南米発のデジタルバンク「Nubank(ヌーバンク)」がニューヨーク証券取引所に上場し、注目を浴びている。今話題のフィンテック企業は、どのようなビジネスモデルを構築しているのだろうか。

2021年12月9日に上場したヌーバンク

バークシャーやセコイア、テンセントなどが出資

ヌーバンクは2021年12月に上場するまで、計12の資金調達ラウンドを実施している。序盤は米大手のセコイアキャピタルと新進気鋭の投資会社タイガーグローバルマネジメントが中心となり、その後中国IT大手のテンセントや、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイなどが加わっった。

セコイアは過去にアップルやグーグル、YouTubeなどのテクノロジー企業に投資した実績を持つ。一方のバークシャーはアップルやコカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス、ムーディーズなどの大株主として知られる。

ヌーバンクは、このような世界有数の投資会社の期待を一身に背負っているのだ。

株価は平穏に推移

ヌーバンクは2021年12月9日にニューヨーク証券取引所に上場し、初値は11.25ドルだった。

初日の終値は10.33ドル、12月22日の終値は9.12ドルで、終値ベースの時価総額は約461億ドル(約5兆2,650億円)だ。同社の主戦場が中南米市場であることなどから、今は様子を見ている投資家も多いだろう。

そもそもヌーバンクのビジネスモデルは?

ヌーバンクはブラジルやメキシコ、コロンビアを中心にデジタル金融サービスを展開するテクノロジー企業だ。2013年に設立され、モバイルアプリで決済ができるクレジットカード事業を皮切りに、デビッドカードや実店舗を持たないデジタルバンクとして普通預金口座を提供するなど、南米初の本格的なフィンテック企業として注目を浴びている。

ネットバンクやキャッシュレス決済が浸透している日本にとってはそれほど珍しくないが、ヌーバンクが話題になった背景には南米の銀行事情がある。

同社創業者兼CEO(最高経営責任者)のDavid Vélez氏がブラジルで銀行口座を開設しようとした際、それに要する手間や手数料などサービスの質の悪さに閉口したという。主要銀行による寡占化が、同国の金融サービス全般の質を著しく悪化させていたのだ。

このような環境にイノベーションを起こそうと立ち上げられたのがヌーバンクだ。自国の金融サービスに不満を持つ国民や、スマートフォンから気軽に利用できる環境などが支持され、利用者は現在4,800万人を超えている。

ヌーバンクは銀行にあらず

「Nubankアカウント」の口座維持費は無料で、デビッド機能を備えたカードだけでなく預金額に応じた利子も付与される。他行への送金をはじめ、電気や水道といった公共料金のオンライン決済なども可能だ。

ヌーバンクは、厳密には銀行ではなく決済機関だが、口座そのものをソリューション化したNubankアカウントを開設することで、銀行同様のサービスを受けられる。

18歳以上でスマートフォンを所持している人がアカウントを開設できるが、銀行口座開設に比べればハードルは非常に低い。

銀行口座非保有層から大きな支持

前述のとおり中南米の既存銀行のサービスは質が悪く、また地域柄か金融サービスへの依存度が低い。世界銀行の調査(2017年)によると、ブラジルでは国民の約30%、メキシコでは約65%が銀行口座を保有していないという。

そのような地域に突如として登場したフィンテックのインパクトは非常に大きく、これまで銀行口座を保有していなかった層からも支持され、わずか数年で上場に至ったと思われる。

ビジネスエリアはブラジルを中心にメキシコ、コロンビアなど、順次拡大しているようだ。ビジネスモデルとしては、クレジットカード利用時の手数料収入や個人ローンの利子などを主な収入としており、生命保険事業なども手掛けている。

右肩上がりの成長、黒字化もまもなく?

ヌーバンクの2020年の売上高は、前年比20%増の7億3,700万ドル。2021年は第3四半期(1~9月)までで10億6,200万ドルに達しており、ほぼ倍増するペースで伸びている。一方で2020年の営業損失は1億7,200万ドルで、2021年第3四半期においても9,900万ドルの赤字となっている。

まだ赤字から脱却できていない状況だが、ブラジル・メキシコ・コロンビアの人口は計4億人弱なので利用者数はまだ伸びる余地が十分あり、上場効果なども考慮すれば比較的早く黒字化する可能性もある。

懸念点はないの?与信管理が課題に

スマートフォンがあれば気軽にアカウント(口座)を開設でき、クレジットカード機能などを利用できるというメリットにはリスクも潜んでいる。それは与信管理だ。

すべての利用者が審査なしでクレジット機能を使えるわけではないようだが、スマートフォンに依存したビジネスモデルでは相手の顔が見えず、返済能力などを把握しにくい。

フィンテック企業として、AIの活用などでいかに効率的かつ効果的に与信管理能力を高めていくかが課題となりそうだ。

フィンテックの進化に注目

今後も業績の拡大が予想されるヌーバンク。サービスそのものはとりわけ珍しいものではないが、中南米の金融業界にくさびを打ち込んだ格好だ。

日本でも、従来の銀行のビジネスモデルは転換期を迎えているといわれる。今後も引き続きフィンテックの進化に注目したい。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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