アイデアが自動的に広がる思考法

世の中には様々なフレームワークがあるが、使いこなすのが難しいものが多い。フレームワークに振り回されて、本質から外れた議論がされるケースさえある。そんな状況から脱するためには「5W1H」が有効だと、コンサルタントの渡邉光太郎氏。いったい、どのように使うのだろうか?

フレームワークより「原点」に立ち返れ

ビジネスで使う思考ツールといえば、3Cや4P、SWOT分析などのフレームワークを思い浮かべる人が多いでしょう。

確かに、フレームワークは、使いこなせれば非常に有効なツールです。私も、コンサルティングの場で様々なフレームワークを使ってきましたし、研修などで紹介もしてきました。

しかし、近年、その弊害も感じるようになりました。「フレームワークを使う機会がない」「たくさん種類があって、どれを使えばいいのか選べない」「きちんと使えているのか確信が持てない」といった声を頻繁に聞くようになったのです。

実際、的確に使いこなせていないケースは数多く見られます。ムリやり使っているだけで、何を伝えたいのかわからない。問題提起にも、解決策の提示にもなっていない。かえって話を複雑にしている……。「フレームワークシンドローム」とも言うべき現象が起きています。

そこで私は、「5W1H」という原点に立ち返ることをお勧めしています。

5W1Hは、事実関係を把握したり、説明したりするときの基本として、誰もが学校で学んだ、馴染みのあるものです。それにもかかわらず、ビジネスの現場では、せいぜい行動プランを作るときに使われる程度に留まっているケースが多い。

しかし、企画や分析に優れた人たちは、5W1Hを上手に活用しています。それも、事実関係を羅列するだけの通常の使い方ではなく、進化した方法で活用しているのです。

「5W1H思考」は、フレームワークと違って、どんな場面でも使えます。しかも、使い方も簡単。使い古されているように見えて、実は、最強の思考ツールなのです。

Whyを繰り返して思考を掘り下げる

「5W1H思考」のポイントは、各要素を四角四面に捉えずに、柔軟に応用することです。

例えばWhenは、「いつ」だけでなく、「何日から何日まで」という期間や「いつまでに」という納期、また、スケジュールや頻度、順番など、時間軸を伴うすべての事項に使います。

企画書をまとめる場面であれば、

・Why=目的や背景
・What=テーマ
・Who=メンバー
・When=スケジュール
・Where=実施場所
・How=段取りや進め方

というように、具体的な事項に落とし込んで使うわけです。

この要領で5W1Hを整理することで、思考のモレに気づくことができ、バランスの良いプランニングや分析が可能になります。

ちなみに、6要素の中で、一つだけ、他とは性質の違うものがあります。それはWhyです。

他の5要素は事実の中から拾い出すことができますが、Whyだけは、頭の中で考えなくてはなりません。

頭の中で考えることなので、Whyは、何度も重ねて問い続けることができます。そして、本当に目指すべき目的を確認するためには、Whyを繰り返すことが重要となります。

例えば、「ペーパーレス化を進めよう」というとき、「Why?」と問いかけることで、「ムダな社内業務プロセスを削減するため」という目的を確認することができます。

そして、ここで留まらず、さらに「なぜ、社内業務プロセスを削減するのか?」と問うことが重要なのです。そうすることで、例えば、「社内ではなく、顧客のほうを向く風土を作るため」といった、真の目的を確認することができます。

真の目的がわかっていないと、社内業務プロセス削減のために、より社内にばかり意識が向いてしまうといった、本末転倒の結果になりかねません。

商品のコンセプトを考えるときにも、Whyを繰り返して真の価値にさかのぼることが有効です。

「ひらめき頼み」から卒業しよう!

ここからは、5W1H思考がとりわけ使いやすく、かつ高い効果を発揮する、三つの場面での使い方を紹介しましょう。

一つ目は、「アイデア発想」です。

アイデアは「ひらめき」だと思われがちですが、5W1Hを使えば、意図的に、システマチックに、アイデアを広げることができます。

6要素のうちの一つ、または複数を取り上げて、別のものに変えることで、ありきたりの発想から一歩出られるのです。

パナソニックの携帯用電動歯ブラシ「ポケットドルツ」は、「Where」に着目したアイデア発想の例です。

このヒット商品が生まれた発端は、ある社員が昼食後の会社の洗面所で、「電動歯ブラシを売っている部署なのに、皆、手で磨いている」という疑問を抱いたことだったそうです。電動歯ブラシといえば、「家の中」で使うものだったのです。そこで、Whereを「家の中」から「家の外」に変えたことで、ポケットドルツが生まれました。

この例のように、特に商品企画を考えるときには、5W1Hに着目するのが効果的です。「Who=誰が使うのか」「When=いつ使うのか」といったことを整理して、既存の商品とは違った方向に目を向けると、新しい商品の企画ができるでしょう。

説明の「3点セット」と説得の「Why-How」

二つ目は「コミュニケーション」です。5W1Hを上手に使えば、わかりやすい説明と、納得度の高い説得ができます。

説明で役立つのは、「Why」「What」「How」の3点セット。「なんのために」「何を」「どうやって」の3ポイントを押さえて話すと、相手に理解してもらいやすい説明ができます。

例えば「働き方改革」の説明をするなら、「なぜ働き方改革が必要なのか」「内容はどういうものなのか」「どのように進めるのか」を話せば、シンプルでわかりやすいですよね。

話す順番は、適宜、入れ替えてください。Whatから入って、そのあとにWhyを解説するほうがわかりやすい場合もあるでしょう。

説明は相手の理解がゴールなのに対して、説得の場合は、相手に行動を変えてもらうことがゴールです。ここでは、「Why」と「How」を意識しましょう。

何かをしてほしいと頼むと、相手は、「なぜ?」と「どうやって?」という疑問を持つでしょう。その疑問を先取りして、WhyとHowを伝えるのです。

Whyの中には、「What」「Who」「When」を入れましょう。つまり、「なぜ、他のことではなく、『これ』をしてほしいのか」「なぜ、他の人ではなく、『あなた』にしてほしいのか」「なぜ、他のときではなく、『今』してほしいのか」を伝えるのです。そうすることで、相手に納得感が生まれます。

そのうえで、How=具体的な行動を話せば、相手に動いてもらいやすいでしょう。

Whyから問題解決を始めてはいけない

三つ目は「問題解決」です。5W1Hを適切な順番で問いかけていくことで、効率的な問題解決が図れます。

例えば、「離職率が高い」という問題があるとしましょう。このとき、よくしてしまう間違いが、Why(「なぜ離職率が高いのか?」)から始めることです。

「残業が多いからだろう」「給料に不満があるからだろう」などと、いきなり原因を考えると、「在宅勤務制度を導入しよう」「ボーナスを上げよう」といった解決策を、決め打ちで出すことになります。それが当たる保証はありません。

まず取りかかるべきは、「Where=問題が起こっている箇所」の特定です。離職率が高いのはどの年齢層なのか、どの部門なのか、といったことを調べて、患部を明らかにしましょう。すると、自然にWhyが見えてきて、How=対策を考えるのも容易になります。

場合によっては、Whereの前に「What」を考える必要もあります。「問題は何か?」を、改めて考えるのです。

すると、「離職率は業界平均と同じで、問題ではなかった。問題は採用応募者が少ないことだ」などと気づくことがあります。

ですから、問題解決を効率的にするためには、「What→Where→Why→How」の順番に考えるといいわけです。

以上のように、5W1H思考は、ビジネスにおける重要なシーンのいずれでも役立ちます。高いパフォーマンスを生む「古くて新しい方法」を、ぜひ活用してください。

文・渡邉光太郎(わたなべ・こうたろう)
〔株〕ランウィズ・パートナーズ代表取締役
早稲田大学卒業、英国国立レスター大学経営大学院修了(MBA)。東芝、大手シンクタンク、グロービスを経て、現在は、〔株〕ランウィズ・パートナーズの代表として、企業の事業戦略立案・業務改革推進の「伴走コンサルティング」を行なっている。ビジネススクール・研修講師、コンサルティングの他、フラワースタジオの経営などにも携わっている。著書に『シンプルに結果を出す人の5W1H思考』(すばる社)など、近著に『仕事で必ず結果が出るハイパフォーマー思考』(PHP研究所)がある。《取材・構成:林加愛》(『THE21オンライン』2019年3月号より)

提供元・THE21オンライン

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