黒坂岳央(くろさか たけを)です。
これまで当たり前だと思っていたことが、ある日を境に幻のように消え去ってしまう。そんな感覚を覚えたのが、ファーストフード店の「ポテト販売休止」である。昨年末、マクドナルドはポテトのMとLサイズの販売休止を発表、食べ納めに大勢の人が行列を作る様子が報じられた。その少し前はケンタッキーでも一時販売休止を発表していたし、先日は新たにびっくりドンキーで同じ措置を取ったと報道された。

なぜ、今日本中で次々とフライドポテトが消えていったのか?そしてこれから日本で不足するものとは?
物流の混乱によるポテト不足
ポテト不足の原因は、コロナ禍に端を発する物流の混乱である。BBCニュースでも日本マクドナルドにおけるポテト不足をMcDonald’s faces a French fries shortage in Japanという記事に取り上げ、その原因を次のように報じている。
However, ships have faced delays due to flood damage and the impact of the pandemic on the global supply chain.
(しかし、洪水被害やパンデミックによる世界のサプライチェーンへの影響から、船舶の遅延が発生しています。)
また、同紙ではポテト不足は今回に限った話ではないと取り上げており、2014年、アメリカ西海岸の29港で労働問題が長期化した問題を報じ、その際は空輸で対応したという。日本のファーストフードでのポテト不足は、決して歴史上初めてのことではないのだ。
その一方で、フレッシュネスバーガーは国産のポテトを使っており、供給に問題はないと発表している。「それなら、マクドナルドも国産にスイッチすればよいのでは?」という意見がありそうだが、北米と北海道ではじゃがいもの品種の違いもあり、全国にある数千店舗もの現場におけるオペレーションに影響が出るだろう。さらに農家との契約問題も出てくる。供給元の変更は、電気のスイッチを切り替えるように簡単にはいかないのだ。
コロナがもたらした終わらない物不足
今回のポテト不足でわかったこと、それは我々は網の目のように張り巡らされたグローバルサプライチェーンにあまりにも強く日常生活を依存しているという、コロナ前まで見えづらかった事実である。これは物流がひとたび躓けば、ダイレクトに私生活へ支障をきたすという「グローバルの脆さ」である。
コロナ禍によってもたらされた不足は、マスク・消毒液・半導体だけではなく、ここへ来てポテトもそれに加わった。米国では労働者不足も深刻だし、日本でも今後は様々な不足が顕在化するだろう。
過去にも様々な物流問題はあったものの、「待っていれば、時の経過でそのうち自然解決するだろう」と気楽さも少なからずあったと思える。
たとえば2011年10月にはタイで発生した大洪水では、ハードディスクの生産工場が被災したことで、一時期ハードディスクの価格が大きく高騰した。当時、世界のハードディスクの4分の1がタイで生産されており、米国のウェスタンデジタル社やシーゲイト・テクノロジー社の巨大工場もタイにあったからだ。筆者も当時、ハードディスクの高騰をリアルタイムで体感しており「価格が落ち着くまで買い控えよう」と考えたことを覚えている。その後、2.5インチタイプを除いて年明けには高騰も緩和し、安定的な供給が再スタートした。
タイの洪水の被災は局地的な問題であり、供給の回復は時間が解決してくれることが明らかである(それでも被災する側はとてつもなく大変な思いをするわけだが…)。
だが、コロナについていえば、まるで終わりが見えないトンネルの中にいる心持ちの人も少なくないはずだ。いかなるパンデミックにおいても、人類は打ち勝ってきた。その点においては「時が解決する問題」というのは同じなのだが、問題はその「時間の程度」が分からない。
パンデミックがいつ収束してグローバルサプライチェーンが元通りになるか?今のところはその公算にハッキリとした答えを出せる人物などいないのである。