スマートシティの壮大な実験場

2018年8月下旬、深セン市において、第4回中国智慧城市(スマートシティ)国際博覧会が開かれた。席上、全国副省都級都市の100%、地域中心都市の76%、合わせて約500都市の代表が、明確にスマートシティ建設を目指すと表明した。中国は世界最大のスマートシティ建設の実験場となるに違いない。 スマートシティの建設には、優秀な中国企業のノウハウが投入される。その主力は、PATHであるという。P=ピンアン(平安)、A=アリババ、T=テンセント、H=ファーウェイ(華為)の4社だ。

「IT巨頭BAT」という呼び方は、定着して久しい。今回はバイドゥを落とし、最も元気のよい金融グループ・ピンアンと、5G建設に欠かせない、ハードメーカーのファーウェイを加えている。確かにバランスはこの方が良さそうである。

スマートシティについては「人民網」「中国網」などの官製メディアがこぞって取り上げた。これらの報道を元に、スマートシティ推進の実情を探ってみよう。

モデル都市 深センと上海

中国は政策的に都市化を推進している。改革開放政策が始まる前、1978年の都市化比率はわずか17.9%だった。それが2017年には58.5%に上昇した。

「国家人口発展計画(2016-2030年)」によれば、現在の常住都市人口の割合を、2030年には70%にまでもっていくという。行政の効率化、高齢化社会への対処、中国の生命線ともいえる不動産価格の維持、さまざまな狙いがありそうだ。それはともかく、中国の都市はますます過密化へ突き進む。

現在、スマートシティのモデル都市となっているのは、深セン市と上海市である。深セン市長は次のように述べている。「深セン市にとってスマートシティ建設は、最重点政策の一つだ。インターネット、IoT、クラウドコンピューティングなどの基礎インフラを整備し、3年以内に、スマートフォンや光彩認証での行政サービスを可能とする。そのためピンアン、アリババ、テンセントとの提携関係を深めている。」

また上海市は8月中旬、アリババとテンセントというIT2大巨頭との間で“上海智慧城市”プロジェクトに署名した。これによりオンライン行政システムの構築を加速する。上海市は、テンセントのSNS「ウィーチャット(微信)」は“アプリ本位制”の代表、アリババのクラウドサービス「アリババクラウド(阿里雲)」は“技術本位制”の代表という表現をしている。

競い合うアリババとテンセント

アリババとテンセントは、株式時価総額の世界トップ10入りを果たしている。現代中国を象徴する企業といってよい。両者はIT、金融、投資、小売りなどあらゆる分野で競い合っている。

スマートシティ建設も例外ではない。2016年のデータでは、テンセントは16都市、アリババは12都市と「スマート都市建設提携協議」を結んでいる。

アリババは2017年、国家4大AIプロジェクト「城市大脳」を委託された。公共インフラをすべて数値化することで、公共資源運用のレベルアップを目指す。本社所在地の杭州市と蘇州市をモデル都市としている。

テンセントは2018年の2月、江蘇省政府と“智慧江蘇”建設プロジェクトに署名した。行政、工業、企業、金融のクラウドサービス、公安警備のビッグデータ、工業ビッグデータプラットフォームなどを構築する。

これはアリババが西安市と結んだスマートシティ建設計画を、もう一歩進めたものだという。江蘇省の人口は8029万人、ドイツ(8284万人)とほとんどかわらない。一人当たりGDPは、中国のトップクラスである。一国のシステムを掌握するに等しい。

IT企業として成長したピンアンとファーウエイ

ピンアンは、保険会社から出発し、銀行、投資信託を含む総合金融グループに成長した。金融と医療健康産業が2本柱である。

董事長兼CEOの馬明哲は次のように述べている。「ピンアンには、長年にわたる金融と医療のデータがある。人工智能、ブロックチェーン、クラウドコンピューティング等の最先端技術もある。そしてスマートシティのプラットフォームを完成させた。行政、安全防災、交通、教育、医療、養老、環境保全などの部門で、全国100都市、また一帯一路沿いの国と地域でも推進している」。ほとんどIT企業と遜色ない体制を整えている。

特に深セン市との関係は深い。両者は共同で疾病予防センターを設立した。ピンアンの持つ健康医療ビッグデータを利用し、先進的なAI医療システムを構築する。そして、慢性病、多発病、伝染病に対する、防疫モデルの建設を目指すという。

これらのシステムを陰で支えるのは、ハードメーカーの巨頭・ファーウエイだ。同社は通信設備の製造、販売会社としてスタートした。今ではスマホの方が有名だろう。何しろ2018年第2四半期のスマホシェアは世界2位である。そして業務範囲は、5G、AI、IoT、クラウドコンピューティング、ビッグデータなどの運用にまで広がり、やはりIT企業と変わらない。目標はスマートシティの“神経系統”を担うことである。

PATHの激戦

PATHのうち、アリババ(杭州市)を除く3社は、深センに本社を置く。深セン市のIT産業規模は、2兆5000億元に達し、全国の7分の1、付加価値では3分の1を占める。高い国際的競争力を備えた企業が多い。中国のシリコンバレーと呼ばれる所以である。今後もスマートシティ建設基地としての役割を担っていくだろう。

博覧会に出席した国家発展改革委員会(経済政策の司令塔)の副主任は、「新技術を投入して都市計画と建設、管理とサービスのスマート化を推進する。その結果、都市行政は精緻化され、企業活力のアップと人民生活の向上の両方に寄与することができる」と述べた。

保険、IT、メーカーと出自の違うPATHの4社だが、スマートシティ建設では、同じような体制を整え、激しい陣取り合戦を行っていた。深セン企業の持つ、北京にはない自由な発想は、アドバンテージだろう。

4はスマートシティをめぐる激しい競争を通じ、さらに進化していくに違いない。

文・高野悠介(中国貿易コンサルタント)/ZUU online

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