「お茶くみは女性の仕事」「女性は結婚を機に退職して家庭に入るもの」。数十年前の日本企業では、このような価値観が一般的だった。今のあなたの職場はどうだろうか?時代は移り、このような価値観が今も色濃く残る企業は少ないかもしれない。
だが、性別によって職務が分けられたり、管理職登用に男性が優先されたりすることはないだろうか?人口減少が進む日本において、女性の活躍については政府も力を入れるところだが、女性が活躍できる社会の実現にはまだまだ課題が多い。
そこで今回は、厚生労働省の委託事業で、女性の就労支援を行う施設・団体等を対象に、相談受付や資料提供、講師派遣など様々な取り組みを行う「女性就業支援全国展開事業」に着目。取り組みを統括する厚生労働省、雇用機会均等課長・石津克己氏に、女性活躍推進の現状と、民間企業や働く人へのメッセージを語ってもらった。
厚生労働省 雇用環境・均等局 雇用機会均等課長。愛媛県出身。1995年、労働省(当時)に入省。厚生労働省では、雇用均等・児童家庭局短時間・在宅労働課課長補佐としてパートタイム労働法の改正に、職業安定局派遣・有期労働対策部企画課課長補佐として非正規労働者対策の取りまとめに関わる。在イギリス日本大使館一等書記官、総務省人事・恩給局(現内閣人事局)調査官、内閣府子ども・子育て本部企画官など他省庁への出向を経て、厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課長などを歴任。民間企業(電機メーカー)に出向して営業に従事した経験あり。2021年9月から現職。
無意識に役割分担し、可能性を狭めていないか?
「女性の活躍を推進しないといけないということは、裏を返せば、女性の活躍が十分に実現できていない現状があるということです」。こう石津氏は言う。ずいぶん前から「女性活躍」が謳われてきたが、今も女性それぞれが能力を十分に発揮している世の中になったとは言いづらい。この背景には何があるのだろうか。
日本企業で女性の活躍が進みにくい要因のひとつは、企業や上司、あるいは女性自身の無意識的な区別にある。石津氏は問いかけた。
「例えば、男性の上司や人事担当者が“良かれと思って”、負担が少ないところに女性を配置していないでしょうか。人は少し難しい仕事を任されることによって能力が伸びていく側面があります。その機会を知らず知らずのうちに奪っていないでしょうか?」(石津氏)
このような「役割分担」的行動は、無意識のうちに行われている。また、管理職登用の場面で、無意識的に男性を優先してしまっているケースもあるのではないだろうか。そこには、「女性は妊娠や出産によって辞めてしまうかもしれない」というリスクを回避する思考が働いている可能性が高い。
だが、「これまでの慣習」に従って配置や登用を決めていては、企業の文化が変わることはない。そういった先輩社員を見た女性社員が、「やっぱり女性は頑張ってもダメなんだ」と思うようになれば、さらにその文化が強化され、再生産されていく。
そうなればその企業は、貴重な戦力となりうる女性に選ばれなくなり、いずれ労働力不足に悩まされることになるだろう。石津氏は、「1つひとつの企業で、本当に偏見なく採用や管理職登用しているかを点検していただく必要がある」と語る。
「女性就業を支援する人を支援する」取り組み
女性活躍は政府の取り組むべき重点的な課題と位置づけられている。数十年前と比べれば、女性の就業率は高まり、職域や就業分野もどんどん広くなっているが、依然として女性が働き続けるためには越えなければならない困難がたくさんある。
ここで石津氏に、厚生労働省が行う「女性就業支援全国展開事業」の取り組みについて聞いた。
「女性が働く意欲を失うことなく、職業生活を通じて健康を維持増進しながら、その能力も伸ばせるような環境を整備することが必要です。そこで厚生労働省は2011(平成23)年度から『女性就業支援全国展開事業』を実施しております」(石津氏)
女性就業支援全国展開事業は、直接的に「働く女性個人」の支援をする以上に、「女性支援を行う企業や団体」をバックアップする事業として始まったものだ。その取り組みの1つとしてWebサイト「女性就業支援バックアップナビ」を運営している。
他にも、企業・団体からの相談受付や、女性就労支援や女性の活躍に資する資料の提供、研修講師の派遣なども、女性就業支援全国展開事業の一種だ。講師派遣は例年120件ほどに上り、「ハラスメントのない職場」「子育てママのキャリア・デザイン」「働く女性のストレス対処」など、女性の就業支援や健康管理支援に関する内容を、希望に合わせて実施している。
また一方で、働く女性個人の健康を応援する「働く女性の健康応援サイト」も2021年1月に立ち上げたという。これは、妊娠や出産という、男性とは違う特性を持つ女性たちが健康に働くための正しい情報発信の必要性を感じたことがきっかけだ。
金融保険業は特に意識して女性を採用している
現在、女性の割合が高い職種は、①医療福祉、②金融保険、③生活関連サービスや娯楽(サービス業)。管理職の割合が高い職種は、①医療福祉、②生活関連サービスや娯楽、③教育学習支援となっている(令和2年度 雇用均等基本調査より)。
なぜこれらの業界では女性活躍が進むのか。その理由について、石津氏は、「業種や職種の特性」に加えて、「企業の経営者や人事労務担当者の意識」を挙げた。
「これらの業界は、『偏見なく女性を採用し、大いに能力を伸ばし、発揮していただくことが企業の存続に決定的に大事である』という認識を持っている企業が多い業界であると考えています。特に金融保険業界は、間違いなく長期的なキャリア形成を強く意識して採用・教育を行っています」(石津氏)
ここに挙げられていない業界でも、個々の企業で女性活躍を意識した取り組み事例はどんどん出てきているという。
例えば、画像処理やデザイン業務を行う株式会社浅野製版所は、「多様性を認め、社員がどのような状態であっても働き続けることができる企業」をコンセプトに健康経営を実施している。乳がん・子宮頸がん検診の実施に加え、男性社員が女性の体の不調に対する理解を深め、急な休みにも対応できるサポート体制を構築している。性別問わず、病気や体調のことも気軽に相談できる、安心して働ける風土づくりを目指しているという。
また、国土交通省は、女性タクシードライバーの新規就労・定着に取り組む事業者を認定し、認定事業者を国土交通省HPで紹介。他のタクシー事業者にも女性活躍を意識してもらうよう促している。このような多業界の事例を今後も多く集め、発信していくと石津氏は言う。
「例えば、建設業であれば女性の採用が課題です。金融保険業であれば、さらなる女性の管理職登用が課題です。このような各業界の課題は克服できるものです。私どもは常に良い事例を収集し、全国津々浦々の経営者の方々に届けることで『我々の会社でもできるかもしれないな』と思っていただけるよう尽力していきたいと思います」(石津氏)
企業が生き残るためにも女性活躍は必須
厚生労働省は2022年4月から、女性就業支援全国展開事業の一環として、女性活躍に関する課題の発見、推進への取り組みについて企業へのコンサルティング等を行う「民間企業における女性活躍促進事業」を新たに始める予定だ。
また、「女性活躍推進法に基づく行動計画の作成」の義務化の範囲が、2022年4月1日から常用労働者数101人以上の企業(これまでは301人以上)まで拡大される。女性活躍への意識をより強く持ってもらいたいという政府の意向が表れた形だ。
最後に石津氏は、企業経営者や働く女性に向け、力強く語った。
「日本国内ではどの業界、どの企業でも、これからさらに目に見えて働き手が減っていきます。そのときに、いま目の前にいる日本の女性に活躍していただけないような企業が、海外の百戦錬磨の企業と戦うことができるでしょうか。女性に働き続けていただくこと、能力を磨いてそれを発揮していただくことは今後の最重要課題のひとつです。経営者の方にはそのことを強くご認識いただき、女性の皆様にも、日本社会において自分たちの力が必要とされているんだという気持ちで仕事を続け、能力を発揮していただければと思います」(石津氏)
文・MONEY TIMES編集部
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