「□□会社の○○です」では信頼されない

私たち日本人ビジネスパーソンは優秀。グローバルエリートとの差はほんのわずか──。ゴールドマン・サックス、マッキンゼーにて活躍した戸塚隆将氏は、近著『1%の違い 世界のエリートが大事にする「基本の先」には何があるのか?』の中でそう断言している。では、そのわずかの差とは何か? 戸塚氏に4回にわたって解説していただく。

※本稿は、戸塚隆将著『1%の違い 世界のエリートが大事にする「基本の先」には何があるのか?』(PHP研究所)の一部を再編集したものです(写真撮影:まるやゆういち)。

日本人は年齢より若く見られがち

私たちが海外で仕事をする際、最初のハードルは、取引先との信頼関係をどう構築するかです。

どんなに努力してもネイティブではないのですから、英語がうまくありません。日本人の体つきは比較的小柄です。男性も女性も実際の年齢より若く見られがちで、しばしば頼りない印象を与えます。

結果、名刺を見せるまで一人前として扱ってもらえないことも少なくありません。ふだんから名刺の肩書きに頼る仕事の仕方をしていると、グローバルな環境ではこの不利な第一印象を払いのけるのに苦労することになります。

名刺を渡したとたん、態度が一変

私の友人で日本を代表する大手企業に勤める人がいます。彼は海外での展示会で取引先とミーティングをすることになっていました。ミーティング開始直後は相手の反応が鈍く、明らかに「どうしてこんな若造が相手なのか」という態度でまともに話をしてくれません。

ところが名刺を渡したとたん、態度が一変したそうです。彼が重要な業務をまかされていることをようやく理解したのでしょう。

悔しいですが、これが日本人のビジネスパーソンが海外で突き当たる現実です。こうした思いをしないためにも、一瞬一瞬のプレゼンスを高めることが大切になってきます。

海外では名刺交換は重要視されていない

名刺に頼らず、自身のプレゼンスを高めることが必要な理由はもう一つあります。

それは、海外では日本ほど名刺交換が重要視されていないということです。名刺を持参していない人もいますし、持っていてもミーティングの冒頭ではなく、帰り際にさっと交換するだけですませることも少なくありません。

しかし、このほうが肩書きに頼らず、短い時間でより深く、パーソナルな関係を築きやすい利点もあります。

名刺に頼り過ぎない習慣がつけば、短時間で効果的に自己紹介することに集中できます。話の運びをどのようにすれば相手が自分の仕事について理解してくれるかを考え、前もって準備し、工夫することになります。そのため人と相対するときの集中力、積極性がおのずと高まるのです。結果的に受け身で仕事に臨むことも少なくなります。

好印象を与える「握手」のコツ

では、ビジネスシーンでのプレゼンスを高めるには、具体的にどうすればいいのでしょうか?

第一に、冒頭のあいさつを印象づけることです。とくに「握手」を大切にすることで、自分のプレゼンスは大きく変わります。

握手の際は、まず相手の目をまっすぐに見て、笑顔を浮かべます。そして自ら手を差し出して、しっかりと力強く2秒間、相手の手を握ります。あなたが女性であっても、優しさの中にある芯の強さを感じさせるような気持ちで、しっかりと2秒間握手をしてください。初対面であれば、名前を名乗る際に自分のファーストネームをはっきりと伝えましょう。

次に重要なポイントは、相手の名前をしっかりと頭に入れ、相手のファーストネームを実際に声に出して確認することです。相手の名前を間違いなく覚えることは、お互いの距離を縮める上で必須のことです。

初対面の相手の名前を覚えるコツ

ハーバード・ビジネス・スクール(以下、HBS)の学生は実に人の名前を覚えるのが上手でした。彼らを見ていると、初対面のときに三つのことを必ず実践していました。

まず、初めての自己紹介の際、相手の名前を意識して口に出すこと。口に出し、自分の口と耳で確認をします。

次に、自己紹介を終えたら、すぐに相手の名前を口に出して質問をします。「○○さんのご出身はニューヨークですか?」といった具合です。

最後に、別れ際にも必ず相手の名前を口に出しながら、あいさつをします。「○○さん、今日はありがとうございました。ご一緒できて光栄でした。またお会いできるのを楽しみにしています」。

こうして3回も相手の名前を口に出せば、さすがに記憶に残るものです。ここで仮に名前を間違えたとしてもその場で訂正してもらえますので、読みづらい(発音しづらい)名前であることも記憶に焼き付けることができます。

「会社名+名前」では自己紹介にならない

「自己紹介」で気をつけるべきことは、あなたの会社名、部署名、取り扱っている商品・サービス名だけの自己紹介をしないことです。

私の会社が主催しているベリタスイングリッシュのクラスでは、自己紹介文を練り上げるプラクティスがあります。そのとき受講者さんがやってしまいがちなのが、会社名、部署名、商品名を羅列しただけの自己紹介をつくってしまうことです。

グローバルなビジネスシーンにおいて、会社名は自己紹介としての機能を果たしません。

「□□会社の戸塚です」だけで終わらせず、あなたがどのようなバックグランドを持ち、現在どんな業務についているか、自分の強みは何なのか、さらにはどのような想いで仕事に取り組んでいるのかを自分の言葉で魅力的に紹介できてはじめて、ビジネスパーソンとしての信頼を勝ち得ることができます。

「自己紹介のフォーマット」を作っておく

それでは、魅力的な自己紹介のポイントは何でしょうか。

初対面における自己紹介の内容は、①名前、②出身地、③趣味・興味、④家族、⑤仕事内容・勤めている会社、⑥具体的にどんな仕事をしているか、⑦どのような想いで仕事をしているか、が挙げられます。これらを「自己紹介の基本フォーマット」としてあらかじめ言語化しておくのです。

⑤に関しては、先ほども述べたように、単に所属を語るのではなく、その会社で自分がどんな役割を果たしているのかを伝えることが大切です。またそれにプラスして、一人の個性ある人間として趣味や興味についても語れるよう準備しておきましょう。

「肩書き」ではなく「個人」を見る

日頃の職場においても、名刺に頼り過ぎない意識転換は、仕事の成果に結びつきます。名刺に書かれている相手の「肩書き」ではなく、「個人」に興味を向けてみるのです。名刺交換後はいきなり本題に入らず、少しだけパーソナルな会話をすることを心がけるのです。

たとえば相手の名前に使われている漢字、出身地、これまでの職歴、今の仕事についてなど。それだけで場が和み、会話がスムーズになります。

多種多様な国籍のHBSの学生やグローバルファームのビジネスパーソンにとっては「Where are you from?」は定番の質問です。

その質問を起点に、その街はどんなところか、名物は何なのか、おすすめの観光地はどこか、仕事は何か、どうやって勉強し、スキルを身につけてきたのかなど、話をどんどん発展させることができます。

興味を持ってくれる人に対しては、相手も自然と関心や好意を抱いてくれるものです。

「□□会社の○○部長の△△さん」ではなく、相手が唯一無二の存在であることを意識することです。そこに魅力的な自己紹介が加われば、あなたの存在感と人間的魅力は格段に上がっていくでしょう。

文・戸塚隆将(とつか・たかまさ)
1974年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス勤務後、ハーバード経営大学院(HBS)でMBA取得。マッキンゼーを経て、2007年、ベリタス株式会社(旧シーネクスト・パートナーズ株式会社)を設立、代表取締役に就任。 同社にて企業のグローバル人材開発を支援するほか、HBSのケーススタディ教材を活用したプロフェッショナル英語習得プログラム「ベリタスイングリッシュ」を主宰。グローバル人材を輩出し続けている。著書に『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』(朝日新聞出版)等がある。

提供元・THE21オンライン

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