2019年6月、金融庁が「老後の生活のためには1,300万円~2,000万円確保する必要がある」といった内容の報告書を公表し、話題となりました。
この試算金額が妥当かどうかは暮らしぶりにもよりますが、年金制度に陰りが見える今日において、老後の生活により不安を抱かせるような報告内容です。事実、年金支給額は減額されて続けており、老後の生活資金不足が懸念されているので、金銭的な不安を払拭するためにも、若いうちから老後のためのお金を準備しておく必要があるといえます。
この記事では、そのような老後の不安の正体である「将来に必要なお金」にフォーカスを当て、若いうちから知っておくべき現状や対策方法を解説していきます。
老後の不安の正体はお金
まずは、冒頭で述べた「老後の不安の正体はお金である」ということについて、具体的に解説しましょう。
- 将来経済的な不安を感じている人が多い
- 年金はいくらもらえるのか?
- 老後に足りないお金はいくらか?
- ゆとりある生活にはいくら必要か?
将来経済的な不安を感じている人が多い
公益財団法人 生命文化保健センターの「令和元年度 生活保障に関する調査」によると、老後の生活に対する不安があると回答した人は84.4%にのぼりました。その内訳は以下の通りです。
1位:公的年金だけでは不十分(82.8%)
2位:日常生活に支障が出る(57.4%)
3位:退職金や企業年金だけでは不十分(38.8%)
4位:自助努力による準備不足(38.5%)
5位:仕事が確保できない(31.6%)
6位:配偶者に先立たれて経済的に苦しくなる(21.9%)
いずれも経済的に困窮すると考えているという内容で、特に老後の生活において必要となる「資金(お金)」が不足すると考えている方が多く見られます。このことから、「老後の不安材料=お金」と言っても過言ではないでしょう。
年金はいくらもらえるのか?
そもそも、老後において、年金はいくらもらえるのか?ということが気になるのではないでしょうか。
年金受給額は人によって大きく異なります。
自営業者の場合、原則「国民年金の老齢基礎年金」しかもらえません。2019年4月現在においての老齢基礎年金の支給金額は、満額で年間780,100円です。
一方、会社員経験のある方は、この国民年金とは別に収入額に応じた厚生年金を納めています。そのため、厚生年金を納めた期間や金額に応じて、老齢基礎年金に老齢厚生年金を上乗せした金額が支給されます。
厚生労働省の「平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」よると、2018年度の老齢厚生年金の平均支給額は年額1,750,380円です。なお、この老齢厚生年金支給額には老齢基礎年金が含まれています。
なお、老齢厚生年金支給額は厚生年金を納めた期間や金額によって変動が大きいことから、あくまで平均であり参考値です。また、特に国民年金の老齢基礎年金について、年金支給額は定期的に見直しが入ります。あくまで現在の金額であり、年々支給額が減少している状況を考えると、若い人が実際に年金を受給する時期にはもっと少ない金額が支給されるのではと考えられています。
老後に足りないお金はいくらか?
この状態を踏まえた上で、老後に足りないお金はいくらなのか?という点について解説します。もっとも、人によって住む場所も生活水準も異なるので、老後の必要資金がいくら必要なのかは、一概にはいえません。
公益財団法人 生命保険文化センターの「令和元年度 生活保障に関する調査」によると、老後に夫婦2人が日常生活を送れると考える最低限の費用は、月額で平均22.1万円(年間265.2万円)でした。
「夫婦2人で老後生活を送る」という前提のため、共働きの場合年額約175万×2=350万円となり、一見十分な金額に思えます。しかし、妻が子育て期間など厚生年金を納めていない期間があると考えると、平均金額ギリギリの支給額しか受け取れない可能性が高くなります。
さらに、夫婦ともども自営業者であるならば、この「最低限の生活」は年金だけでは全く足りません。年金を受け取りつつ、自営業を継続しなければ最低限の生活もままならないのです。
ゆとりある生活にはいくら必要か?
さらに、「ゆとりある老後生活にするため」に必要とされる金額は、上述と同じ調査において平均36.1万円(年間433.2万円)という結果が出ております。この「ゆとり」とは「旅行」「レジャー」「趣味」「学びごと」のほか、「身内や友人とのお付き合い」に必要な金額が含まれています。
今仕事を頑張っている方々の中に、老後は旅行や趣味を楽しもうと考えている方も多いかと思います。しかし、夫婦二人のゆとりある老後生活を送れるだけの生活費が、年金だけでまかなえるとは考え辛い状況のようです。夫婦ともに厚生年金だったとしても難しいところですが、これが自営業者で国民年金しかもらえないとなると、年金だけでゆとりある老後生活など到底無理であるということがよくわかります。
資産寿命を延ばすことが必要
以上のことから、老後の不安の正体はお金であり、そもそも不安に思うのも無理はない状況であることがご理解いただけたのではないでしょうか。
冒頭で申し上げたように、金融庁から提出された報告書にて、老後資金は1,300万円~2,000万円不足すると話題になるのも無理はありません。
日本人の平均寿命は80歳を超えています。退職後の老後生活は20年以上続きます。さらに、前項で解説したとおり「年金受給額-老後の必要資金」と考えれば、夫婦二人がともに亡くなるまでにこの程度の不足金額が出てもおかしくはありません。特に、自営業者ならばこの金額は現実味を帯びており、むしろ不足額はもっと多くなる可能性もあるのです。
現状はこのような状況です。年金生活があてにならないのならば、その他の方法で資産寿命を延ばす必要があります。
資産寿命とは何か?
資産寿命とは、簡単にいうと「資産が枯渇するまでの年数」です。今や、日本人の平均寿命は男性が約 81歳、女性が約87 歳となりました。この年齢よりももっと長生きする人も大勢います。人生100年時代に突入している今、預貯金などを視野に入れた資産形成をしなければ、老後の生活は送れません。
さらに、健康寿命(健康上、問題なく生活できる期間)は男性72歳、女性75歳とされています。「死ぬまで現役で働き続ければよい」という考えもありますが、平均寿命まで働き続けるのは難しいのが実情です。
そして、前項で解説したように、年金受給額だけでは生活が厳しい人が大多数であると予想されます。今までのように「資産がなくても年金で暮らしていける」時代ではありません。資産を形成した上で、さらに資産寿命を延ばして枯渇させないような取り組みが重要となります。
インフレが続くとさらにお金が必要
ここまでは、今の物価がそのまま何十年も続くという前提で述べました。しかし、現実にはこの物価水準がずっと続くわけではありません。物価高騰、ひいてはインフレ化が予想されるのです。
インフレとは「物価が継続的に上がる状態が続くこと」を指し、デフレとは「物価が継続的に下がる状態が続くこと」を指します。
デフレは物を安く買うことができるため、一見お得に感じられます。しかし、物の価値が下がれば売り上げが減り、結果として労働者の賃金も上がらないという悪循環を招いています。
それを問題視した日本銀行は、2013年1月に「物価安定の目標」として「消費者物価の前年比上昇率2%」と定めました。これによりデフレ状態の脱却を目指しているのですが、これは「年金だけで生活する」というシステムと非常に相性が悪いのです。
なぜかというと、年金はモノではなくお金で支給されるからです。インフレ化で年金支給額が増えればなんの問題もありませんが、今すぐに年金の運用資金が増えることはないので、インフレ化しても年金額の増加はすぐには追従できません。
そうなると、下げ止まりした年金額のまま、高騰した物価の社会で生活することになります。たとえば、今では100万円で購入できる車が、10年後にインフレにより120万円になったとします。今と10年後で支給される年金額が同じ100万円だったとすると、今は買えても、10年後は買えなくなってしまうのです。もっというと、今100万円支給されたお金をそのまま貯金して10年後に車を買おうと考えます。インフレ化が進むと、同じものであるはずの車が120万円になっていて手持ちのお金では買えなくなるという現象が起きるのです。これはつまり、「今持っている100万円の価値が、10年後に目減りした」ということになります。
つまり、将来インフレ化が進み、年金額がそれほど増えないとなると、現在1,300万円~2,000万円といわれている老後のために必要なお金はもっと増えるというわけです。