2019年4月1日から「年次有給休暇の取得義務化」や「正社員と非正社員間における不合理な待遇差の改善」を含む「働き方改革関連法案」の施行がスタートします。

中でも世間の注目を集めるのは、「罰則付き時間外労働の上限規制」が設けられたこと。残業の上限時間を「年720時間以内」「単月100時間未満」「複数月平均80時間以内」と定め、これを超えることを法律で禁じました。違反した場合には、「半年以下の懲役」もしくは「30万円以下の罰金」が科せられます。

残業時間の上限を法律で規制するのは、「労働基準法」が制定された1947年以来初めてのこと。大改革として長時間労働の抑制に期待される一方で、一部の業種では上限時間が異なったり、「過労死ライン」と呼ばれる「月80時間」を超えているといった懸念もあります。

今回は、「罰則付き残業規制」について見ていきます。

なくならない違法な時間外労働。残業の上限規制は急務だった

背景にあるのが、後を絶たない「違法残業」です。

東京労働局が2017年11月に実施した「過重労働解消キャンペーン」では、監督指導を行った事業所は75.5%に上り、そのうち約4割に「違法な時間外労働」が認められています。

休みなく働く生活を送れば、病気になるのは目に見えています。厚生労働省が2018年7月に発表した「2017年度の労災補償状況に関する調査結果」によると、脳・心臓に関する労災認定を受けた人の多くが、月間の平均残業時間が60時間を超えていることがわかりました。

中でも、過労死ラインを超える「80時間以上100時間未満」が突出していて、これは1日に約5時間の残業をしている計算です。残業時間に限度を設け、違反者に罰則を科すという対応は、急務だったのです。

「36協定を結べばいくらでも残業OK」ではなくなった

こうした深刻な状況を改善すべく、残業時間の上限が法で規制されることになります。法案の内容を整理してみましょう。

現在、残業の限度時間は「月45時間、年360時間」と定められています。しかし「特別条項」、いわゆる「36協定」(サブロク協定)を締結すれば、残業時間に上限がない状況にあり、大きな問題となっていました。
 

法改正ではこの「残業時間に上限がない状態」にメスを入れました。罰則付き残業規制では特別な場合でも残業は、「月100時間未満」(休日労働含む)、「年720時間以内」(休日労働含む)、「複数月平均80時間」までとし、法律で残業時間にリミットを設定。また、限度時間である「月45時間の残業」を超えられるのは「年間で6か月まで」ともしています。
 

違反した場合は、雇用者に対して「半年以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科せられます。

新法案の施行は、大企業では2019年4月1日から、中小企業では準備の猶予として1年遅れの2020年4月1日からとなっています。

企業は「経営に支障が出る」と警戒

企業はどう思っているのでしょうか。「エン転職」が2018年9月に経営者・人事向けに行ったアンケートでは、約半数にあたる47%の企業が「働き方改革関連法案の施行で経営に支障が出る」と回答しています。

また、「経営に支障が出そうな法案」には、第1位は「時間外労働(残業)の上限規制」(66%)が挙がります。具体的には、

「残業の上限や有休を義務化したら生産性が下がる。生産性が下がる分、人を増やしたら人件費が上がる。生産性が下がり、人が増えると、賞与を下げざるを得ない。モチベーションに影響があると思う」
「結果的にサービス残業の増加で補う状態になってしまうと思う」

などの考えが寄せられ、戦々恐々としている様子がうかがえます。

企業が「月に100時間未満までなら残業させてもいい」ととらえる心配も

罰則付き時間外労働の上限規制は、すべての業種で一斉に適用されるわけではありません。「建設」「運輸」「医師」については5年間、適用が猶予されます。

しかし、これらの業種は長時間労働が深刻なため、「働き方改革から置き去りにされる」という心配の声も挙がります。中でも運輸は、猶予期間後も残業の上限が年960時間と、他業種よりも規制が緩い点も問題です。

また、上限が過労死ラインと呼ばれる「月に80時間」を上回っていることにも疑問の声が挙がっています。そして、法で上限を明確にしたことで「月に100時間未満までの残業であれば合法」という考えが企業に広がるおそれもあります。そうなると、現在よりも残業時間が引き上げられる可能性もあり、まだまだ課題が残されています。

まとめ

働きすぎは生産性を下げ、健康を害する原因にもなります。実際、うつをはじめとする精神疾患にかかり、退職を余儀なくされる人はたくさんいます。一向になくならない長時間労働への解決策として残業時間の上限を法で定め、守らない経営者にペナルティを科す「罰則付き残業規制」は、企業・個人ともに働き方の見直しにつながるはずです。

課題はありますが、国が本格的に動いたのは大きなステップ。これを機にワークライフバランスを大切にし、「残業=おかしいこと」という社会への変化が期待されています。

文・Yuichi Sonobe/提供元・Fledge

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