世界のエリートたちが実践している「うまい反論の仕方」

私たち日本人ビジネスパーソンは優秀。グローバルエリートとの差はほんのわずか──。ゴールドマン・サックス、マッキンゼーにて活躍した戸塚隆将氏は、近著『1%の違い 世界のエリートが大事にする「基本の先」には何があるのか?』の中でそう断言している。では、そのわずかの差とは何か? 戸塚氏に4回にわたって解説していただく。

(※本稿は、戸塚隆将著『1%の違い 世界のエリートが大事にする「基本の先」には何があるのか?』(PHP研究所)の一部を再編集したものです)

相手の意見を真正面から否定しない

会議の場では、限られた時間で多くの意見を出し合い、最善の結論を導き出す必要があります。そのためには活発な議論が不可欠です。

では、議論を活性化するにはどうしたらいいでしょうか。そこで役に立つのは「相手の意見を真っ向から否定しない」ことです。

このアプローチは私たち日本人が得意とすることです。なぜならば私たちは「和」を大切にするため、相手を真正面から否定することを好まないからです。

意外に思われるかもしれませんが、ハーバード・ビジネス・スクール(以下、HBS)でもそれは同じです。議論好きの学生が集まるHBSでも、相手の意見を真っ向から否定することはめったにありません。

一方で、私たちのなじみのある会議とHBSのディスカッションには大きな違いがあります。それは、HBSでは一定の同意はしても、同意しない個所を明確にするのです。それによって議論は滞るどころか、活発化していきます。

ハーバード・ビジネス・スクールの学生が多用する「クッション言葉」

英語のディスカッションでは、相手への敬意を示しながら反論をする際に役立つ「クッション」表現が多用されます。HBSの学生たちは、まさに、このクッション表現を上手に使いこなします。

たとえば、相手の意見に部分的に賛成しつつ、自分の意見をうまく織り込んでいく場合には、「That’s an interesting point, but I also have an idea about that...」(それは興味深い視点ですね。でも、もう一つ意見があるんです……)という具合です。

このように、議論に慣れたHBSの学生たちは、「あなたの意見には反対です!」という直截的な言い方はしません。謙虚に、人の話をよく聞きます。その上で、相手に配慮しながらしっかりと自分の意見を伝えていくのです。

HBSでは発言好きの学生たちが喧嘩し合うかのようにお互いを否定し合って活発なディスカッションをするもの、と覚悟していた私は入学後に驚いたものです。

相手の意見の「根拠」に注目

グローバルな環境では、異質が大前提であり、意見は異なるものと想定しておくべきです。そのため相手の意見を聞いて理解し、尊重し、その上で議論を深めていくことが求められます。多様な価値観を尊重しながら意見を言うことが大切です。

そんなときに注目すべきなのが「根拠」です。相手の結論ばかりでなく、その根拠に目を向けると、建設的に議論が進み始めます。これが、相手の結論を真っ向から否定しないことの利点です。

たとえば、「青のほうがいい」「いや、赤がいい」という結論をぶつけ合うやりとりでは、なかなか決着がつかないでしょう。好き嫌いの問題ですから、堂々めぐりになってしまいます。

しかし、根拠を強調する話し方をすると、議論の中身が建設的になり、反対意見が議論を活発化させる効果をもたらします。たとえばこうです。

「さわやかさを重視するなら、青だと思うよ」

「さわやかさもいいけど、ここで重視されるべきなのは情熱じゃないかな。そうなると赤だな」

「ではこの場合、さわやかさか、情熱か、どちらが優先されるべきだろう? その点が決まればおのずと選ぶ色も決まってくるよね」

「根拠対根拠」なら感情的にならない

いかがでしょうか。結論が違う場合でも、さわやかさと情熱のどちらを優先すべきかという「根拠対根拠」の議論にもっていくと、感情的な喧嘩になりにくいと思いませんか?

相手の根拠に注目して議論を深める意識が、活発な意見交換を促し、職場のチームを高みに導いてくれるはずです。

明日からの会議で、上司や同僚の意見とは自分は反対の立場だな、と思うことが出てきたとします。そんなときは、積極的に反対意見を述べてみましょう。そして、相手の「結論」ではなく、その「根拠」に注意深く耳を傾けましょう。相手の根拠を理解した上で、別の根拠とセットにして反対意見を述べてみるのです。

根拠を強調すれば、むやみな対立をあおらず、建設的に反対意見を伝えることができます。説得力も高まります。結果、お互いの理解が深まり、納得のいく結論を出すことにつなげられるのです。

日本人の強みは「数字に強い」こと

では、さらに一歩進んで、私たち日本人ビジネスパーソンが国際会議で存在感を発揮するにはどうしたら良いでしょうか?

日本人は、発言量でほかを圧倒することはできません。私たちは日本人の強みを活かした存在感の示し方で勝負すべきです。無理に同じ土俵に上がろうとせず、自分らしいやり方で臨むべきです。

日本人の強みの一つに「数字の強さ」が挙げられます。数字と聞くと、私は数学が苦手だったから無理、と思う読者の方もいるかもしれません。それでも、気を落とす必要はありません。ここでいう数字というのは、桁数の少ない四則計算も含みます。

日本の教育では、子どもの頃から計算演習が学校教育で重視されているため、自分の苦手意識とは裏はらに、グローバルに見れば日本人は平均的に計算は速く、数字に強いと言えます。

会議の場では、数字に基づいたファクトベースの議論の際に、おそれず、積極的に発言すると良いでしょう。そのためにも、数字を英語で表現できるように、復習しておくことが望ましいでしょう。

「What if~?」の問いかけが効果的

もう一つ、会議で存在感を発揮するコツがあります。それは、「What if ~?」の問いかけです。たとえば英語のネイティブスピーカーの同僚が早口で発言していれば、それを受け止めた上で、「What if ~?」(もし?ならどうなる?)と言って、前提の怪しいところや論理が甘いところを指摘するのです。

What if ~? という問いかけを使うと、議論の前提条件が変わったときに、結論がどのように変わるかという視点を提示することができます。効果的に使えば、新たな視点や意見を生み出すことに貢献できるのです。

会議が白熱すると、前提条件を置き去りにしたまま、あらぬ方向に話が進んでしまうことがあります。そうした場面で役に立つのがWhat if ??です。議論の整理役としてピリッと場を引き締めることができるでしょう。結論に達しそうな議論の最終段階では、What if ~? と問いかけることで結論のたしかさをダブルチェックすることもできます。

What if ~? は、英語で行なわれている細かな発言の一言一句を把握しなくても、活用することができます。ディスカッションを大局的に俯瞰し、発言内容の前提条件や論理構成をおおまかにとらえていけばよいからです。

議論を整理できる人材は貴重な存在

日本人のもう一つの強みとしては、客観的に物事を観察する目に優れていることが挙げられるでしょう。議論に没頭し過ぎず冷静に話の流れを俯瞰して見ることができれば、論理の甘さに気づくことができます。この強みを活かしていけば、発言量は多くなくても存在感を示すことが可能です。

HBSの授業でもWhat if ~? は役立ちました。HBSのクラスルームには、多様な国籍の学生がいます。私の在籍したクラスで口数が多かったのは、あくまで一例ですが、アメリカ人、インド人、エジプト人、中国人。反対に口数が少なかったのは日本人のほか、スイス人、韓国人、チリ人、ブルガリア人等です。

HBSの授業では毎回ディスカッションが白熱します。そこで評価されるのは、白熱する議論に新たな視点をもたらす発言です。ここでも役立つのがWhat if ~? なのです。

たしかなロジックに基づいて議論を整理できる人材は、グローバルな場では貴重な存在です。

普段の会議でも「What if~?」は有効

このアプローチは日本語環境の会議においても役に立ちます。明日からの会議ではWhat if ~? を使うべき場面がないか、ぜひ意識してみてください。「もし?ならどうなる?」という問いかけを効果的に使うことで、いっそう議論が深まることでしょう。

声の大きな人の意見が通りそうになる際は、What if ~?の視点を投げかけましょう。あなたの存在価値を高めることにつながるはずです。

(写真撮影:まるやゆういち)

文・戸塚隆将(とつか・たかまさ)
1974年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス勤務後、ハーバード経営大学院(HBS)でMBA取得。マッキンゼーを経て、2007年、ベリタス株式会社(旧シーネクスト・パートナーズ株式会社)を設立、代表取締役に就任。 同社にて企業のグローバル人材開発を支援するほか、HBSのケーススタディ教材を活用したプロフェッショナル英語習得プログラム「ベリタスイングリッシュ」を主宰。グローバル人材を輩出し続けている。著書に『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』(朝日新聞出版)等がある。
(『THE21オンライン』2019年05月07日 公開)

提供元・THE21オンライン

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