(本記事は、北澤孝太郎氏の著書『まんがでわかる 営業部はバカなのか』=ゴマブックス、2018年11月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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顧客価値創造力とは

最後の顧客価値創造力もまた全社員が総力で作り上げるべき力です。営業マンや営業部をアンテナとして活用する。もしくはできる営業マンや営業部ならば、そこがリーダーシップをとって、会社全体として顧客価値を創っていくことも可能です。顧客価値の創造こそが、会社が取り組むべきもっとも大きな課題といっても過言ではないでしょう。

製造部や商品企画部、マーケティング部が、営業部、セールス部と一緒になって、顧客価値の創造に向き合い、その時々で競合に比べて選ばれる理由を創り上げていく。その作業こそが、営業部、セールス部をセールスだけの行為から解放し、顧客にちゃんと向き合える状況を創ります。

企業の努力が、それを代表するセールスに結実したときこそ、顧客から、もっとも信頼され、商品やサービスがスムーズに流れる状態をつくることができるのです。

顧客は目の前以外にもいる

営業マンが顧客価値創造力を培うには、顧客との密接なコミュニケーションが必要になります。ただし、ここでいう顧客とは、対面している担当者やその担当ラインのことだけではありません。

BtoBにおいては、顧客企業の先にいる、その企業が顧客と対面している現場、またそこに提供している商品やサービスを作り出している製造部や商品企画部、マーケティング部に多くのヒントが転がっています。その顧客の競合企業にも同じくヒントが隠されています。

BtoCにおいては、顧客がその商品、サービスを実際に利用する場所、また利用するシーンに転がっているでしょう。

これらの状況を丁寧に見て、コミュニケーションを取り、自分なりの感覚を研ぎ澄ませていきます。そして、それらの感覚を社内の製造部門や商品企画、マーケティング部門に伝え、顧客価値を磨いていくのです。

営業マンは、それが自らの役割であるということをしっかり肝に銘じるべきです。なぜならば、顧客価値が磨かれた状態があってこそ、営業の仕事はもっともスムーズに進むものだからです。

貸し借りは人間関係を構築する

人間関係構築の基本は、まずこちらが努力することで相手に貸しを作ったり、こちらの自信を伝えたりすることによって作られます。さらに、相手が困っていることに救いの手を差し伸べ、感動させるところまでいけば、必ず相手は心を開いてくれます。そのうえで、こちらの努力に応じて少しずつ借りを返して頂くうちに、また貸しを作る。特に、ビジネスにおける人間関係は、そんなふうにして、心の貸し借りとともに、深くなっていきます。

ここで勘違いしてはいけないのが、こちらの努力なくして貸しを作ったり、自信だけを伝えたりすること。人間関係にはマイナスに働きます。時には造作もなく貸しを作れるというケースもあるでしょうが、そういう時に、いかにも努力したような態度をしてはいけません。その人と、またその会社と信頼関係を創ろうとするならば、まずこちらから努力をするのが基本です。そのうえで、今度は、その努力に見合う分だけ、少しずつ返してもらうことも忘れてはなりません。

貢献するほど愛情が深まる

なぜ返してもらう必要があるのか。人というのは、人に何かをしてあげなければという感情が沸いたとき、それを実現すればするほど、その相手のことをさらに好きになっていくからです。不思議なもので、相手に貢献しているという感情があればあるほど、好きという感情は深まるものなのです。

企業間でも同じです。まず、その企業と付き合いたいと思ったら、全力をあげてその企業のために努力するべきです。そのために使えるものは、営業部外の社員はもちろん、その身内、知人なども使うべきです。

こうしたプロセスにおいて、営業マンは、アンテナを立てて努力すべきネタ、情報を運んでくる存在というくらいに思っていてもいいのです。営業マンは、担当者に対して貸しを作ったり、自信を伝えることはできますが、その企業全体に対して貸しを作ったり、自信を伝えたりすることは、個人の力量を超えています。そんな大事なことを営業部だけに押し付けるのでは、企業としての姿勢が疑われますし、交渉において
は迫力を欠きます。

好印象頻度とは

営業力は、個別顧客対応力と新規顧客開拓力と顧客価値創造力の和に、「好印象頻度」をかけたものだと規定しました。好印象頻度とは私の造語ですが、つまりは好感を持ってもらえる頻度のことです。

この好印象頻度は、そんなに影響があるものでしょうか。

実は、営業力にはこの好印象頻度こそがもっとも影響するというのが私の見解です。人が商品やサービスを買う、受け入れるという決断をする際の決定打は好印象頻度なのです。人はどれだけ機能的に優れたもの、便利なものであっても、好印象を持っていなければ購入しません。たとえどんなに高機能で優れた商品だとしても、それを作っている企業が何か不正を働いていたり、人道的に問題のある商売をしていたりすることが判明すれば、その瞬間、多くの人が買い控えるでしょう。

不祥事のせいで極端に安く市場に流れたとしたら、ひょっとして買う人もでるかもしれません。でも、「格安」というある種の好印象が形成されたからこそ買うわけです。やはり、好印象かどうかが決め手であることには変わりないのです。

ですから、この好印象をいかに頻度よく作りだすか、また悪印象にならないようにするかが、企業にとってとても大事なポイントになります。特に、情報が世界を駆け巡る時代となって、ちょっとしたことで足を掬われかねない状況がある今、自社やその商品やサービスの印象が悪ければ、致命的な結果を招くことにもつながっていきます。

好印象度獲得に奇策はない!

では、その好印象頻度は、どのようにして獲得していくのでしょう。

営業部員個人のレベルでいえば、奇策は存在せず、王道しかありません。「明るい笑顔」「一生懸命さ」「一貫した謙虚な姿勢」に尽きます。何だ、当たり前じゃないか、と思われるでしょうか。しかし、相手がよほどの変人でない限り、こうした態度に人は好感を持つものです。明るい笑顔に表れる前向きな姿勢、一生懸命というケレンみのない態度、一貫した謙虚さから伝わってくる自分(顧客)のことを第一に考えてくれている姿勢には誰もが好印象を持ちます。それらが、ブレなく営業部全体の考え方として表れ、それぞれの顧客に組織のメッセージとして繰り返し伝わるとき、必ずその企業は顧客に与える好印象の頻度を上げることができるのです。

ただ、「明るい笑顔」「一生懸命さ」「一貫した謙虚な姿勢」は、取り繕ったものでは長続きしません。すぐにメッキははがれます。これは、企業が長い時間をかけて、創りあげていくものだと理解してください。

また、注意していただきたいのは、「好印象」ではなく「好印象頻度」が重要だという点です。つまり、好印象は、一朝一夕に力となるものではなく、積み重ねてようやく大きな力となるものなのです。企業が教育し、その精神が行動となって表れ続けたときに、大きな力となっていきます。

さらに、営業部は好印象の頻度をつくりだすコミュニケーションの主体になったうえで、企業の個別顧客対応、新規顧客開拓、顧客価値創造の起点として機能することが望まれます。顧客に対して行われる営業活動を、自分だけのもの、部だけのものとするのではなく、企業活動全体のものとして捉え、製造部や商品企画部、マーケティング部、ひいては、物流部や管理部まで巻き込んで、その企業の最大のパフォーマンスが顧客に集中するようコンダクターとしての役割を果たすことが重要です。

 

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北澤孝太郎
東京工業大学大学院 特任教授(MBA科目 営業戦略 組織担当)。レジェンダコーポレーション 取締役。1962年京都市生まれ。1985年神戸大学経営学部卒業後、株式会社リクルート入社。20年に渡り、通信、採用・教育、大学やスクール広報などの分野で常に営業の最前線で活躍。採用・教育事業の大手営業責任者、大学やスクール広報事業の中部関西地区責任者を担当後、2005年日本テレコム(現ソフトバンク)の執行役員法人営業本部長に転身し、音声事業本部長などを歴任。その後、モバイルコンビニ株式会社社長、丸善株式会社執行役員、フライシュマン・ヒラード・ジャパン バイスプレジデントなどを経て、現職。営業リーダー(組織長や部長、役員)教育の第一人者として、数多くの研修や講演の経験を持つ。現在、東京工業大学大学院 環境・社会理工学院の特任教授として、大学・大学院で日本初であり、現在も唯一の営業の授業を担当している。著作に、『営業部はバカなのか』(新潮新書)、『優れた営業リーダーの教科書』(東洋経済新報社)、『人材が育つ営業現場の共通点』(PHP研究所)、『営業力100本ノック』(日本経済新聞出版社)などベストセラー作品が多数ある。

 

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