(本記事は、越川 慎司氏の著書『科学的に正しいずるい資料作成術』=かんき出版、2020年2月3日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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プレゼンを始めるうえでのポイント

本章では、プレゼンの極意を紹介します。せっかく良い資料ができても、プレゼンで失敗しては元も子もありません。プレゼンは経験が物を言う部分もありますが、ここではテクニックで成功に導く方法を取り上げます。

資料はできるだけ配布しない

資料の説明をする際に、印刷した資料を配布するケースが全体の73%と大半でしたが、私はおすすめしません。

826人の意思決定者に聞いたところ、配布資料があると67%がその資料を流し見してしまいます。

そうすると、勝手に都合の良い情報に変換してしまう傾向があるからです(これを「確証バイアス」といいます)。

資料は、相手を動かすことが目的ですから、その誘導ができずに勝手に解釈されるのは本意ではありません。

仮にどうしても配布する必要があるのであれば、スクリーンに表示する説明資料のコンパクト版で白黒印刷して配布してください。

そして考えさせたい内容や、重要な点はあえて空欄にして相手に記載させたほうが効果につながります。

配布資料はあくまでも復習用の素材であり、聞いた人が他の第三者に伝えてもらうための素材にもなります。

しかし残念ながら、資料だけが一人歩きするとその価値や思い、そして重要なポイントが薄れていってしまい、相手に行動を起こさせるのが難しくなります。ですから、資料を配布すべきかどうかは状況と目的に応じてじっくり検討してください。

説明時間を宣言し、質疑応答の時間を確保する

また、資料の説明時は、開始直後が聞き手の集中力が最も高まっていることもわかりました。

ヒアリングの中で特徴的だったのは「自分の貴重な時間を無駄にしないでほしい」とのコメントが多かったことです。

つまり、「私の忙しい時間を奪うなよ!」ということです。

例えば1時間の会議の場合、 1 時間を無駄にするかどうかが気になり、冒頭でその発表者の発言を聞いて、どう過ごすか決めます。説明開始直後に気を引いておかないと聞こうとしてくれないのです。

冒頭でどのような点を気にしているかをヒアリングすると、「自分が持っていない気づきを持ってきてくれるか確認している(42%)」「私の課題(痛み)を解決してくれるかどうか判断している(67%)」「その人の思い(情熱)を見ている(31%)」「外見を見ている(45%)」ということでした(※ 517人の複数回答)。

このことから、表紙のタイトルで相手に与える変化を約束し、表紙をめくった次のスライドで、この資料によってどの変化をどのように与えるかを宣言しないといけません。

目次を作る必要はないと思いますが、その説明時間を宣言し、最後に質疑応答の時間を十分に確保しておいてください。

多くの顧客商談や社内説明会議において、この質疑応答で次の行動が決まるケースが散見されましたし、もし資料や説明でミスをしてしまっても質疑応答で挽回できるケースも多数あったからです。

相手からの信頼を勝ち取る方法

肩書きではなく実績をアピールする

人は相手によって態度や行動を変えます。信頼関係のある人の話はじっくり聞き、信頼のおけない人を軽視する傾向があります。

同じ内容を伝えても、その発信者に信頼があるかどうかによって聞く姿勢が変わり、理解度や行動意欲にも影響があります。
その信頼を作るものが経験と実績です。

自分と同じ課題を先に解決した人のことを敬います。同じ課題を解決した経験と実績があるからです。

したがって情報発信者は、その経験と実績をもとにして「伝える資格」を獲得しなければなりません。相手が真剣に資料を見ようと思わせるように、「私にはあなたに伝える資格があります」ということを最初に理解してもらわなければならないのです。

もしあなたがサーフィンを学びたいと思ったら、サーフィンをしたことのない人に教わろうと思いますか?

不健康な人に頭痛の直し方を聞くよりも、お医者さんに聞きたいですよね?「お金持ちになる方法を教えます」と言っている人がお金持ちではなかったら、その方法は信用できませんよね?

これは情報提供全般に共通します。「あなたがそれ言う資格ないでしょ!」と思われたら、いくら良い解決策があっても相手は聞いてくれないのです。

ですから、よく知るメンバーとの社内会議であっても、資料説明の冒頭で自分には「伝える資格」があることをアピールしないといけません。

顧客向けの提案資料であれば、自己紹介や会社概要を説明する際に、「伝える資格」を入れることは必須です。

第一ソリューション統括本部 第二インダストリーグループ ソリューション開発エンジニアの……という自己紹介はあり得ません。

相手は所属名など興味ありません。なおさら長い所属名なんて迷惑です。

私は年間で3000 人ほどと名刺交換しますが、長い所属名が書いてあるのを見ると、「ああ、顧客のことを考えない内向きな会社なんだな……」と残念な気持ちになってしまいます。

ですから、パワポの表紙で記載する所属名もできる限り省略して短くしてください。

そしてアピールすべきは所属名でも肩書きでもなく実績です。それを数字で表現してください。

「第一ソリューション本部で流通業界を担当しています」というよりも、「この2年間で56社の流通業のお客様が抱える課題を解決してきました」という紹介のほうが確実に相手は聞く気になります。

もし自分の実績がないとしたら、組織の実績を紹介してください。もしくは自分ではなく他者の事例を紹介して「このようにすれば解決するという方法を私は知っている」とアピールしましょう。

一瞬で信頼を高める「問いかけ」

『7つの習慣』で有名なスティーブン・R・コヴィーの長男である、スティーブン・M.R. コヴィーは書籍『スピード・オブ・トラスト』の中で、「互いの信頼が高まれば、ビジネスのスピードが上がり、コストは下がる」と力説しています。

まったく知らない人とビジネスをするためには、相手を理解することや関連情報を確認することなどに時間がかかり、良いスタートが切れないことがあります。

これはプライベートでも同じことが言えるでしょう。

付き合いたての男女であれば、気を使って事細かに言葉に表して意思表示するはずです。

しかし長年連れ添った夫婦であれば、「あれ持ってきて」と言うだけで相手が爪切りを持ってくる、ということもあるでしょう。同じ時間を一緒に過ごすほど関係は強くなっていきますから、朝9時に出社して朝礼をしてチームの結束力を高めるという企業が多く存在していたのです。

しかし、目まぐるしい変化の中でスピード感を持ってスマートにビジネスをするためには、短期間で関係を構築する必要が出てきます。

新しい顧客、新しい同僚と何年もかけて仲良くなるのでは間に合わないわけです。そこで短期間で信頼を獲得する術が必要になってくるのです。

『スピード・オブ・トラスト』では、 信頼構築に「誠実」「意図」「力量」「結果」という4つの要素が備わっている必要があると書かれています。

謙虚で誠意を持って対応すること、相手を知ろうとすること、相手に任せる勇気を持つこと、共通ゴールを設定し結果が出たら共に分かち合うことにより、信頼を構築できると言っています。

中でも、良い問いかけをすることで信頼を構築できると勧めています。

実際に、「人を動かした資料」の中に、冒頭部分でしっかり問いかけをしているスライドを多く目にしました。

「コストだけ重視して大丈夫ですか?」や「人手不足で悩んでいませんか?」といった具合に、疑問形で相手の反応を見ながら、適切なコンテンツの説明をしていくスタイルです。

確かに、私自身も経営者としてサービスの提案を受けることもありますが、あなたに足りないのはこれだ! と上から目線で断言される資料は、きちんと見ようとも思いません。

良い問いかけをして、足りていないところは何か、なぜそうなったのか……、と課題を掘り下げていくことで、相手に自身の考えを整理してもらいます。

そして、どうやってその足りないギャップを埋めていくかを対話によって一緒に確認していくことにより、少しずつ信頼関係が構築されていくのです。

関係の浅い相手に資料を見せて動かすためには、このような問いかけにより一緒に考えて信頼を構築する姿勢が求められます。
 

この言葉が出たらプレゼンは成功

意思決定者は資料に対して気づきと学びを求めています。忙しい中で時間を割いて資料をしっかり見てもらうには、相手にメリットがないといけません。

また資料の中にある情報を見ることが目的ではなく、その情報をどのように活用するかを意識させないといけません。

調査では資料の情報を得ることを目的にする人は22%で、獲得した情報を自分の言動に活かそうとする人は61%いました。

また、相手を動かすことができた資料の作成者と、 826 人の意思決定者の両方にヒアリングをして、相手から次の言葉が出たら好意的に捉えている、ということがわかりました。

「なるほど、そういうことか」
「わかった、よしやってみよう」
「意外と良かった」

このように、資料を説明したことによって、相手の知識と意識が変わり、価値や意義に共感してもらえれば、一気に相手が行動を起こす可能性が高まります。

そのためにも、当たり前のことをただ伝えるだけではなく、相手が持っていないであろう「気づきや学び」を与えて、「嬉しい裏切り」をすることで、行動誘発につながります。

「要は何?」という質問を避けるための方法

数字や視線を意識して説明しても、最後に「要は何?」と言われたら良い結果は得られません。

ヒアリング調査においても、「要は何?」という言葉を発するケースは、怒りや憤りの感情を表現することが多かったです。

つまり相手にとって、要点がわからない資料は理解だけではなく怒りを生むということです。

この「要は何?」に対処するには2つのパターンがあります。

まず1つは、相手が報告と提案のどちらを求めているか確認することです。

もし前者の報告を求めているのであれば、最初に問題の事象を説明し、その後に発生原因を説明することにより、多くのケースで相手を理解させることができました。

例えば、優良顧客のクレーム処理を報告するケースであれば、まず具体的に、どのような影響を・誰に・いつ与えたかを時系列で説明します。「10月1日にオペレーターが宿泊予約の処理をミスしてしまい違う日で予約を完了し、同日に顧客Aさんに電話した。そして、宿泊前日にそのミスを顧客Aさんが見つけ、コールセンターに入電し、再予約を試みたがすでに満室で代替ホテルを予約して連絡したがつながらず……」というように事実を説明します。

そのうえで、その問題が発生した理由を説明します。「オペレーターの予約ミスに気づく仕組みがなく、個人に依存した処理になっていた。そして社内の情報連絡が不十分で顧客をたらい回しにしてしまい、顧客の怒りが増して対応に時間を要してしまった」という説明です。

もう1つのパターンは、提案です。

提案では、先に結論としての解決策を提示し、その後、データや数字を使ってその効果を具体的に説明し相手を納得させていきます。

もし相手が、眉間にしわを寄せるような難しい表情したときは、結論である解決策に戻りましょう。

そして数字やデータに対して疑問を呈するような表情が出た場合は、解決策を示したうえでそれにつながる数字の根拠を具体的に説明していきます。

経営者には数字の表現が好きである一方で、その算出根拠を事細かく聞いてくる方もいます。

つまり数字は、根拠のないものをむやみに使うものではなく、必ずその解決策につながる意味のあるものを使う必要があるのです。

資料の中では「1課題」「2原因」「3解決策」「4効果」の4つが、この順番で並んでいること。そして、それぞれが「なぜ?」「だから、どうする?」「すると、どうなる?」という言葉でつながっていること。それだけで相手から「要は何?」と突っ込まれなくなります。
 

最初の30秒で目線を上げる

悲しいことに、プレゼンの時間が経つごとに相手の集中力はどんどん減っていきます。その集中力の下降カーブを緩やかにするには、最初の30秒の使い方が重要です。

プレゼン開始直後は聞き手のエネルギーレベルが最も高いにもかかわらず、このタイミングで他のことにエネルギーを傾けていたら、その後にこちらに関心を持ってもらうのが難しくなります。

中でも聞き手の集中力を奪うのはスマホです。プレゼン開始時にスマホの画面を見ている人は、その後も何度もスマホを見る可能性が高くなります。

プレゼン開始時はスマホが最大の敵です。何としてでもスマホの画面から、スクリーンもしくはプレゼンする人のほうに視線を持ってこないといけません。

そこで私がよく実践しているのは、目立ちやすいネクタイやチーフを着用して、その説明をすることです。

例えば、「今日は御社のブランドカラーである赤色のネクタイを急きょ近くのお店で買ってきました」と発言して、目線を私に向けるのです。会場が広くて、プレゼンする人が見えにくければ、スクリーンの上部に目線を持ってくるようにしてください。また、第2章でお伝えしたように、画像やアイコン、3Dモデルをスライドの上部に持ってくれば興味をわかせることができます。

他にも、私は3Dモデルを挿入して、マウスでグリグリと360度回転させることもあります。プレゼンのストーリーには直接関係のない行為ですが、最初に目線を上げておかないと後で視線をコントロールすることが難しくなるので、必ず最初の30秒で聞き手の目線を上げる仕掛けをしています。
 

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越川 慎司
株式会社クロスリバー代表取締役社長。株式会社キャスター執行役員。元マイクロソフト執行役員・PowerPoint事業責任者。国内通信会社、外資系通信会社、ITベンチャーを経て2005年に米マイクロソフト本社に入社。その後、日本マイクロソフトに転籍し、PowerPoint事業責任者、Officeビジネスの担当役員を務める。2017年に株式会社クロスリバーを設立。AIをフル活用して週休3日でクライアント企業を支援。日本企業529社への支援を通じて業務変革を実現、年間110回以上の講演を提供するなど、幅広く活動。元PowerPoint事業責任者の経験を通じて、成果につながる資料作成等の講座を2万人以上に提供し、受講者満足度は94%。826人の意思決定者へのヒアリング、5万枚以上のスライドをAI解析した結果、「一発OKを引き出す資料作成術」を導き出す。このノウハウを9社4513人に実施したところ案件成約率は平均22%上がり、作成時間は20%減少した。その成果をまとめたのが本書である。
 

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