2020年1~2月に早期退職者を募集した上場企業数は、前年同期比の2倍以上になった。新型コロナウイルスが日本経済に影響を与え始めたのが3月からだとすると、コロナウイルスによる業績悪化だけが早期退職者を募集した理由ではないだろう。募集が多かった業界を含めて、最新の状況を解説していく。

今年1~2月、上場企業による早期・希望退職者の募集は2.1倍の19社に

「東京商工リサーチ」によれば、2019年の1~2月に早期・希望退職者の募集を実施した上場企業は9社。一方で2020年の1~2月は19社が募集を行っており、2倍以上に増えているのだ。

東京商工リサーチはこの理由として、新型コロナウイルスの感染拡大による影響だけではなく、新規事業の展開に伴って既存事業や人員を見直す企業が増えたことや、昨年10月の消費税の増税や暖冬の影響を受けた企業が多かったことなどを挙げている。

早期・希望退職者募集が多かった業種は、「小売」や「食料品」だ。いずれも有名企業による募集が目立っているが、その背景も含めて詳細を解説する。

小売:ファミリーマート、三越伊勢丹HD、ラオックス−― 一部コロナによる業績悪化を理由に希望退職者を募集

小売業界で今年1~2月に早期・希望退職者を募集した企業は、三越伊勢丹ホールディングスとファミリーマート、免税店大手ラオックスの3社だ。

ファミリーマート−―1,025人もの早期退職が決定

ファミリーマートは、2月3~7日に早期退職者を募集した。その理由は、組織のスリム化や業務効率の向上を通じて競争力を高めるため、としている。2月末に結果が発表され、予定の800人を超える1,111人の応募があり、結果的に1,025人の早期退職が決まったことが明らかになった。

三越伊勢丹ホールディングス−―希望退職制度に約67億円

百貨店大手の三越伊勢丹ホールディングスは、新潟三越伊勢丹の閉店などに合わせ、希望退職支援制度を実施することを明らかにしている。これによって、特別損失を約67億円計上するという。

ラオックス−―コロナの影響での人員整理

一方ラオックスは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けての募集だった。2月17日から1ヵ月弱の間に早期退職者を募集し、グループ会社を含めると160人程度の募集に対し、結果的に111人の応募があった。主要顧客だった中国からの旅行者が激減したことが主な理由で、早急な人員見直しを余儀なくされたようだ。

食料品:味の素、キリンHD、サッポロHD−―将来を見据えた希望退職者の募集

食料品業界では、味の素とキリンホールディングス、サッポロホールディングスが早期・希望退職者の募集を発表している。

味の素−―中長期の成長を見据えた希望退職者の募集

味の素の募集理由は、「中長期のサステナブルな成長の実現」(プレスリリースより)を目指すためだ。100人程度を募集し、結果として144人の応募があった。

キリンホールディングス、サッポロホールディングス−―人材の最適化を目指す

キリンホールディングスは詳細を公表していないが、人員の最適化を目指す「先行型」の募集と見られている。サッポロホールディングスの募集は、「人財配置の適正化」を目指すものだ。

食料品業界における早期退職者募集は、新型コロナウイルスの影響というよりも、成長分野への事業のシフトやグローバル展開を加速させるための人員整理という側面が強いようだ
 

今年はコロナ禍で募集が増えるのはほぼ確実

1~2月は、新型コロナウイルスの影響が直接の要因となった早期退職者募集は少なかったが、募集を実施した企業は増えた。さらなる成長に向けた「攻めの募集」が多かったと言えるだろう。

これまでの早期・希望退職者の募集といえば、ITバブルの崩壊やリーマンショックなど、企業の業績悪化に端を発するものがほとんどだった。今回紹介したものとそれらとは、まったく違う。

ただし今後は、早期・希望退職者募集の理由が「業績悪化」に変わっていくことは間違いないだろう。今回のラオックスのような募集を実施せざるを得ないケースが増えていくことは、ほぼ確実だ。特にダメージが大きい飲食業界では、退職者募集が相次ぐことになりそうだ。
 

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)
 

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