(本記事は、越川 慎司氏の著書『科学的に正しいずるい資料作成術』=かんき出版、2020年2月3日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

1スライド「105文字以内」

本章では、意思決定者へのヒアリング、AI分析を経て導き出した「一発OKを引き出す資料作成の“ずる技”」を紹介します。なぜ“ずる技”なのかというと、このメソッドを使うことで圧倒的に資料作成の時間を減らすことができ、成果が出やすくなるからです。これは何も知らない人からすると、思わず「ずるい」と言いたくなるほどのものでしょう。

情報量が増えれば処理時間が長くなり、相手の脳を疲れさせますので、1スライドに入れる文字や図形は少ないほど「わかりやすく」なります。

実際、「人を動かした資料」とそうでない資料で、記載された文字数に大きな差が出ました。

「人を動かした資料」に記載されていた文字数(表紙と最終スライドを除く)は、1スライド平均135文字でした。

一方、そうでない資料は320文字でした。その差は2.4倍です。

さらに検証では、1スライドに105文字以内にすると相手を動かしやすくなるという結果が出ています。一発OKを引き出すには、できる限り少ない文字数で重要なことに絞ることが大切ということです。

この105文字以内ルールは、もともとメールの閲読率を調べていたときに見出したものでした。ITツールを使って調査・分析したところ、メール本文が105文字を超えると、閲読率が下がる傾向にありました。パソコンだと1画面に収まり、スマホだと画面スクロール3回以内で読むことができる文字量です。

調査では、冒頭の105文字で概要を簡潔に書き、後で「詳細は以下をご覧ください」と記載すると閲読率が高いことがわかりました。

フォントは「メイリオ」と「Meiryo UI」

調査で最も評価が高かったのは「メイリオ」と「Meiryo UI」です。

これは日本語の「明瞭」を意味するフォントであり、日本人にとって最も明瞭に見えるフォントです。太字にしたときの差がわかりやすく、適度な間隔が空いているため文字の認識力も高いのです。

また英数字だと、「Segoe UI」が最も評価が高いという結果が出ています。Meiryo UIとの相性も良いことから英数字はSegoe UIをおすすめします。

なお、Macの場合は、「ヒラギノ角ゴシック」が最も評価が高いフォントであることが実証実験でわかっています。

フォントサイズは「24ポイント以上」

フォントサイズ(文字の大きさ)の推奨は、24ポイント以上です。

たくさんの文字を詰め込むことを目的にするのであれば、フォントサイズが10.5でも9でも良いと思います。

しかし、基本的にパワポ資料は文字で表現することが多いため、その文字が見えないと意味がありません。

とはいえ、狭い会議室で使う資料と、大会場で1000人の前でプレゼンするときに使う資料では作り方も異なるでしょう。

ですが、いくら少人数での情報共有であっても、文字が小さいと相手の意欲を削ぐという調査結果が出ています。少なくとも18ポイント以上というルールを心がけてください。

文字サイズが社内で指定されれば、逆に小さな文字でぎっしりと埋め尽くすパワポ資料を作らせないことにもつながります。

実際に21社のクライアント企業で、社内資料の最低フォントを18ポイント、顧客向けを24ポイント以上、というフォーマットに設定したところ、最初は不平不満が出たものの、結果的には資料作成時間が11%減り、会議時間の減少にも貢献したと答えた方が28%もいました。

使用するカラーの種類は「3色以内」

文字数やフォントだけではなく、色選びにも相手を疲れさせない工夫が必要です。調査と実証実験の結果、スライド内に使うカラーの種類は、3色以内というのが勝ちパターンということがわかりました。

使うカラーの数が多いほど、脳内での処理が複雑になって疲れてしまいます。

また、人は色を見たときに何か関連するものと結びつけてしまう傾向があるため、その考える機会を少なくするためにもカラーは3色以内にすべきです。

そして、3色の種類は「文字カラー」「ベースカラー」「アクセントカラー」と考えましょう。

文字カラーは「ダークグレー」

文字カラーは「黒が正解」だと思いがちですが、真っ黒だと、彩度が高く頭が疲れてしまいます。

また、パワポ標準の黒を使ってスクリーンに表示させると、まぶしくて見づらいことがあります。資料をレーザープリンターで印刷するときも真っ黒ではテカテカして見づらいこともあります。

そこでおすすめなのは「ダークグレー」です。

低彩度のカラーが目に優しいので、真っ黒よりはダークグレーを選びましょう。白に近いグレーだと視認性が悪く霞んでしまうので、黒に近いグレーを使ってください。

このカラー選びでは、彩度が重要な役割を果たします。原色の高彩度のカラーを選ぶのではなく、低彩度のカラーを選んだほうが見やすく脳も疲れにくいという結果になりました。いわゆる「フラットデザイン」と呼ばれるものです。

ベースカラーは「彩度が低いフラットカラー」

ベースカラー(図やグラフなどで使う色)は、基本的に説明する内容を表現するのにふさわしい色を選んでください。

26社のパワポ資料を見ると、 8割以上がベースカラーには企業ブランドで使っているカラーを採用していました。

多くの会社は自社のブランドカラー(会社ロゴやTVコマーシャル、会社パンフレットなどに使っている色)を採用しています。

例えば、ドコモであれば赤、KDDIであればオレンジ、ソフトバンクであればシルバーです。

このベースカラーでも、彩度が低いフラットカラーを使ってください。

もし自社のブランドカラーが高彩度の場合は検討が必要です。

赤や黄色の高彩度の原色が入った企業ロゴがスライド内に入ってしまうと視線をコントロールすることが難しくなります。

実際に検証実験では、すべてのページに会社ロゴを入れたAパターンと、表紙と最終ページにだけ会社ロゴを入れたBパターンでは、同じコンテンツであったにもかかわらず、Bパターンのほうが提案相手に好評価で、最終の契約締結に影響を与えました。

アクセントカラーは「ベースカラーの反対の色相」

最後にアクセントカラー、差し色です。

服装ファッションで、おしゃれな人はこの差し色に気を使います。

最近では蛍光イエローや蛍光ピンクなどのネオンカラーを差し色で使うのが流行っています。

アクセントカラーは、ベースカラーの反対の色相を選びましょう。

フラットカラーデザインのパレット(前ページ図)を参照に、メインカラーの対角線の反対側の色を選んでください(本書では「赤の場合」になっていますが、インターネット検索すれば、他の色もすぐに見つかるはずです)。

例えば、ベースカラーが黄色ならアクセントカラーは紫、ベースカラーがオレンジならアクセントカラーは青というイメージです。

多くの企業で赤をアクセントカラーに使っていますが、「赤だから目立つ」「赤だと読んでくれる」というかつての常識は通用しなくなっています。

また、アクセントカラーは、どの色を使うかよりも比率が重要です。

いくら赤や逆色相の色を使って目立たせようとしても、その使用比率がベースカラーやメインカラーを超えてしまってはアクセントとして機能しません。

目安として、アクセントカラーは全体の5%に抑えてください。

例えば、アクセントカラーがスライド内で20%以上使われてしまうと、際立たせるというアクセントの目的が達成されません。

実際、アクセントカラーは多くても10%以内に収めないとアクセントにならないことが調査でわかっています。

『科学的に正しいずるい資料作成術』(※クリックするとAmazonに飛びます)

越川 慎司
株式会社クロスリバー代表取締役社長。株式会社キャスター執行役員。元マイクロソフト執行役員・PowerPoint事業責任者。国内通信会社、外資系通信会社、ITベンチャーを経て2005年に米マイクロソフト本社に入社。その後、日本マイクロソフトに転籍し、PowerPoint事業責任者、Officeビジネスの担当役員を務める。2017年に株式会社クロスリバーを設立。AIをフル活用して週休3日でクライアント企業を支援。日本企業529社への支援を通じて業務変革を実現、年間110回以上の講演を提供するなど、幅広く活動。元PowerPoint事業責任者の経験を通じて、成果につながる資料作成等の講座を2万人以上に提供し、受講者満足度は94%。826人の意思決定者へのヒアリング、5万枚以上のスライドをAI解析した結果、「一発OKを引き出す資料作成術」を導き出す。このノウハウを9社4513人に実施したところ案件成約率は平均22%上がり、作成時間は20%減少した。その成果をまとめたのが本書である。
 

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