世の中にはゲームが現実に悪影響を及ぼすという議論があるようですが、実際は逆なのかもしれません。
10月21日にオープンアクセスジャーナル『PLOS ONE』に発表された研究は、オンラインゲーム「EVE Online」を使ったプレイヤーの行動と、プレイヤーが住む国家の状況を比較した結果、現実世界の環境がゲーム内の行動に影響を与えている証拠を発見したと報告しています。
これは、逆に仮想世界を使用して社会的あるいは経済的な実験を行うことで、国レベルで現実世界の行動を推測できる可能性も示唆しています。
目次
なぜオンラインゲーム「EVE Online」が選ばれたのか?
現実世界とゲームの世界の比較
なぜオンラインゲーム「EVE Online」が選ばれたのか?
「EVE Online」は7000以上の星系からなる宇宙で、さまざまな宇宙船を乗り回して生活できるオンラインゲームです。
このゲームのプレイスタイルは非常に自由度が高く、領土を巡る戦争、政治、海賊行為、経済取引から宇宙探索まで、好きなように遊び方を探して楽しむことができます。
数万人規模のプレイヤー常にこの宇宙に接続していて、毎日100万以上の市場取引がなされ、毎時750以上の宇宙船が破壊されていると公式ページでも説明されています。
そして、世界規模で展開するこのゲームでは200以上の国と地域からプレイヤーが参加しています。
このため、「EVE Online」の世界ではアイテムの原料を採掘し、製造し、輸送を伴った取引によって独自の経済を作り出しており、さらにスパイ活動や戦争を伴った複雑な駆け引きのある世界が生み出されています。
今回研究のターゲットとして選ばれたのも、その自由度の高い設定と、多用なゲーム人口によるものです。
研究では2011年12月から2016年12月までの61カ月間の貿易活動と社会経済活動について「EVE Online」から収集されたデータに基づいています。
現実世界とゲームの世界の比較
ゲーム内のプレイヤーの社会的、経済的行動は、ゲーム内の経済活動の評価と、戦争などの攻撃性を測定して行われました。
攻撃性の比較には、現実世界でプレイヤーが所属する国の世界平和度指数(暴力、犯罪、軍事費、戦争などを参考に地域の平和状況を数値化したもの)と世界テロ指数(過去にその国で起きたテロ事件の数・犠牲者数等を参考に数値化したもの)が使用されました。
また経済的行動の比較には、現実でプレイヤーが所属する国の消費者物価指数(CPI)、実質実効為替相場(REER)、失業率(UNEMP)から見た社会経済的特徴が参照されました。
この結果研究チームは、プレイヤーのNPC(人間プレイヤー以外のゲーム内キャラクター)に対する攻撃性が、プレイヤーの母国における実際の攻撃性の評価と正の関係を持つことを発見しました。
ただし「攻撃的」と評価された国に住んでいるプレイヤーは、安全な国に住んでいるプレイヤーに比べて、仲間のプレイヤーに対する攻撃性は低いことが示されています。
また経済的行動はプレイヤーが住むマクロ経済環境と相関があり、失業率が高く通貨が安い国のプレイヤーはゲーム内での取引をより慎重かつ効率的に行うことがわかりました。
上の図は接続者数100人以上の国のゲーム内社会経済プロファイルの類似性を、国ごとに比較したものです。
類似度は1が最大(赤色)で、-1がまったく類似性がない(青色)となっています。
これを確認すると、地理的に近い国同士はゲーム内での行動が類似している傾向がありました。つまり地域的な状況にゲーム内行動が左右されている可能性が高いということです。
例えばロシアとウクライナ、フランスとイギリス、ドイツとオーストリアなどはそれぞれ同じプロファイルを持っています。逆にカナダとウクライナの類似度は-0.98というもっとも低い類似度を示しました。