営業のエキスパートが教える「ものを売る」テクニックとは

2018.11.29
BUSINESS
(写真=JR-stock/Shutterstock.com)
(写真=JR-stock/Shutterstock.com)
(本記事は、北澤孝太郎氏の著書『まんがでわかる 営業部はバカなのか』=ゴマブックス、2018年11月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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(4)営業マンの「好印象」が商品を売る決定打?——『まんがでわかる営業部はバカなのか』より

贅沢品と必要品のメカニズム

顧客価値を制するといっても、贅沢品と必要品とでは顧客側の心理はまったく異なるため、この贅沢品と必要品のメカニズムを理解する必要があります。

みなさんは、商品を買うとき、どのようにして選択していますか。人が商品を買うときの心理的プロセスは、おおむね次のように分かれると考えています。

⑴贅沢品 = 直感的浮揚−心理的割引分
⑵必要品 = 比較検討 + 自己記憶

贅沢品は、直感的浮揚が心理的割引分を上回ったときに売れます。また、必要品は、「購入する」という前提があり、そのうえで、比較検討と自己記憶を加点・減点して、総合点が最も高かったものが売れます。

贅沢品が売れるとき

「直感的浮揚」は、例えるなら、ある人に突然出会って、恋に落ちたときの感覚に似ています。その人にビビビッときて、一緒に過ごすことを想像し、いいシーンばかりが思い描かれます。

しかし、しばらくして少し落ち着いてくると、今度は冷静な分析が始まります。これが「心理的割引」です。恋人はいるのか、仕事は何をしているのか、共通点や同じ趣味はあるだろうか……。

自分と環境や嗜好があまりにも違うことがわかれば、 ⑴の「心理的割引分」によって、告白する前に撤退することになるでしょう。よく調べてみたら実は30歳も年上だった!なんてことが判明すれば、あっという間に「直感的浮揚」を「心理的割引」が上回るかもしれません。

贅沢品を売るコツは、「心理的割引」を上回る「直感的浮揚」と、そのための道筋をどのように作るか、ということだといわれています。

売る側がそれらを作ることができれば、「贅沢品の売れる瞬間」を生み出せることが可能なのです。

必要品が売れるとき

一方、必要品は違う心理的プロセスを経て売れます。人は、ある一定の期間内に意思決定をしないといけない状況になると、大概「比較検討+自己記憶」というメカニズムで物事を決めます。加点・減点した結果、買う商品が決まった瞬間が「必要品の売れる瞬間」です。

料金や形態などの基本的な比較検討材料があるうえで、いかに消費者の記憶に「買って良かった」という好印象を残せるか、その人の関心事に関連付けた要素を入れて購買時に思い出してもらうかが勝負になります。原料や産地などが消費者の関心事と関連付けられるものであれば、これも大きな加点要素となるでしょう。

贅沢品はストーリーで話せ

贅沢品を売るにあたっては、エッジの加減とそこに至る道筋、ストーリーを作ることが重要となります。例えば、理想のタイプは? と尋ねた場合、「背が高い」「優しい」「経済的に恵まれている」「一緒にいて楽しい」等の条件を列挙されても、あまり具体的な像が浮かばず、ピンとこないかと思います。

これが、次のような答えだったらどうでしょうか。

「この前、電車に乗っていたら、混んできたから荷物を網棚に乗せようとしたんだけど、網棚が高くて困っていたら、隣に立っていた背の高い男性がヒョイと荷物を乗せてくれたのね。しかもニコッて笑って。笑顔が可愛くて、かっこよかったの。30歳くらいのビジネスマンふうで、○○商事って封筒を持っていたのね。その人に『どこへ行くんですか』って声かけられちゃって、横浜ですって答えたら、僕も同じですっていうの。私の家の近所に彼の親戚がいて、よく行くんですって。おまけに、偶然にも私と同じ丸の内で働いているってことがわかって、『今度ランチに行きましょう』って誘われちゃったわ」

と、嬉しそうに話されれば、この女性の理想の男性がどんな人か、理解できそうな気がしませんか。これがストーリーです。

高級車や高級住宅など、相手にビビビッとこさせないといけない商品やサービスを扱う場合、相手が共感してくれるストーリーをどれだけもっているか、商品の売りである要素をつなぎ合わせて話ができるかが大事なポイントになります。 

当たり前のことですが、このストーリーは嘘であってはいけません。真実のストーリーを作るためには、商品や自社についての知識が不可欠です。さらに、製造、企画、物流、宣伝など、いろいろな分野の社員と情報を共有し、思いやいきさつも語ることができれば顧客の数は飛躍的に増えていくでしょう。

また、“売り”は新奇さである必要はありません。ブランドを守り、それを維持していくために、安易に流されないという強い姿勢も、ストーリーで伝えれば必ず共感を得られるはずです。

広告や宣伝にあまりお金をかけられる状態でなく、顧客との接点はセールスによるところが大きいという状況の企業こそ、ありとあらゆる情報からストーリーを創り出し、語れるようにするべきでしょう。

営業マン自身が共感でき、その気持ちが顧客に伝わるよう、情報を整理して加工し、それぞれがストーリーを語れるまでまとめることが大切です。

必要品は抽象度を自在に操れ

必要品を売る際には、「抽象の梯子を渡らせる」という技術が有効になります。抽象度を一つ上げて、渡らせ、違うものを買わせるテクニックが「抽象の梯子を渡らせる」技術とされています。

必要品を売る場合、この抽象の梯子を渡らせる技術、つまり、そのものの抽象度を上げると何になるか、またもう一つ具体的な用途に落とすと何になるかを考える分析眼が必要になります。この分析眼や顧客価値を際立たせるストーリー作りは、これまで主として製造部が担ってきましたが、最近は、商品企画部やマーケティング部も担うようになってきました。

しかし、必要な情報が一番集まるのは、顧客と対面してセールスを行う営業部です。残念ながら、これらの部門を活かしきれていない企業が多く、おまけに営業部にはマーケティング能力がないとばかりに、マーケティングの知識は教えず、セールス特訓や販売訓練に明け暮れるケースがほとんどです。その結果、営業部は、市場の変化に対応しきれていない顧客価値で勝負せざるを得なくなります。

そのまま無理な勝負を強制し続けると、商品を押し込んだり、接待などの人間関係で強引に売ったりする能力ばかりが強化され、顧客と競合の微妙な変化を感じ取る能力がどんどん奪われていきます。つまり、商品やサービスのために、「心にしみるストーリー」を考えられなくなり、「抽象の梯子を渡らせる」という思考をしない癖がどんどん増長されていくのです。

どんな顧客にも、用意された同じストーリーで語ってしまう発想に陥ると、相手の欲しいものが見えなくなります。リンゴを欲しがる相手の真意を捉えずに、強引にアップルパイを渡してしまうようなものです。これでは「口を爽やかにしたい」という本来の欲求に応えたことにはなりません。そして顧客側も、「この人が言うことは、結局自分の商品を売りたいだけだ。全然顧客のことを考えてない」という印象を持つようになってしまいます。

このような事態を避けるためには、営業の現場から乖離した顧客価値を創ることを止めて、営業の声に耳を傾ける必要があります。とはいえ、その「声」を集めるには、それなりの訓練が営業側にも聞く側にも求められます。

闇雲に「現場の声」だけを聞いたとしても、ろくな商品はできあがらないという点は注意しておくべきでしょう。

 
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北澤孝太郎
東京工業大学大学院 特任教授(MBA科目 営業戦略 組織担当)。レジェンダコーポレーション 取締役。1962年京都市生まれ。1985年神戸大学経営学部卒業後、株式会社リクルート入社。20年に渡り、通信、採用・教育、大学やスクール広報などの分野で常に営業の最前線で活躍。採用・教育事業の大手営業責任者、大学やスクール広報事業の中部関西地区責任者を担当後、2005年日本テレコム(現ソフトバンク)の執行役員法人営業本部長に転身し、音声事業本部長などを歴任。その後、モバイルコンビニ株式会社社長、丸善株式会社執行役員、フライシュマン・ヒラード・ジャパン バイスプレジデントなどを経て、現職。営業リーダー(組織長や部長、役員)教育の第一人者として、数多くの研修や講演の経験を持つ。現在、東京工業大学大学院 環境・社会理工学院の特任教授として、大学・大学院で日本初であり、現在も唯一の営業の授業を担当している。著作に、『営業部はバカなのか』(新潮新書)、『優れた営業リーダーの教科書』(東洋経済新報社)、『人材が育つ営業現場の共通点』(PHP研究所)、『営業力100本ノック』(日本経済新聞出版社)などベストセラー作品が多数ある。
 

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