前営業日の最終気配値段が基準になる。最終気配値段とは、取引時間内に最後に出された特別気配の値段である。
たとえば、公募価格が1,000円のIPO株について考えてみよう。上場初日の値幅制限は、2,300円(=1,000円×2.3倍)から750円(=1000円×0.75倍)であり、買いと売りのバランスが取れる株価がこの範囲に入らないと、上場初日に初値がつかない。
通常の株取引では、値幅制限まで株価が上がるストップ高や株価が下がるストップ安の場合には「比例配分」にて売買が成立するが、IPO株は初値がつくまで比例配分は適用されない。
上場初日に初値がつかない場合、初値が翌営業日以降に持ち越される
IPOの初値がつく前に買い注文や売り注文が圧倒的に多いと、IPOでは比例配分が適用されないため初日に売買が成立しない。この場合、初値は翌営業日に持ち越される。2日目も売買が成立しなければ、さらに翌営業日に持ち越される。
初値が連日持ち越された例は、2018年4月に上場したHEROZ(ヒーローズ) <4382>があった。HEROZには買い注文が殺到し、上場初日と2日目に初値がつかずに、3日目に公募価格4,500円の約10.9倍となる4万9,000円の初値がついた。
このような超人気銘柄の購入権利を得ることができれば、大きな利益を得ることができる。
IPOの初値が翌営業日に持ち越されると「即日現金規制」になる
初日に初値がつかない場合は、翌営業日から即日現金規制(即金規制や即日現金徴収規制とも呼ばれる)がかかる。
即日現金規制とは、買い注文で買付資金が即日徴収されることだ。通常の株取引では約定日から4営業日目に代金が受け渡され、4営業日目までに受け渡される資金を元に買い注文ができる。即日現金規制になった銘柄を買うには、受け渡される予定の資金は利用できず、その時点の資金の範囲内でしか注文ができない。
たとえば、資金が50万円の時に持ち株を50万円分売却すると買付余力は100万円になる。売却資金は4営業日目に受け渡されるため、4営業日目までの実際の資金は50万円のままである。その場合、買付余力が100万円であっても、売却資金が受け渡される4営業日目までは即日現金規制の100万円の銘柄を購入することはできない。
即日現金規制は、買付資金に規制を行うことにより、相場の極端な過熱を防ぐことを目的として行われる。
IPOの初値が初日につかない場合は買い殺到だけでなく売り殺到の場合もある
IPOの初値が初日につかない場合は、買い注文が殺到しているケースがほとんどだ。ただし、売り注文が殺到して初値が初日につかない場合も稀にある。
2018年12月21日に上場したポート <7047>は、初日に売り注文が殺到して初値がつかなかった。初値は930円と公募価格1480円に対して37.16パーセント下落した。上場の2日前にはソフトバンクの大型上場があり、その影響を受けたのではないかと言われている。
IPOの初日に初値がつかない場合に気を付けること
IPO株を初値で確実に売るには、上場日の朝9時までに「成行」の売り注文を出しておく。
初日に初値がつかない場合に気を付けたいのが注文だ。IPOの初値がつく前にできる注文の期間は「当日中」のみである。初日に初値がつかないときは、翌営業日も成行の売り注文を出す必要がある。
IPO株が上場2日目に初値がつけた場合、2日目の成行注文を忘れていると初値で売れなくなってしまうのだ。
ここまで、IPO株の初値が決まる仕組みや、翌営業日に初値が持ち越される可能性があることを紹介してきた。IPO株を上場前に購入するIPO投資は利益を得るチャンスが多く、魅力的な投資方法である。IPOの抽選に積極的に申し込んで、IPO投資で利益を上げてほしい。
文・松本雄一(ビジネス・金融アドバイザー)
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