戦後のファッション業界を彩ってきた老舗アパレルメーカーや、主流となっているSPA、近年シェアを伸ばしている衣料品の専門サイト運営会社など、さまざまな業態や規模のアパレル関連会社を対象に、売上高や時価総額、従業員数などのランキングを紹介する。

目次

  1. 1,「売上高」ランキングTOP10……国内ダントツNo.1の売上はファーストリテイリング
  2. 2,「経常利益」ランキングTOP10……通常の事業から効率的に利益を出しているのは?
  3. 3,「総資産」ランキングTOP10……資産規模が大きなアパレル会社には老舗アパレルメーカーも
  4. 4,「時価総額」ランキングTOP10……市場規模の大きなアパレル企業は?
  5. 5,「店舗数」ランキングTOP10……来店客による商品購入窓口、店舗展開戦略の見直しも
  6. 6,「従業員数」ランキングTOP10……事業規模に相応する人員配置ができているかを確認
  7. 7,「平均年収」ランキングTOP10……就活、転職の際の参考指標
  8. 8,コロナ禍の影響が深刻なアパレル業界、独自戦略で好調な会社も

1,「売上高」ランキングTOP10……国内ダントツNo.1の売上はファーストリテイリング

売上高は、企業が消費者に販売した商品やサービスの金額を表す指標だ。同じ業界に属する企業同士を、売上高という同じ尺度で比較すれば、業界におけるシェアを簡単に可視化することができる。

売上高ランキングでは、OEMなどで衣料品を製造・販売するアパレルメーカー、自社ブランド商品の企画から販売までを手掛けるSPA、衣料品を主力商品とする通販会社、衣料品専門のインターネット通販サイト運営会社など、幅広い業態のアパレル関連上場企業を対象にした。

各社の有価証券報告書や決算短信などで開示されている直近決算期の売上高を引用し、ランキング形式で紹介する。

参考までに、売上高については、上位10社に加えて第11位~第20位のランキングも記載する。また、上位20社の売上高合計額を100%とした場合の、アパレル業界の市場シェアについても併記するので参考にしてほしい。

「売上高」ランキングTOP20(各社の直近決算期の実績)

順位 会社名
<証券コード>
売上高 市場シェア
1 ファーストリテイリング
<9983> ※1
2兆88億4,600万円 42.1%
2 しまむら
<8227>
5,426億800万円 11.4%
3 ベルーナ
<9997>
2,064億9,900万円 4.3%
4 アダストリア
<2685> 
1,838億7,000万円 3.9%
5 ワールド
<3612> ※1
1,803億2,200万円 3.8%
6 オンワードホールディングス
<8016>
1,743億2,300万円 3.7%
7 青山商事
<8219>
1,614億400万円 3.4%
8 西松屋チェーン
<7545>
1,594億1,800万円 3.3%
9 ワコールホールディングス
<3591>
1,522億400万円 3.2%
10 ZOZO<3092> 1,474億200万円 3.1%
上位10社の売上高合計額 3兆9,168億9,600万円 82.1%
11 AOKIホールディングス
<8214>
1,431億6,900万円 3.0%
12 TSIホールディングス
<3608>
1,340億7,800万円 2.8%
13 ユナイテッドアローズ
<7606>
1,217億1,200万円 2.5%
14 パルグループホールディングス
<2726>
1,085億2,200万円 2.3%
15 ワークマン
<7564> ※1
1,058億1,500万円 2.2%
16 クロスプラス
<3320> 
640億200万円 1.3%
17 バロックジャパンリミテッド
<3548>
505億9,000万円 1.1%
18 コナカ
<7494>
478億4,200万円 1.0%
19 ハニーズホールディングス
<2792> 
425億6,020万円 0.9%
20 はるやまホールディングス
<7416>
385億2,900万円 0.8%
上位20社の売上高合計額 4兆7,737億1,500万円 100.0%
※1,ファーストリテイリングとワールドについては、売上高に代わって営業(売上)収益の数値を、ワークマンは営業総収入の数値を引用した

上位20社の直近決算期

会社名 決算期
ハニーズHD 2019年6月1日~
2020年5月31日
ファーストリテイリング 2019年9月1日~
2020年8月31日
コナカ 2019年10月1日~
2020年9月30日
ワールド 2020年1月1日~
2020年12月31日
クロスプラス 2020年2月1日~
2021年1月31日
しまむら 2020年2月21日~
2021年2月20日
アダストリア、オンワードHD
西松屋チェーン、TSI HD
パルグループHD
バロックジャパンリミテッド
2020年3月1日~
2021年2月28日
ベルーナ、青山商事、ZOZO
ワコールHD、AOKI HD
ワークマン、はるやまHD
ユナイテッドアローズ
2020年4月1日~
2021年3月31日

アパレル業界では、売上高第1位のファーストリテイリングと第2位のしまむらだけで、対象20社による売上高市場シェアの53.5%を占めており、残りの46.5%のシェアを、売上規模に大差のない18社が持ち合っている。

売上高から見ると、アパレル業界はファーストリテイリングとしまむらの2強体制、厳密にはファーストリテイリング1強という構図になっている。

第1位,ファーストリテイリング<9983>:アパレル業界の独立峰、代表的なSPA企業

ファーストリテイリングは言わずと知れた「ユニクロ」や「GU」の持株会社である。

2020年8月期決算では、コロナ禍の影響を受けて対前期比12.3%減ながら、2兆88億円の売上収益を計上し、同業他社との体力の違いを見せつける結果となった。

アパレル業界で、売上高(売上収益)が1兆円を超えているのは、ファーストリテイリングの1社だけである。比較的規模が小さく、景気低迷の影響を受けやすいアパレル業界の中でも別格の存在感だ。

小売業界全体に範囲を広げても、イオン<8267>やセブン&アイHD<3382>といった大手流通企業やヤマダHD<9831>をはじめとする大手家電量販店と肩を並べる売上規模を誇る。

ファーストリテイリングの圧倒的な売上規模を支えているのがSPA(製造小売業)だ。消費者ニーズを反映した自社ブランド商品を自社で企画・開発し、海外の現地業者に製造を委託して、小売り戦略を駆使して自社で販売を担っている。

国内アパレル業界に、90年代に登場したSPAの仕組みを巧みに取り入れて、会社を飛躍的に発展させた企業としても有名である。

第2位,しまむら<8227>:ローコストオペレーションによる店舗の全国展開と運営

創業は1953年であるが、時代のニーズにあわせて、低価格から高品質、トレンド性、ブランド力に商品戦略をシフトさせながら、売上げを伸ばしてきた。

アパレル業界第2位の売上実績を支えてきたのは、しまむらの徹底したローコストオペレーションである。出店から仕入れ、物流、販売に至るプロセス全般で、コストを抑えるための独自の仕組み「4S」(標準化、単純化、専門化、仕組化)をマニュアル化し、ローコストオペレーション店舗を全国にチェーン展開している。

創業地である埼玉県の郊外住宅地への出店から、全国の郊外ロードサイド、商業施設、しまむらグループの合同店舗運営型ファッションモール、2020年からは直営オンラインストアも開設し、来店客の利便性を追求した柔軟な出店戦略も、高い収益力につながっている。

第3位,ベルーナ<9997>:衣料品カタログ通販最大手、EC販売比率の拡大と実店舗運営も

ベルーナは、衣料品のカタログ通販を主力とする「通信販売総合商社」である。

主力の総合通販事業の代表格は、ミセス向けの「BELLUNA」や若年層向けの「RyuRyu」といった衣料品主体のカタログである。総合通販事業では、衣料品に加えて、インテリアや生活雑貨も販売しているのが特徴だ。

食品、化粧品、サプリメントなど、特定分野の商品に特化した通販や、近年では看護師向けやベビーギフト通販事業、インターネット通販事業の強化、ミセス向けカジュアルファッション衣料の実店舗展開など、販路の拡大にも積極的だ。

顧客層の中心はミセス層(40代以上の女性)。約40年間の通販事業で蓄積された顧客データベースを背景に、ニーズに合致した商品提案を行うことで、ターゲット層から高い支持を獲得している。

コロナ禍に強い通販事業を武器に、アパレルにとどまらない広範な事業展開で、売上げを堅調に伸ばしており、アパレル業界、小売業界において、安定した存在感を示している。

2,「経常利益」ランキングTOP10……通常の事業から効率的に利益を出しているのは?

売上高から売上原価と一般管理費とおよび販売費を差し引いたものが「営業利益」である。営業利益に、本業以外で、通常行っている活動から得られる利益(もしくは損失)、つまり営業外損益を加味したものが「経常利益」である。

経常利益は、企業が1年間で実質的に得ている利益であるため、重要な財務指標として位置付けられている。

アパレル業界において、大きな経常利益を上げているのはどこなのか、ランキングで確認してみたい。

「経常利益」ランキングの対象は、売上高ランキング同様に、アパレルメーカーからアパレル専門ネット通販サイト運営会社まで、幅広い業態を対象とし、経常利益の数値には各社が開示している直近決算期の実績を引用した。

「経常利益」ランキングTOP10

順位 会社名
<証券コード>
経常利益
1 ファーストリテイリング
<9983> 
1,528億6,800万円
2 ZOZO
<3092>
443億8,600万円
3 しまむら
<8227> 
394億400万円
4 ワークマン
<7564> 
254億900万円
5 ベルーナ
<9997>
168億7,200万円
6 西松屋チェーン
<7545>
123億7,400万円
7 ワコールホールディングス
<3591>
107億9,200万円
8 アダストリア
<2685>
29億8,100万円
9 クロスプラス
<3320>
25億3,000万円
10 ハニーズホールディングス
<2792>
24億9,700万円

経常利益ランキングTOP10と売上高ランキングTOP10の顔ぶれは大きく変わっていないが、順位については若干の変動が見られる。

売上高ランキングと経常利益ランキングで、ともに第1位だったファーストリテイリングと、売上高ランキング第2位、経常利益ランキング第3位だったしまむら、売上高ランキング第3位、経常利益ランキング第5位のベルーナ以外に、売上高ランキングより順位を大きく上げた以下の3社について紹介する。

第2位,ZOZO<3092>:ネット通販サイト運営の代表格、受託型ビジネスモデルで高利益率

ZOZOは、アパレルを中心に、さまざまなブランドやアパレルメーカーの商品を取り扱っているファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営している会社である。

アパレル業界の売上高ランキングが第10位でありながら、経常利益ランキングで第2位に躍進しているのは、ZOZOのビジネスモデルが他のアパレル関連企業とは大きく異なることに起因している。

ZOZOは衣料品などの商品をZOZO本体で直接販売しておらず、「受託型」ビジネスモデルを基本としている。ZOZOの主な収益源は「受託販売手数料」であり、ZOZOTOWNに出店するテナント企業の商品が販売された際に受け取る仕組みになっている。

受託型ビジネスモデルでは、テナント企業は自社の商品をZOZOの物流倉庫に預けるだけなので、ZOZOは仕入れを行ったり、在庫を抱えたりすることもない。

実際、2021年3月期の売上高のうち、ZOZOが商品を直接買い取っている買取ショップから上がる利益は0.2%程度、PB事業による売上げが占める割合は約0.1%だ。したがって、商品の売れ残りによる在庫リスクはゼロに限りなく近く、結果として、高い利益率を実現できる。

近年のインターネット通販の普及に加えて、コロナ禍による大型商業施設の休業や、巣ごもり需要などが追い風になり、ZOZOの2021年3月期の決算では、商品取扱高、営業利益ともに過去最高を更新した。

第4位,ワークマン<7564>:高品質で低価格の品揃えで女性からの支持がアップ

ワークマンは、作業服や安全靴などを主に全国のフランチャイズ店をとおして販売する会社である。ワーキングウェアや作業用商品の販売では圧倒的なシェアを誇る。

ワークマンでは、2018年の新業態店舗「ワークマンプラス」の出店開始を皮切りに、積極的に業態転換やスクラップ&ビルドを推進している。

ワークマンプラスでは、アウトドア、スポーツ、レインウェアなど、主に一般向けの商品を販売している。商品ラインナップに加えて、店舗のレイアウトや陳列方法なども刷新することで、既存店に比べて売上げを大幅に伸ばしている。

近年の女性向けウェア販売の好調を受けて、2020年にはインスタ世代の女性客を主体とした路面店「ワークマン女子」の実験店舗を出店した。今後は、女性客も新規顧客として積極的に取り込み、一層の売上げ伸長を目指す。

ワークマンの大きな特徴は、全店舗に占めるフランチャイズ店の割合の高さになる。その割合は、2021年3月期末において95%にものぼり、FC展開する企業の中でもっとも高い水準だ。コンビニなどに比べると、一般的に来店客が多くないため、少人数による低コスト店舗運営が可能なので、1店舗あたりの利益率が高い。

本部によるきめ細かな店舗運営支援と、高機能・低価格の自社製品の販売により、大多数の店舗は年商1億円以上の高収益店舗である。こうした状況がワークマン全体としての利益率の高さにつながっている。

第6位,西松屋チェーン<7545>:多店舗展開を進める赤ちゃん・子ども向け衣料品専門店

西松屋チェーンは1956年に姫路市で創業された、子ども、ベビー、赤ちゃん、マタニティウェアの専門店である。必要な機能や品質を追求した使い勝手の良い商品を、低価格で提供し、子どものいる家庭の暮らしが豊かになることを経営理念としている。

西松屋チェーンの店舗戦略には、アメリカのチェーンストア経営に基づく「標準化」が取り入れられており、立地条件や店舗面積、店内レイアウト、陳列方法などがもっとも合理的な形で統一されている。

標準化効果による店舗展開で業績を順調に拡大し、2004年には47都道府県すべてに店舗を設置し、全国チェーン店網を完成した。2018年には全国店舗数が1,000店舗を超え、現在も店舗網の拡大を続けている。

少子化による市場縮小が危惧される中、西松屋チェーンは今後の成長戦略の要をプライベートブランド商品の開発に据えており、子育て世代のニーズを取り入れた、機能的で高品質な商品の開発を進めている。

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3,「総資産」ランキングTOP10……資産規模が大きなアパレル会社には老舗アパレルメーカーも

保有する総資産額の大きさは、利益に関わらない企業の普遍的な規模を表している。

景気に左右されやすいアパレル業界各社の売上高や経常利益によるランキングと、総資産によるランキングでは、TOP10入りする会社に違いがあるのかを確認してみよう。

総資産ランキングについても、アパレル関連会社各社が開示する直近決算期末の総資産額を引用し、ランキング表を作成した。

「総資産」ランキングTOP10

順位 会社名
<証券コード>
総資産額
1 ファーストリテイリング
<9983> 
2兆4,119億9,000万円
2 しまむら
<8227> 
4,517億9,800万円
3 青山商事
<8219>
3,294億5,200万円
4 ワコールホールディングス
<3591>
3,227億6,100万円
5 ワールド
<3612> 
2,453億8,600万円
6 ベルーナ
<9997>
2,402億1,100万円
7 AOKIホールディングス
<8214>
2,372億6,000万円
8 オンワードホールディングス
<8016>
1,960億5,200万円
9 TSIホールディングス
<3608>
1,549億5,100万円
10 ZOZO
<3092>
1,256億5,600万円

総資産ランキングでも、アパレル業界の2強であるファーストリテイリングとしまむらの2社が第1位と第2位にそれぞれランクインした。

ファーストリテイリングとしまむらについては、利益だけでなく総資産においても、アパレル業界での優位性がわかる結果となっている。

ここでは、第3位の青山商事、第4位のワコールホールディングス、第5位のワールドの概要や特徴について解説する。

第3位,青山商事<8219>:紳士服メーカー最大手、2021年3月期は2期連続の赤字決算に

青山商事は従来、紳士服販売を中心に「より良い物をより安く、洋服の販売を通して社会に貢献する」を経営理念に掲げて、全都道府県に展開する店舗で、自社企画の紳士服の販売を行ってきた。

1964年の設立以来、業界初の郊外型店舗の出店戦略やSPAシステムの早期導入で、青山商事は紳士服専門店業界No.1の販売実績を維持してきた。その一方で、近年のオフィスウェアのカジュアル化やEC市場の拡大、冠婚葬祭の簡素化などの環境要因によって、業績の落ち込みが見られていた。

2020年に入ると、新型コロナウイルス感染拡大による卒業式や入学式の中止、テレワークの加速により、ビジネススーツの需要が大幅に減少し、2021年3月期は2期連続の赤字決算となり、期末配当無配も余儀なくされた。

コロナ禍収束後も、ビジネスウェアを取り巻く環境改善の見込みが立たないことから、2021年3月には、2024年3月期を最終年度とする中期経営計画「Aoyama Reborn 2023」を策定した。

今後は、ビジネスウェア事業の再構築と不採算店の統廃合、早期退職者の募集といった構造改革に加えて、ビジネスウェアとフォーマルだけに依存しない「スクラム経営」を推進し、グループ事業の成長を目指す。

第4位,ワコールホールディングス<3591>:高品質な商品で女性の美を追求する企業

グループの中核企業であるワコールは、1946年に創業された、女性向けのインナーウェア、アウターウェア、スポーツウェアなどの製造と販売を手掛ける老舗アパレルメーカーである。

時代が求める女性の美を追求した新製品を開発し、長く愛される高品質な商品の提供がグループの使命であり、提供する価値であるととらえている。高品質な商品を生み出す仕組みそのものがワコールの資産であり、業界におけるワコールの優位性を支えている。

売上高構成比は、国内と海外のワコール事業が約8割(2021年3月期実績)を占めており、国内のワコール事業は実店舗のウェイトが高いのが特徴である。ワコール事業以外の「その他」には、ピーチ・ジョン、七彩、ルシアンなどの子会社の事業が含まれる。

2021年3月期は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、国内で外出自粛や実店舗の休業が続き、欧州でも長期間にわたるロックダウン措置により、国内外のワコール事業は大幅減収となった。

実店舗で来店客数が減少したが、その反面、巣ごもり需要の拡大によって、各国のEC売上げが伸長した。コロナ禍の長期化を受けて、経費削減も徹底し、結果的に営業損益は修正計画並みとなった。

2021年3月期は、経費削減に加えて、財務政策として成長投資も積極的に行っており、堅調なECへの投資強化やCX(カスタマー・エクスペリエンス)戦略への投資も実施し、実質ベースの配当性向は100%となった。

第5位,ワールド<3612>:他社に先駆けてSPAを導入した大手老舗アパレルメーカー

ワールドは、1959年に、ニット婦人セーターの卸売業として設立された。1967年には、トータルコーディネートブランド「ワールドコーディネート」を開発し、1970年にワールドコーディネートだけを専門に扱う「オンリーショップ制」を導入した。

その後も、新たなトータルコーディネートブランドの開発や、ワールド商品のアンテナショップ「リザ」の出店、SPAブランド「オゾック」による百貨店SPA業態の開発、セレクトショップの展開開始、駅立地チャネル向け業態の「インデックス」、ショッピングセンター用ファミリー向けブランドの「ハッシュアッシュ」など、時代に合った業態の店舗展開を行っている。

一方、2021年3月期は新型コロナウイルス感染拡大による影響が直撃した1年となった。上半期のコア営業利益は、緊急事態宣言発令による店舗営業休止により、赤字に転落した。下半期は若干の改善が見られたものの、通期の連結最終利益としては過去最大の赤字を記録した。

2021年3月期は赤字転落を受けての構造改革も推進しており、多数のブランドを終息、および集約・移管した。不採算店舗の撤退も進めており、予想を上回る希望退職者の応募があり、費用対効果や損益改善効果が見られた。テレワーク常態化を見越したオフィス集約も段階的に進めている。

4,「時価総額」ランキングTOP10……市場規模の大きなアパレル企業は?

上場する企業の時価総額は、将来性や成長性、今後の株価上昇を織り込んだ市場価値を見るための指標である。

中小規模の上場会社が多いアパレル業界において、1強とも言えるファーストリテイリングに次いで、市場価値が高く評価されている企業を紹介する。

以下の時価総額ランキングは、「アパレル企業各社の2021年6月28日終値×発行済株式数」によって算出された時価総額をベースにしている。

「時価総額」ランキングTOP10

順位 会社名
<証券コード>
2021/6/28終値
株価(円)
2021/6/28終値基準
時価総額
1 ファーストリテイリング
<9983> 
8万4,700円 8兆9,844億4,200万円
2 ZOZO
<3092>
3,690円 1兆1,499億6,700万円
3 ワークマン
<7564> 
7,970円 6,523億1,900万円
4 しまむら
<8227> 
1万320円 3,809億4,500万円
5 西松屋チェーン
<7545>
1,589円 1,105憶7,700万円
6 アダストリア
<2685>
2,128円 1,038億4,600万円
7 ベルーナ
<9997>
969円 942億3,000万円
8 パルグループホールディングス
<2726>
1,740円 805億1,300万円
9 ユナイテッドアローズ
<7606>
2,240円 676億7,9001万円
10 AOKIホールディングス
<8214>
686円 601億2,800万円

時価総額ランキング第5位までの会社は、売上高、経常利益、あるいは総資産ランキング上位会社と大きな違いは見られない。各社の業績や企業規模と、市場からの評価がおおよそ合致していると考えてよいだろう。ここでは上位3社について解説する。

第1位,ファーストリテイリング<9983>:国内株式市場有数の値がさ株 

アパレル業界における時価総額ランキングのダントツ第1位はファーストリテイリングとなった。

ファーストリテイリングは、国内の全上場会社による時価総額ランキングでも、常に上位10社に含まれるほど、投資家からの評価が高い会社である。

株価(もしくは単元株価)においても、国内市場第1位の値がさ株になっており、単元株で購入するには、2021年6月28日終値ベースで847万円もの高額な資金を必要とする。

ファーストリテイリングの株価は非常に高いため、同社の株価の変動は、東証一部上場225銘柄で構成される日経平均株価に少なからぬ影響を及ぼす。

第2位,ZOZO<3092>:一般的な個人投資家でも単元株購入が可能

ランキング第2位のZOZOの時価総額は1兆円を大きく上回っている。第1位のファーストリテイリングとは7兆8,345億円という圧倒的な差があるものの、第3位のワークマンの時価総額とも4,976億円の開きがある。

不振のアパレル業界の中では、利益の出やすいビジネスモデルであるため、同業他社に対しては優位性がある。配送コストの一層の削減が実現し、通販事業に有利な環境が今後も続く場合には、株価の伸長も大いに期待できるだろう。

比較的購入しやすい株価であるため、36万9,000円(2021年6月28日終値基準)の資金があれば、単元株を購入可能だ。

第3位,ワークマン<7564>:今後の企業成長と株価上昇に期待感

アパレル業界にとどまらず、小売業の中でも、業態転換による売上高倍増効果や顧客層の拡大、営業利益あるいは経常利益の伸長率の高さで、今もっとも注目されている会社の一つである。

今後、店舗の業界転換の推進と女性客の取り込み強化が奏功し、大幅な業績アップにつながれば、株価上昇にも期待感をもてる。

2021年6月28日終値は7,970円であり、株価の高さは否めない。単元株購入には80万円程度の資金を用意する必要があり、買いにくさを感じる一般投資家もいるだろう。

5,「店舗数」ランキングTOP10……来店客による商品購入窓口、店舗展開戦略の見直しも

かつてのアパレル業界においては、多店舗展開は売上増加に直結する可能性のある重要な店舗戦略の一つであった。

しかし近年は、インターネット通販の普及や、コロナ禍による消費者の行動変容の影響を受けて、店舗数の多さが必ずしも売上高増加につながる要因ではなくなっている。直近事業年度中に、不採算店舗の統廃合を実施した、あるいは店舗戦略の見直しを迫られたアパレル会社も少なくない。

店舗数ランキングを見る際には、ランキング上位会社に対しては、各社の業績や店舗戦略を確認して、利益を生み出す仕組みが確立されているか、不採算店舗の撤退または統廃合が先送りされていないかなどを確認し、各社の店舗数が適切であるかを自分自身で判断したほうがよいだろう。

以下の店舗数ランキングTOP10に使用されている店舗数は、基本的には2021年6月18日付の会社四季報に掲載されている数値を引用した。

同日付の会社四季報で店舗数を確認できなかったファーストリテイリング、ワールド、パルグループホールディングス、ハニーズホールディングスの4社については、各社のホームページの店舗情報もしくは企業情報から店舗数を引用した。

「店舗数」ランキングTOP10

順位 会社名
<証券コード>
連結店舗数 店舗数の基準日
1 ファーストリテイリング
<9983> 
3,627店舗 2021年2月28日
2 ワールド<3612>  2,161店舗 2021年5月31日
3 しまむら
<8227>
2,154店舗 2021年6月18日
4 アダストリア
<2685>
1,400店舗 2021年6月18日
5 AOKIホールディングス
<8214>
1,299店舗 2021年6月18日
6 西松屋チェーン
<7545>
1,010店舗 2021年6月18日
7 パルグループホールディングス
<2726>
932店舗 2021年2月28日
8 ワークマン
<7564> 
906店舗 2021年6月16日
9 ハニーズホールディングス
<2792> 
881店舗 2020年5月31日
10 青山商事
<8219>
849店舗 2021年6月18日
※フランチャイズ店を含む

店舗数上位3社のうち、第1位のファーストリテイリングは直近決算(2020年8月期)において減収減益ではあるが、黒字を確保している。

第2位のワールドは、多数のブランドと店舗を抱えており、2021年3月期は来店客の大幅減少で赤字決算となり、店舗の統廃合を進めている。

第3位のしまむらについては、2021年2月期は増収増益となっている。

ここでは、まだ紹介していない第4位アダストリア、第5位AOKIホールディングス、第7位パルグループホールディングスの概要について解説する。

第4位,アダストリア<2685>:多彩なSPAブランドで多様化する感性に応える

アダストリアでは、25以上もの多彩なブランドを、ブランド複合店、エキナカ業態、アウトレットなどの店舗業態と組み合わせて、多様な嗜好やライフスタイルをもつ来店客のニーズに応えている。

多彩なブランドには、グローバルワーク、ニコアンド、ローリーズファーム、スタディオクリップ、ジーナシス、ページボーイなど、息が長く、安定的な顧客層をもつブランドが多い。

ECサイトの整備にも早くから着手しており、コロナ禍にあった2021年2月期において、国内EC売上高は前期比123.4%に大きく伸長した。

2021年2月期は、緊急事態宣言発令による実店舗休業による売上減に対応するため、早い段階で夏物商品の仕入れや値引きを抑制しながら、経費削減を行った結果、通期では営業利益の黒字を確保した。

第5位,AOKIホールディングス<8214>:ファッション、ブライダル、エンターテインメントの3分野に事業を拡大

「ビジネスマンが日替わりでスーツを着られる世の中にしたい」との思いをもって、AOKIは1958年に誕生した。

創業から50年以上が経過した現在では、人々の価値観やニーズが多様化するのにあわせて「人々の喜びを創造する」という新たなコンセプトを策定。ファッション事業に加えて、ブライダル事業とエンターテインメント事業にも事業領域を拡大し、事業ポートフォリオ経営による安定的な成長を目指している。

2021年3月期は、コロナ禍による店舗休業のあおりを受けて赤字決算となった。

新型コロナウイルス感染症の影響が長期化するのを見越して、今後も環境変化に適した新商品やサービスを継続的に開発・提供しながら、徹底的なコスト削減を実施する。

第7位,パルグループホールディングス<2726>:EC販売体制構築の前倒し効果あり

パルグループは衣料品を主たる事業にしており、生産のグローバル化により、高感度でリーズナブルな商品を提供している。

展開するブランドは、「チャオパニック」「フーズフーギャラリー」など約30にのぼり、各ブランドのコンセプトに応じたターゲットを設定して、営業効率の向上や、ブランドイメージあるいはCS(顧客満足)でも一流を目指した施策を行う。

2021年2月期は、来店客の激減により売上高が大幅に減少し、赤字決算となった一方で、店舗での売上減少を補う目的で、ECの販売強化を徹底し、あらゆるリソースを投入した。結果として、EC販売体制構築の前倒しとなり、自社サイト「PAL CLOSET(パルクローゼット)」の売上げが前期比78.5%増となった。

6,「従業員数」ランキングTOP10……事業規模に相応する人員配置ができているかを確認

店舗展開をするアパレル会社にとって、従業員は営業要員となり得る人的資源である。店舗数に見合った人数の人材配置は、利益率向上を期待できるため、多店舗展開を実施している会社では、従業員数の多さも重要なポイントになる。

ただし、コロナ禍により非対面型の接客が好まれる、コスト削減の観点から非正規従業員を増やす、不採算店における人員配置を見直す、業績悪化による早期退職者の募集など、企業によって店舗運営事情や人材戦略は異なっている。

従業員数は、企業の事業規模の目安程度にとらえておいたほうが無難だろう。

アパレル業界各社の正規従業員数を、2021年6月18日付会社四季報から引用し、ランキング形式でまとめた結果は以下のとおりである。

「従業員数」ランキングTOP10

順位 会社名
<証券コード>
連結従業員
1 ファーストリテイリング
<9983>
5万6,591人
2 ワコールホールディングス
<3591>
1万9,824人
3 ワールド
<3612>
9,099人
4 青山商事
<8219>
7,538人
5 オンワードホールディングス
<8016>
7,498人
6 アダストリア
<2685>
5,701人
7 TSIホールディングス
<3608>
5,172人
8 ハニーズホールディングス
<2792>
4,979人
9 ユナイテッドアローズ
<7606>
4,641人
10 パルグループホールディングス
<2726>
3,608人

従業員数でも、ファーストリテイリングは圧倒的第1位であり、他社との差は歴然としている。

第2位以下のランキングを見ると、売上高や経常利益、総資産額、時価総額TOP10ランキングとは異なっている点にも注目してほしい。

ランキング上位の常連であるしまむらやワークマンは、従業員数ランキングTOP10には含まれていない。しまむらは非正規従業員を多く店舗に配置しており、ワークマンはもともと店舗運営には最小限の人員しか必要としていない。

カタログ通販のベルーナやインターネット通販サイト運営会社のZOZOも、商品販売を目的とする実店舗をもたないため、必然的に従業員数が抑えられる。

店舗数ランキングTOP10にランクインしているアパレル会社は、従来通りの実店舗による販売を重視している会社であることに注意しておきたい。

従業員ランキングTOP10にランクインしながら、まだ取り上げていないTSIホールディングス、ハニーズホールディングス、ユナイテッドアローズの概要を以下に記載する。

第7位,TSIホールディングス<3608>:有名アパレルブランドを多数展開

TSIホールディングスは、1949年に設立された老舗アパレルメーカー「東京スタイル」と、同じく1949年設立のアパレルメーカー「サンエー・インターナショナル」が、2014年に経営統合したことによって設立された共同持株会社である。

アンドワンダー、ボッシュ、ヒューマンウーマン、ジルスチュアート、ナノ・ユニバースなどの有名アパレルブランドや、プライベートレーベル、ビバユー、ナチュラルビューティー、ボディドレッシングなどのライセンスブランドも多く展開している。

2021年2月期は、同業他社同様に、緊急事態宣言発令による休業や外出自粛などの影響を受けて、実店舗が大幅な売上減となった。その反面、ライフスタイルの変化によって、ゴルフやアスレジャー(普段着でも着られるスポーツウェア)、ストリートブランドの商品売上げが成長した。

事業改革や経費削減などを進めたものの、上半期の営業利益減少分を吸収できなかったが、一部不動産売却で特別利益を計上したことで、当期純利益は黒字を確保した。

第8位,ハニーズホールディングス<2792>:業界最短40日で新商品が店頭に並ぶ

ハニーズホールディングスは、福島県いわき市発祥のレディースファッションに特化したSPAメーカー「ハニーズ」の持株会社である。

おしゃれ着ブランドの「GLACIER」、ノンエイジブランドの「CINEMA CLUB」、ヤングカジュアルブランドの「COLZA」といった、ターゲットの違う3つのオリジナルブランドを展開している。

ハニーズのSPAシステムは多品種小ロット生産、業界最短40日で新商品が提供されるのが大きな特徴となっている。そのため、流行をいち早く取り入れた商品の販売が可能である。

2021年5月の月次の売上データでは、コロナ禍による休業や営業時間短縮店舗は増えたが、夏物衣料の販売が好調であったため、売上高は全店で前年を上回った。

第9位,ユナイテッドアローズ<7606>:ストアブランドのコンセプトに基づくセレクトショップを展開

「ユナイテッドアローズ」、「ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング」、「ディストリクト」などは、ユナイテッドアローズの代表的なストアブランドとして有名である。

男性、女性、子どもから大人まで、それぞれのニーズをとらえたブランド展開と商品展開を軸としたセレクトショップの形態をとっている。

ユナイテッドアローズのセレクトショップでは、店舗のコンセプトに合致した商品を取扱ブランドの中からセレクトして陳列・販売している。

2021年3月期は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて減収減益も、当期純損益は71億円ながら、おおむね計画値で着地した。

7,「平均年収」ランキングTOP10……就活、転職の際の参考指標

アパレル業界各社の平均年間収入ランキングは、アパレル業界への就職もしくは転職希望者にとっては欠かせない指標になるだろう。

各社の平均年収についても、2021年6月18日付会社四季報から引用し、以下のランキング表を作成した。

「平均年収」ランキングTOP10

順位 会社名
<証券コード>
平均年収
1 ファーストリテイリング
<9983>
901万円
2 ワークマン
<7564>
692万円
3 しまむら
<8227>
655万円
4 ルックホールディングス
<8029>
614万円
5 AOKIホールディングス
<8214>
606万円
6 ワコールホールディングス
<3591>
585万円
7 TSIホールディングス
<3608>
572万円
8 西松屋チェーン
<7545>
570万円
9 ZOZO
<3092>
547万円
10 ワールド
<3612> 
534万円
※全社とも、正規雇用従業員を対象とした平均年間収入である

平均年収ランキングTOP10で初めてランクインしたルックホールディングスについても、簡単に紹介しておきたい。

第4位,ルックホールディングス<8029>:輸入ブランドも手掛けるアパレルメーカー

ルックホールディングスの前身は、1962年設立の「レナウン・ルック」である。設立当初からドレスやコートの製造と販売を手掛けていた。

「ルック」に商号変更後、2018年に持株会社制に移行して、「ルックホールディングス」に商号変更、アパレル事業部門は「ルック」として完全子会社化された。

子会社のルックでは、「マリメッコ」、「キース」、「コレット」などのブランド商品を、輸入ならびに企画・販売している。

8,コロナ禍の影響が深刻なアパレル業界、独自戦略で好調な会社も

消費者の嗜好の変化やアパレル業界の構造上の問題など、さまざまな理由によって、多くのアパレル企業は業績悪化が顕著になり、店舗の統廃合や構造改革に着手していた。2021年以降の新型コロナウイルス感染拡大は、実店舗の休業や営業時間短縮を強いることになり、不振のアパレル業界にとどめを刺すことになった。

アパレル業界が不況に陥る中でも、減収減益ながらも最終黒字を確保しているファーストリテイリング、業績が堅調なしまむら、西松屋チェーン、ワークマン、巣ごもり需要が追い風になったインターネット通販サイト運営のZOZOあるいは通販カタログ販売のベルーナなど、注目すべき会社もある。

この機会に、アパレル業界の中でも、赤字決算に陥った会社と、黒字決算を維持もしくは業績好調な会社のビジネスモデルや経営戦略、店舗展開戦略の違いなどを比較して、不況下にも強い理由を精査してみるのもよいだろう。

近藤真理
執筆・近藤真理
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。

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