「効率」だけを重視する組織に未来はない

調整力がある、大量の仕事をそつなくさばく、上司の期待に応える──。一見、優秀な人材に見えるが、こうした仕事の仕方をする人こそが、働き方改革を阻害する可能性がある。そう警鐘を鳴らすのは、組織風土改革の第一人者として、数多くの職場をコンサルタントしてきた柴田昌治氏だ。一体、なぜ優秀な人材が障害となるのか。その理由と改善策を解説してもらった。

「意味のない仕事」をやめられない理由

中間管理職、とりわけ課長クラスの人たちには、日々たくさんの仕事が降りかかってきます。中には、「すでに意味を失った仕事を、惰性でこなしている」人もいるのではないでしょうか。

目の前の仕事をさばくのに精一杯で、本当にやるべき仕事に力を注げない。その結果起きているのは、個人の疲弊と日本企業の低迷です。日本企業が世界の時価総額ランキングで上位を独占していたのも今は昔。現在では、アメリカや中国の企業の後塵を拝しています。みんなクタクタになるまで働いているのに、新たな価値を生み出す余裕がないのです。

実際は、多くの日本企業が、「今までの働き方に未来はない」ことに気づいています。でも、経営陣も現場も、どう変わればいいのかわからない。だから、すでに通用しないとわかっているビジネスモデルや非効率な仕事の進め方をするのをやめられない。ミドル社員は今日も働き方を変えることなく、疲弊した現場を調整し、大量の仕事をさばき続けます。

ただし、これはせっかく顕在化した問題を先送りしていることに他なりません。仕事をさばくのが上手な人は、ひと昔前は組織人として優秀だとみなされていましたが、今の時代では一歩間違えればただの思考停止です。「仕事をさばく職人」が増えると、自部門の利益しか考えない部分最適にはまり、全体最適を考える思考力が低下します。こうした人材が上に行くことほどの悲劇はありません。働き方改革が進まないどころか、組織全体の衰退に拍車をかけていることを理解すべきでしょう。

ミッションを再定義し、現在の仕事を再構築せよ

「目の前の仕事をどうさばくか」を考える前に、「この仕事にはどういう価値があるのか」を自身に問いかける。仕事の前提を疑うことが働き方改革の第一歩です。

では、やるべき仕事と必要のない仕事はどう判別すべきか。それは、自部門の仕事を再定義することから始まります。ミドルリーダーは、社会や業界の変化、会社方針の変化を踏まえ、「自分たちの部署に求められているミッション=役割は何か」を再定義し、構築し直さなければならないのです。

ミッションが明確になれば、「絶対にやるべき仕事」「できればやったほうがいい仕事」「やる必要はない仕事」といった具合に、優先順位をつけることができます。基準がはっきりしていると、意思決定も速くなります。「絶対にやるべき仕事」「できればやったほうがいい仕事」「やる必要はない仕事」は、およそ2対6対2の割合で分けることができます。そこで、最優先事項である2割に、8割の時間とエネルギーを投入します。残りの2割の時間とエネルギーで、「できればやったほうがいい6割の仕事」をさばきます。

これにより、働き方改革の目的の一つである「長時間労働を是正しながら、成果を上げること」に注力できます。

無意識に部下の仕事を邪魔していないか?

ミドルリーダーが自分たちのミッションを再定義する際には、部下を巻き込み、部署全体で検討していくことが重要だと考えています。一人の力では限界があるからです。それに、部下は部下なりに、会社に対する危機感を抱いています。その想いをしっかりと汲み取り、「自部門のミッションとそれぞれの役割」を議論し、共有するのです。

日頃からミッションや優先順位を共有しながら仕事に取り組むことで、部下に自主性が生まれ、指示しなくとも生産性の高い仕事をするようになります。

ただし、ミッションについて部署内で議論をするためには、メンバーが自分の意見を率直に語り合える関係性をあらかじめ築いておくことが条件となります。今、多くの職場では、自分の仕事に手一杯で、必要最低限の会話しか交わされていません。

本来、日本の組織の強みは、「連携力」にあったはずなのですが、今はその力が衰退しています。お互いの信頼関係ができていないのに、率直な意見を求めたところで、出てこないでしょう。普段から気安く話し合える職場作りが不可欠です。

そこには、部下が上司に対して「なぜ、その仕事をする必要があるのですか」など、臆することなく問い返せる関係も含まれます。「この仕事に意味はない」と思いつつ、上司の命令だから仕方なく業務をこなすのでは、働き方に工夫は生まれず、生産性は上がりません。むしろ、仕事の意味・目的・価値を問われて説明できない上司が部下に仕事を任せるとしたら、部下の仕事を邪魔していると言えるでしょう。

「突破力」のある部下を飼いならせ

今の時代、効率的に仕事を進めるだけでは、企業の成長は頭打ちになってしまいます。効率的な仕事と同時に、新たなビジネスチャンスを探し続けなければなりません。

ところが、優秀な社員ほど、「できるか、できないか」を先に考えてしまい、できない理由を探して、挑戦しない。できることしかやらなければ、じり貧のゆでガエルになるのは自明の理。これも日本の企業が世界の中で、プレゼンスを低下させている要因の一つです。

そこで重要なのが「突破力」です。突破力とは、さまざまな困難が想定される環境でも、果敢にその制約条件を突破する力のこと。意外と、組織で優秀と思われていない人が、突破力を持ち合わせていることも少なくないのです。

どんな部署にも「成功するかどうかはわからないが、これはやるべきだ。やりたい」と行動する勇気を持つ人材はいるものです。ミドルリーダー自身がそうした気概を持ち合わせていることが理想的ですが、それを部下が持ち合わせているのなら上手に利用すべきです。

ここで必要なのは、スポンサーシップ。ミッションと照らし合わせてやってはいけないことだけを決め、後は自由に仕事をさせます。ただし、責任を取らない上司のもとで自由に挑戦はできませんので、覚悟が必要です。

多様な部下を扱い、短期的な目標も上げなければならない。おまけにコンプライアンスまで厳しくなったミドルリーダーの仕事は昔以上に難しくなっています。でも、個人ではなく組織で生産性を上げれば、働き方を変えられるはずです。

今、ミドルのリーダーシップが強く問われています。

柴田昌治(しばた・まさはる)
スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表
1979年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。1986年に、日本企業の風土・体質改革を支援するためスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。社員が主体的に人と協力し合っていきいきと働ける会社をめざし、社員を主役にする「スポンサーシップ経営」を提唱、支援している。2009年にはシンガポールに会社を設立。著書に、『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』(以上、日本経済新聞出版社)、『成果を出す会社はどう考えどう動くのか』(日経BP社)などがある。《取材・構成:長谷川 敦/写真撮影:長谷川博一》(『THE21オンライン』2019年4月号より)

提供元・THE21オンライン

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